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Vol.178 国の抗体検査対策は非効率的?麻疹と風疹、勢い衰えず

医療ガバナンス学会 (2019年10月18日 06:00)


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この原稿はAERA dot.(6月19日配信)からの転載です

https://dot.asahi.com/dot/2019061300083.html

ナビタスクリニック(立川・新宿)内科医
山本佳奈

2019年10月18日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

今年の4月末、成田空港で勤務する20代の男性会社員が麻疹(はしか)に感染したというニュースが駆け巡りました。様々な国の人が出入りする玄関である空港で麻疹の感染が確認されたということは、麻疹が日本国内はもちろん、全世界にばらまかれたと言っても過言ではありません。麻疹に対する予防接種をしていれば、こんな事態は起きなかったでしょう。

麻疹は空気感染で広がります。麻疹ウイルスは感染力が極めて高いのが特徴で、免疫を持たないヒトが感染すると、10~12日間の潜伏期間を経て、高熱や発疹などの症状が出ます。ヒトの体内に入った麻疹ウイルスは、免疫を担っている全身のリンパ組織中心に増え、一過性に強い免疫機能抑制状態を生じます。そのため、合併した別の細菌やウイルスによる肺炎や脳炎といった合併症が重症化する可能性もあり、先進国でも麻疹患者の約1,000人に1人の割合で死亡する可能性があることが報告されているのです。

■欧米で猛威を振るう麻疹

近年、世界中で発生している麻疹ですが、特に欧米で増加傾向にあります。ヨーロッパでは、2016年には5,273人にまで減少した麻疹の報告数が、2017年は21,315人へと約4倍に増加しました。報告数が特に多かったルーマニアやイタリア、ウクライナでは、ワクチン接種の全般的な減少、一部の集団への接種率の低下、ワクチン供給の途絶、病気監視体制の不備などの問題が認められていたと世界保健機関(WHO)は報告しています。

米国では、2000年に麻疹の撲滅宣言が出されて以来、今年6月の時点で感染者数が1000人を突破。最多報告数を記録し続けていることを、アメリカ疾病予防管理センターが報告しました。近年の増加傾向の要因として、麻疹の輸入が考えられています。予防接種を受けていない人が、麻疹の感染が広がっている国を訪れた際に麻疹に感染し、米国に帰国することで輸入されてしまうのです。

麻疹が予防接種を受けた人が多い地域に持ち込まれた場合、発生は起きないか、小規模の流行で終息します。しかし、予防接種を受けていない人が多い地域にいったん入ると、麻疹のまん延を抑制することは困難になってしまいます。

特に、ニューヨークでの麻疹の集団発生の一因となっている重要な要因には、麻疹やおたふく、風疹のワクチンの安全性に関する誤報が挙げられています。ワクチンに関する不正確で誤解を招く情報を流すことによって、コミュニティーを意図的に標的にし、ワクチン接種率を下げるように仕向けている組織もいくつか存在しているようです。

米国ジョージア州のエモリー大学のPhadke氏らは、米国で麻疹の排除が宣言された2000年以降、麻疹発症者の半数近く(41.8%)は宗教や信条などに基づく医学的ではない理由によるワクチン拒否に起因することが示されたと報告しています。

しかし、この反ワクチン運動の広がりと悪化の一途をたどる麻疹の大流行を受け、6月13日、ニューヨーク州議会では、宗教上の理由で親が子どもへのワクチン接種を拒否できる免除規定を廃止する法案が、ついに可決されました。

世界保健機関(WHO)も、2019年4月、2018年の最初の3ヶ月と比較して、世界で麻疹の症例数が300%も増加したと報告しています。いずれにせよ、予防接種率の低下が最も大きな要因なのです。

■国内では風疹の流行もいまだ衰えず

一方で、昨年、首都圏を中心に流行した風疹。覚えていらっしゃる方も多いのではないでしょうか。昨年の風疹報告数は2,917人でしたが、今年は6月1日までにすでに1,624人の風疹の罹患(りかん)が報告されています。

平成28年度の感染症流行予測調査によると、30代後半から50代の日本人男性の5人に1人、20代から30代前半の10人に1人は、風疹の免疫を持っていないことがわかっており、こうした免疫を持っていない世代を中心に流行は続いているのです。

そんな状況を受け、国は、2019年4月時点で満40歳から57歳の男性を対象に、まずは風疹の抗体検査を無料で行い、今回の抗体検査において抗体価の低いこと(HI法で8倍以下、EIA法で6.0未満など)が判明し、かつ希望する男性に対して1回のワクチン接種を無料で行う対策を始めています。

さらに、新宿区では、妊娠を希望する女性または妊婦の配偶者やパートナー、同居人に対して、過去に風疹ワクチンの接種歴がない場合に限り、風疹の抗体検査を無料で行い、今回の抗体検査において抗体価の低いこと(HI法で16倍以下、EIA法で8.0未満など)が判明した際には、麻疹風疹ワクチンの助成を行う対策も行われています。

私の勤め先のクリニックは新宿区にあるため、これら2つの制度に該当する男性がたくさん受診されています。どちらを使用する方がいいのか、注意して確認しなければならないのです。

そもそも、仕事が忙しくなかなか病院への受診すらむずかしいのに、抗体検査を受けるために受診させ、さらに結果を聞きに再度受診させる必要が、果たしてあるのでしょうか。抗体価を確認せず、とりあえずワクチンを接種する。これであれば、1回の受診ですみます。

出入国するいろんな国の人との接点が多い全日空は今年の5月に、ロート製薬は社員と将来生まれてくる赤ちゃんの健康を守ることを目的として、昨年10月に麻疹風疹ワクチンの社員を対象とした職場において集団接種を行う企業接種をすでに実施しています。

世界を見渡すと、マレーシアやインドネシア、インドやアフリカでは風疹ワクチンは定期接種にすらなっていないため、東南アジアやアフリカで社員が活躍する企業に勤める方は、風疹の予防接種をすべきなのが現状です。

来年には東京オリンピックが控えています。いろんな国々の人が日本にやってくるでしょう。今こそ社会全体で麻疹や風疹の予防接種を行う時なのではないでしょうか。

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