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Vol. 119 現役医系技官がインフル総括に反論

医療ガバナンス学会 (2010年4月2日 07:00)


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石岡莊十
2010年4月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


尾身先生の新型インフルエンザ中間総括に対し、この中でも取り上げた現役医系技官木村もりよ検疫官が「今更何を言うのか」と反論している。

中間総括は厚労省の新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会の委員長でもある尾身茂自治医大教授が明らかにしたもの。事実上、水際作戦が政治的パフォーマンスであったことを政府関係者として始めて認めながら、しかし、「行き過ぎやタイミングを間違ったところはあるが、うまくいった」と結論付けている。

http://www.melma.com/backnumber_108241/ 「水際作戦はパフォーマンスだった」

筆者が上記、中間総括の内容を木村氏に伝えて反論を聞いた。こうだ。
「水際作戦の無意味さは当初から分かっていたことであり、今更何を言うのか、という感じ。審議会の議事録も満足に残していない委員長はどうやって今回の新型インフルエンザ対策の総括をするつもりなのかと思う。新型対策が個人の思いつきで始まり、総括も個人の感想で終わる。これが国の総括として扱われることはおかしい」

ここでいう<議事録も満足に残していない—>、このくだりは説明が必要だ。新型インフルエンザがパンデミックで大騒ぎになった頃の会議録2・3回分が残っていないことが最近になって明らかとなり、問題となっているのだ。会議録も満足に残していない厚労省の事務方(医系技官)がどうやって新型インフルエンザの総括をするのかと木村氏は指摘しているのである。この件について尾身委員長に質すと、「対策に追われて、それどころではなかったのだろう」と官僚をがばっている。

木村氏はさらに<日本の新型死亡率が低かったことについてはきちんとしたデータを元にした多角的な考察が必要であろうが、世界でもっとも効率的な医療を提供している臨床現場の頑張りが大きく貢献していると考えられる。少なくとも尾身委員長のおかげではないだろう>と容赦ない。

自画自賛ともいえそうな、尾身委員長の中間総括の考え方を批判する論議はなにも今始まったわけではない。

先月19日の厚生科学審議会感染症分科会でのことだ。黒岩祐治委員(元民放キャスター、現在国際医療福祉大教授)の会議中の発言はこうだ。
「チフスのようなもののパンデミックが起きたかのように飛行機を止めて防護服を着てウロウロして水際作戦だと言ってやった。しかも途中途中で水際作戦がうまく行っているとアナウンスして。しかし結果から見れば全くのウソ。誰がどこでどのように間違えたのか総括してもらいたい。厚生労働省に確認したい。国民は今回の騒動に振り回され騙されたと思っている。総括はしたのか、してないとするならする気はあるのか。ワクチン接種の優先順位付けを国がやるかどうかも、今後の議論の対象に入れてほしい。それから厚労省の総括が行われるならそれを見守りたい」

また新型インフルエンザで大騒ぎをしている当時、現職の医系技官で大臣政策室の政策官を務め、舛添前厚労相のアドバイザー的役割を果たした村重直子氏は昨年9月、医療関係者を読者に持つメーマガジンMRICでこう述べている。
「日本の新型インフルエンザ対策は、目的が定まらず、ブレ続けてきました。公衆衛生の専門家であるはずの医系技官が勉強不足のために、何を目的として対策を行っているのか理解していないからです。医系技官というのは、医師免許を持つキャリア官僚ですが、終身雇用や2年毎のローテーションシステムの中で、公衆衛生の専門性さえ失ってしまった集団としか言いようがありません。(中略)本来、患者への医療に専念してもらわねばならない医療機関に、これほどの責任と負担を負わせるのでは、新型インフルエンザ対策とは、医系技官による人災なのか、ウイルスによる天災なのか、わからなくなります」

官僚組織の真っ只中にあって実感したこの批判に、尾身委員長はどう答えるのだろうか。

村重氏は東京大学医学部卒、アメリカや日本国内の医療現場で武者修行をした後、厚労省に入省した変り種で、政権交代後は仙石由人大臣の許で仕事をしていたが、医系技官に愛想を尽かし今月15日、退職してしまった。

「仙谷大臣のところでは医療にあまりかかわりのない仕事でした。医系技官でいることに意味がないと思って辞めました」とその心境を筆者に語った
村重氏と同じようにアメリカで学び、帰国後厚労省に途中入省、現役の医系技官としては村重氏の先輩でありながら終始、厚労省の医療行政のあり方を批判し続けている木村氏は、村重氏が退職したことについて筆者へのメールでこう言っている。

「今まで内部から声を上げてきた同僚として残念である。ご本人の考えでの退職であろうが、もう少し内部で頑張ってほしかったと思う。言論の自由が持てないということを彼女が言っていたが、村重氏のバックグラウンド(舛添→仙谷)を考えると私とは違った制約があったのではないかと推察する」

政府は今月から6月にかけて委員会を開き正式な総括をまとめる考えだが、政府としての正式の総括が、すんなりゴールするとはとても思えない。

なお、木村氏、村重氏について詳細は下記。

http://www.melma.com/backnumber_108241_4604026/

「感染症プロ、3女性に注目!」

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