最新記事一覧

Vol.171 女性医師が伝える ”ダイエット飲料”の落とし穴

医療ガバナンス学会 (2019年10月4日 06:00)


■ 関連タグ

この原稿はAERA dot.(6月5日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019060300019.html

ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈

2019年10月4日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

先月末、梅雨入り前にもかかわらず、北海道の帯広で40度近くを記録し、東京でも最高気温が30度を超える日が続きました。

先月14日には奄美で梅雨入りし、16日には沖縄の梅雨入りも発表されました。梅雨前線の北上に伴い、そろそろ各地で梅雨入り宣言が聞かれそうです。今年の降水量は、平年並みか平年よりも多いと予想されており、気温も平年より高くなると予想されています。

早くも、梅雨明けが待ち遠しい今日この頃。じめじめと暑い時は、砂糖の入った飲料水や炭酸飲料水が飲みたくなりませんか。最近では、人工甘味料を使用した「カロリーゼロ」の飲料水がたくさん登場しています。甘いジュースを飲みたいけれど、炭水化物やカロリー摂取は控えたい時には、「カロリーゼロ」のダイエット飲料なら安心して飲めますよね。

ダイエット飲料とは、砂糖ではなくカロリーが非常に低い人工甘味料が使用された飲料水のことを指します。現在、日本で認可されている人工甘味料はサッカリン、アスパルテーム、スクラロース、アセスルファムK、ネオテーム、アドバンテームの6種類です。これらの人工甘味料は、甘みはあるものの、カロリーが非常に低いため、カロリーゼロや糖質ゼロと表示されています。一度は手にしたことがある方も多いのではないでしょうか。

そんなダイエット飲料に、実は落とし穴があることをご存じでしょうか。

2014年、ジョンズ・ホプキンズ・ブルームバーグ公衆衛生大学院のBleich氏らは、米国の20歳以上の成人23,965人の食事データを解析した結果、太り過ぎや肥満の人はカロリーがない飲料をよく飲む一方で、砂糖入り飲料をのむ過体重の人に比べて固形物からカロリーをより多く摂取しているため、総摂取カロリーは両者で有意な差はないことが示されたと報告しました。

カロリーゼロの飲料水とファストフードやサンドイッチといったカロリー高めな組み合わせで昼食を済ましがちな私には、自身の実感としてすごく納得できる結果です。

また、George & Fay Yee Centre for Healthcare InnovationのAzad氏らは、人工甘味料に関する37の試験の結果を統合して分析した結果、アスパルテームやスクラロースなどの人工甘味料の摂取とBMI低下は関連しておらず、長期的な観察試験ではむしろBMIの上昇と関連していたことがわかったと報告しました。さらに、人工甘味料は肥満、高血圧、メタボリック症候群、2型糖尿病、心血管疾患の有害事象の発症率の上昇とも関連していたといいます。

さらに、17年には米国のボストン大学のMatthewらが、45歳以上の脳卒中の患者2888名と、60歳以上の認知症の患者1484名を10年間追跡調査したところ、砂糖を使用した甘味飲料水は、脳卒中や認知症と関連がなかったものの、人工甘味料の入った炭酸飲料水の摂取量の増加は、脳卒中や認知症との関連があることを報告しています。人工甘味料を使用した炭酸飲料水を毎日飲む人は飲まない人に比べて、虚血性脳卒中やアルツハイマー病ともに約3倍も生じやすいという結果だったと言います。

このように、人工甘味料は私たちの体には害をもたらす可能性があることが近年指摘されているのです。

砂糖や人工甘味料といった甘みは、味覚を変える可能性があることも示唆されています。2011年、ウェールズのバンガー大学のSartor氏らは、正常体重の人に比べて肥満や太り過ぎの人は塩味や甘味に対する感受性が鈍く無意識のうちに甘味をより好むこと、そして清涼飲料水を飲み続けると正常体重の人も味覚が鈍り甘味を好むように変化しうることが示されたと報告したのです。

肥満は全世界で問題になっています。世界保健機関(WHO)の報告によると、1975年以降、肥満率はほぼ3倍に増加しており、16年には、18歳以上の19億人を超える成人が過体重であり、このうち6億5000万人以上が肥満だったといいます。

肥満の増加に伴い、心疾患や脳血管疾患、糖尿病や脂質異常症などの疾患も増加しています。肥満の原因である食生活を改善する効果的な戦略の一つが、「砂糖税」なのです。

13年、英国のオックスフォード大学のBriggs氏らは、砂糖入りの清涼飲料水に20%の課税をすることで16歳以上の英国における肥満が18万人(1.3%)、太り過ぎが28万5,000人(0.9%)減ると報告しました。課税によって、砂糖入り飲料をよく飲む16-29歳の若年層に特に大きな効果が期待できるようだと言います。

WHOも、肥満や2型糖尿病、虫歯を減らすために、それら製品への課税による値上げ、つまり「砂糖税」によって砂糖入りの清涼飲料水の摂取量を減らすことを奨励する報告書を2016年に出しています。

「砂糖税」が導入されている国は、2018年末時点で世界22カ国に上ります。ノルウェーではなんと1922年から砂糖税を導入。フランスは2012年から、アイルランドや英国では2018年から導入され、アジアでもタイで2017年から、フィリピンでは2018年から導入されています。

日本では、1901年よりぜいたく品である砂糖に対して砂糖消費税が課されていましたが、1989年の消費税導入に伴い廃止。しかしながら、近年砂糖の摂り過ぎに対する危機感の高まりとともに、課税が検討されはじめています。
もちろん、肥満の原因は砂糖だけではありません。砂糖に税金を課すだけでは肥満問題の解決にはならないでしょう。けれども、清涼飲料水にたくさん使用されている砂糖や人工甘味料が身体に与える影響を知り、自身の食生活を見直すことは大切です。

じめじめと暑くなってきて、グイッと飲料水を飲みたくなる今日この頃。参考になりましたら幸いです。

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ