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vol 115 水際作戦はパフォーマンスだった

医療ガバナンス学会 (2010年3月30日 07:00)


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石岡荘十
2010年3月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会の委員長でもある尾身茂委員長(自治医大教授)は3月23日の記者会見で今回のインフルエンザ”騒動”を中間総括した。この中で尾身委員長は事実上、水際作戦が政治的なパフォーマンスであったという見解を、政府関係者としては始めて明らかにした。

海外からに帰国者を空港で厳しきチェックする”水際作戦”が始まったのは昨年4月28日のことだった。テレビは、SF映画でしか見たことのないような防護服に身を包んだ検疫官が右往左往する有様を繰り返し放送し、危機感を煽った。舛添前厚労相は深夜テレビで国民に対して「冷静に行動するように—」と呼びかけたが、後に「あんたが冷静になれよ」と揶揄される有様だった。

尾身委員長によれば、厚労省に呼び出されたのは4日後の5月1日だった。その時にはすでに防疫法に基づく非常行動発令のボタンが入ってしまった後だった。アドバイスを求められたのは、感染の疑いがあるとして空港近くのホテルに停留、つまり隔離・軟禁状態に置かれている海外からの帰国者の扱いについてであった。10日間停留となっていたのを潜在期間のメドとなっている1週間に短縮したほうがいいではないかと提言して、そうなった。

尾身委員長は言う。
「空港で1人の感染者も入れないといくら頑張ったって、潜伏期間のある感染者がすり抜けて国内に入ってくるだろうということくらいは、官僚(医系技官)だって分かっていたはずだが、WHO(世界保健機関)が警報を発している状況の中で、検疫レベルで何もしないのでは、国民に批判されたときにそれに耐えられるか。そう考えた。だがやり過ぎた。その結果、国内対策へのシフトが遅れた。地域医療施設へのフォローアップが遅くなった。この2点が今回の最大の教訓だと思う。地方自治体に対して、地域医療対策に力を入れるよう指令したのだが行き届かず、コミュニケーションがうまく取れなかった。水際作戦に気が行ってしまった。コストパフォーマンスからいっても問題はあった。」

水際作戦は事実上、政治的なパフォーマンスだった側面があったことを認める発言である。当時、羽田の検疫所で勤務していた現役の医系技官、木村盛世検疫官は、政権交代前の昨年5月、参議院の集中審議で参考人として出席し、民主党の鈴木寛参議院議員(現、文部科学省副大臣)との質疑の中で「水際作戦は疫学的には無意味だ。政治的なパフォーマンスに過ぎない」と切って捨てているが、尾身発言はこの木村証言を裏付けるものとなった。

筆者が尾身委員長に訊いた。
Q:あれをやったのは間違いだったという反省点はないのか。
A:やり過ぎだったというところはある。しかし、患者の致死率は圧倒的に日本が少ない。(米;3.3、メキシコ;2.9、カナダ;2.8、日本;0.2)。学級閉鎖の効果もあった。はじめから患者の重症化を防ぐことが最重点目的だったからその意味で対策は成功だった。

Q:不評だったワクチン10mlバイアルの件は?
A:ともかく早く量を確保し、市場に供給とあせってああいうことになってしまった。今後の教訓としたい。地方の保健所が21万人に及ぶ海外渡航歴のある人の追跡調査を電話でやったが、もっと能率的な方法もあったのではないかと思っている。

Q:いろいろなところで、すでに厚労省の対応に対する厳しい批判が出ているが—
A:結果だけを見て場違いな批判もある
尾身氏はこうさらっとかわした。
要するに、尾身氏による総括は「行き過ぎやタイミングを間違ったところはあるが、うまくいった」という結論であった。

政府は今月から6月にかけて委員会を開き正式な総括をまとめる考えだが、会議をリードするであろう尾身氏の考えを見ると、総括をめぐって、これまでを上回るさらに広範囲な議論を巻き起こすことになるだろう。

なお、終息宣言を出すかどうかについては、WHOの動向を受けて考えたいという。

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