最新記事一覧

Vol.163 致死率ほぼ100%の”狂犬病” 海外渡航前に気をつけるべきこととは?

医療ガバナンス学会 (2019年9月20日 06:00)


■ 関連タグ

この原稿はAERA dot.(5月22日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019052000037.html

ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈

2019年9月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「海外旅行先でサルにかまれてしまいました」「ネコにかまれて、現地で1回ワクチンを接種して帰国しました」

このように、大型連休明けの勤務先のクリニックでは連休中の旅行先で動物にかまれてしまったというケースが、多く見受けられました。

5月11日、フィリピンを旅行中に犬と接触した24歳のノルウェー人女性が、帰国後「狂犬病」を発症した後、死亡したとのニュースが全世界を駆け巡りました。海外へ渡航する前の狂犬病ワクチンの接種の必要性を実感していた直後のことでした。

死亡した女性は、2月に友人と共にフィリピンを訪問中にやせ細った子犬を路上で発見。彼女はその子犬を宿泊先のホテルに連れて帰り、ケアをしたところ次第に回復し、ホテルにいた他の犬とも元気に遊ぶようになったのですが、彼女もその際、指をかまれてしまったといいます。狂犬病の予防ワクチンを接種していなかったにもかかわらず、かまれた後も狂犬病に対して未治療のまま帰国し、その後体調を崩して死亡に至ってしまったというのです。

「狂犬病」は「イヌ」にだけかまれると感染すると思っていませんか。「イヌが感染しないようにワクチン接種している病気じゃないの?」と思っていませんか。実は、感染源となる狂犬病ウイルスは全ての哺乳動物に感染する可能性があります。私たちが狂犬病に感染して発症すれば、ほぼ100%死亡する、極めて恐ろしい感染症なのです。

そこで、今回は「狂犬病」についてお話ししたいと思います。狂犬病は、狂犬病ウイルスに感染している動物にかまれたり、傷口や粘膜をなめられることで唾液が体内に入り、その唾液に含まれるウイルスが侵入してくることで感染します。日本やスウェーデン、アイスランドやアイルランド、ニュージーランドやグアム、ハワイ諸島などの一部の国を除いて、世界150カ国以上の国と地域で発生していることが報告されており、海外ではほとんどの国で感染する可能性がある病気です。

日本は、世界でも数少ない狂犬病清浄国。1957 年以降、国内で狂犬病は発生していません。ネパールで犬にかまれ帰国後に発症した事例が70年に、フィリピンで犬にかまれ帰国後に発症した事例が2件あったのみです。イヌへのワクチン接種の義務化やわが国が島国であることがその要因として考えられています。

2004年の世界保健機関(WHO)の調べによると、狂犬病ウイルスに暴露された後の年間推計ワクチン接種者数は1500万人であるにもかかわらず、狂犬病の年間推計死亡者数は5万5千人。そのうちアジア地域が3万1千人、アフリカ地域が2万4千人を占めています。また、ヒトにおける狂犬病の感染源の99%がイヌであったと報告されています。

しかしながら、感染源となる動物はイヌだけではありません。ヨーロッパではキツネやコウモリ、アジアではイヌやキツネやコウモリ、アフリカではコウモリやマングースやジャッカル、北米ではアライグマやスカンクなどがからの感染も報告されているのです。なお、ヒトからヒトに感染することはないため、感染した患者から感染が拡大することはありません。

感染から発症までの潜伏期間は1~3カ月。侵入した狂犬病ウイルスの量やかまれた部位、傷口の程度によってさまざまであり、まれに1週間から長いと1年という歳月を経て発症したというケースもあります。

発症すると、発熱、頭痛、倦怠(けんたい)感、食欲不振、といった感冒のような症状などが生じることから始まります。そして、ウイルスが中枢神経に広がるにつれて、不安感、恐水症(水への恐怖)および恐風症(冷たい風への恐怖)、興奮状態、まひ、幻覚、精神錯乱などの神経症状脳や中枢神経には進行性の致命的な炎症が生じます。これらの症状が生じると数日後には昏睡(こんすい)状態となり、死んでしまうのです。

残念ながら、狂犬病後の有効な治療法は現時点ではありません。感染しないようにするためには、旅行先などで不用意にイヌをはじめとした野生動物に近づかないという注意とともに、渡航前の狂犬病ワクチン接種が大切です。

4週間隔で2回接種、6~12ヶ月後に3回目の接種を行うことで、高い確率で免疫を得ることができ、狂犬病に対して1年から1年半の予防効果が期待できます。渡航前までに3回接種を終える時間がなさそうだ、という場合、2回だけでも接種して渡航しておくといいでしょう。

しかし、こちらから近づいてはいなくても、イヌにかまれてしまった、コウモリに襲われてしまった、なんてケースが起きてしまうことも十分考えられますよね。

渡航前にワクチンを接種していても、接種していなくても、渡航先で動物にかまれたり、引っかかれたり、なめられてしまったりぶつかった場合には、とにもかくにも、できるだけ早急に、大量の水で傷口を徹底的に洗うことが大切です。その上でワクチン接種が必要となりますので、すぐに病院を受診してください。

予防接種を受けていなかった場合、初回接種日を0日として、3日、7日、14日、30日、90日の計6回のワクチン接種による発症を予防することができると言われています。予防接種を受けていた場合も、接種初日と3日後の2回のワクチン接種が必要です。

発症すれば、ほぼ100%死亡する狂犬病。海外旅行へ行くことが決まった、行こうと思っているという方は、余裕を持って狂犬病ワクチンを接種していただきたいと思います。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ