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Vol.169 医薬品情報に翻弄される医療従事者と患者さん

医療ガバナンス学会 (2019年10月1日 06:00)


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薬剤師(宮城県仙台市)
橋本貴尚

2019年10月1日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今回は、医薬品情報が多様化且つ複雑化する昨今、その「情報」に翻弄される医療従事者と患者さんについて考えてみたいと思います。

事例1
多職種が集う仙台市民向け健康フェアに、薬剤師として参加した時のことです。僕は薬剤師会のブースで、健康相談員として、希望する市民に対してお薬のことを中心に何でも話を聞く担当となりました。
初めに先輩薬剤師に言われたのは、「こういう健康イベントに、統合失調症の方とかがよくいらっしゃいます。こういったブースで何十分もお話をされていきますので、そうなると順番が全て狂います」でした。
初め、相談にいらっしゃったのは高齢者ばかりでした、世間話に始まり、お薬のことや健康上の不安のことなど色々お話をされていきました。
すると、20~30代くらいの男性が僕の隣の薬剤師の前に座りました。その後、10分以上は話していたでしょうか。断片的に聞こえてきたのは、「私は、○○の添加物は一切取らないようにしているんです」、「睡眠薬というのは、・・・」、「私、OTC薬は信用できないんです」といった内容を延々と話されています。対応した薬剤師は笑顔を崩さず、辛抱強く耳を傾けていました。男性は最後に、「お薬とは関係ない話をしてたくさんの時間を取ってしまってすみませんでした。ありがとうございました。」と言って帰って行かれました。
対応した薬剤師は、「こういう場でしか色々話せないんだろうね。ひたすら耳を傾けるしかないです。」と話していました。
「先輩薬剤師の言ったことは本当だったんだ!」と驚いたと同時に、たくさんの思いを自分の中に抱え込むしかない精神疾患の患者さんに思いを馳せた経験でした。

事例2
高齢女性、胃がんでS-1の内服が外来で開始になった患者さんです。調剤薬局から疑義照会がありました。「患者さん、本当は3日前からS-1開始予定だったのですが、具合が悪くて今日まで薬局に来られませんでした。どのように対応しますか?」でした。S-1というお薬は服用期間と休薬期間が決まっております。次回の外来日は休薬期間明けの日に決まっていましたので、「飲み終わりは当初の予定通りにしますので、3日分飲み残す方針でお願いします」と回答しました。
その後、患者さん自身から電話が来ました。他の薬剤師が対応しました。内容は、「S-1内服前から皮疹があった。皮疹が治っていないのに飲んでいいのか?」でした。薬剤師は電子カルテの診療録を確認した上で「主治医は皮疹の事は把握していますので、内服して構いません。ただ、もしひどくなるようでしたらご連絡下さい」と返答しました。すると患者さん「不安なので、次の外来までS-1は飲みません」と言って電話を切りました。
主治医に報告したところ、この電話の前日に直接電話がきたみたいでした。主治医としても説明に難渋していた様子でして、「飲まないって本人が言うなら、仕方がない。次の外来でまた考えます」という話で終わりました。
結果的に、患者さんの不安が解消されず、服薬拒否に至ってしまった事例でした。我々薬剤師の「ひどくなったら連絡するように」では、患者さんの不安をあおるばかりで、全然相談になっていなかったな、と非常に反省しました。

事例3
これは、2019年2月に第二回薬理ゲノミクスセミナー(主催:日本臨床薬理学会、浜松)に参加した時の経験です。
セミナー参加の動機は、2018年12月にペムブロリズマブ(キイトルーダ)が「がん化学療法後に増悪した進行・再発の高頻度マイクロサテライト不安定性(MSI-High)を有する固形癌」の適応を取得した事です。製薬企業主催の勉強会に参加し、その時に「我々のような一般病院はどのように対応すればよいか」と質問したところ、企業側は「うちらとしても情報を集めているところでして・・・」などと要領を得ない返答に終始し、結局分からずじまいでした。僕は、「この適応を取得したことで、我々のような一般病院でも遺伝子に関する倫理的配慮の体制が必要になってくるのでは」と思いましたが、情報があまりにもないことに焦りを感じました。
セミナーには医師や看護師、薬剤師が主に参加していました。セミナーで学んだ事はもちろん参考になったのですが、それ以上に、会場を包む雰囲気とフロアーからの質問が大変印象的でした。参加者は「情報がない!」と切実な思いでセミナーに参加されている印象でした。最後の質疑応答で、とある一般病院に勤務する呼吸器内科医から「NCCオンコパネルと言ったって、たくさんの遺伝情報を提示されても、どれをどう患者さんに説明すればいいのか分からない。一般病院に勤める我々はどう対応すればよいのか?」という、悲鳴にも似た質問が出ました。全くその通りだと思いました。
がんゲノム医療中核拠点病院に指定されている病院(厚生労働省https://www.mhlw.go.jp/stf/seisakunitsuite/bunya/kenkou_iryou/kenkou/gan/gan_byoin.html、閲覧日:2019年9月21日)には、認定遺伝カウンセラーがおり、有料ですが相談が受けられます。がんゲノム医療連携病院は、拠点病院と連携を取るよう決められていますので、ある程度の相談体制の質は担保できると思います。では、拠点病院でも連携病院でもない病院に勤務する我々はどうすればいいのでしょうか?きっと、患者さんはニュースなどで情報を得て相談に来るでしょう。
現在、状況はほとんど進展していません。「暗たんたる思い」が偽らざる心境です。

三つの事例をまとめます。薬物治療を取り巻く情報は複雑多様化し、我々医療従事者はしばしば翻弄されます。さらに、患者さんはインターネットや書籍で必死になって情報を探します。重要なのは、病気の治療は「患者さんの生活」そのものであるということです。疾患は慢性化し、病気の治療には、医療従事者だけでなく家族や友人などの近しい人達も併走します。仕事や趣味もこれまで通り続けたいでしょう。そうなると、「納得して薬物治療を受ける」という思いに至るまでには複雑な経過をたどります。
しかしながら、言い訳がましいかもしれませんが、色んな業務を実施しながらの中途半端な説明では患者さんに納得してもらうには不十分です。また、忙しさから配慮を欠いた発言をし、知らないうちに不安を助長させてしまうこともあろうかと思います。
ただ、医師にとって、病状説明の時間が膨大な時間外業務の一因となっている現状があります。薬剤師も、薬局で待つ患者さんのプレッシャーを常に受けていますので(「早くしろ!」と怒り出す方もいます)、十分な説明の時間を取れません。だから、事例1のように精神疾患の患者さんは健康フェアといった気楽な場でしっかりお話ししたいんだろうなと思いました。理想は、全ての病院・医療機関に専門のカウンセラーを配置することです。専門的なカウンセリング技術で患者さんとその近しい人により添って欲しいと切に願っています。そうすることで、医師は治療に、薬剤師は処方鑑査と薬物治療のフォローに専念でき、患者さんもその恩恵を享受できます。

最後に、今の日本は、「がんゲノム医療」や、「先駆け審査指定制度(医療ニーズが高い医薬品を優先的に審査する制度)」、「公知申請(日本では適応外だが海外では頻用されている適応について、書類審査のみで承認する制度)」、「医薬品副作用被害救済制度」などと制度ばかりが先行している印象です。実際、各制度の存在すら知らない医療従事者はたくさんいます。こうした状況を放置し続けていれば、そのツケを最終的に払うのは患者さんである、ということを我々は忘れてはいけません。どうすれば良いか、みんなで一緒に考えてみませんか。

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