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Vol.180 東日本大震災を経たいわき市で、台風19号被災からみえてくるもの

医療ガバナンス学会 (2019年10月23日 06:00)


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公益財団法人ときわ会常磐病院
外科・先端医学研究センター
金本義明

2019年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2019年10月13日、ラグビー日本代表は史上初のベスト8進出という歴史的快挙を成し遂げた。この対戦相手であるスコットランドは前回2015年W杯で決勝トーナメント進出を阻んだ因縁の相手であり、そこに勝利して決勝トーナメント進出を決めたことはまた特別な意味を持った。私自身ラグビー経験はないが、スコットランドの屈強なタックルにひるまず真っ向から挑み、チーム一丸となった素早いパス回し、時にはタックルを受け倒されながらもボールを繋ぎトライを決める姿に心から感動と興奮を憶えた。

そのラグビーW杯日本対スコットランド戦は、一時中止の可能性があった。そう、未だに全貌がつかめていない程の甚大な被害をもたらし、「激甚災害」に指定されたあの台風19号の影響だ。10月6日午前3時に南鳥島近海で発生し、急速に発展しておよそ24時間後には中心気圧915hPaと猛烈な台風になった。その急成長からフィリピンで「HAGIBIS」と命名された台風19号はその後西よりから、さらに北よりに進路を変え、猛烈な勢力を維持したまま10月12日に本州を直撃した。伊豆半島、関東地方を通過し、特に東海、北陸、関東甲信越から東北まで広い範囲に暴風と記録的大雨をもたらし、同時多発的に多くの土砂災害と河川氾濫を引き起こし広域災害の様相を呈した。全国で77人が死亡、10人が行方不明、346人がけが、59河川90カ所で堤防の決壊があったとのことだが、未だに全容はつかめていない(10月16日現在、NHK NEWS WEB)。その被害の映像はニュース番組で見ない日はないだろう。

私は2019年4月より、縁あって公益財団法人ときわ会常磐病院に勤務し、外科医として臨床に従事しつつまた基礎研究もさせて頂いている。当院のある福島県いわき市は福島県の浜通りと言われる太平洋に面した地域の南端にあり人口は約33万人の街だ。2011年3月11日に起きた東日本大震災の被災地でもあり最大震度6弱を観測し、3mを越える津波の被害も受けた。原子力発現所災害による風評被害から支援物資などの物流が停滞し、当時の災害対策に大きな支障を来したそうだ。水産業については今現在も震災前と同じように漁業が出来ない状況が続いている。
当院は東北随一の規模の人工透析センターを有しており153台の透析装置を完備し約540名の患者が透析を受けているのだが、当時は地震による長期的な断水と上述の原発事故による風評被害により、一時継続困難になった。そこでときわ会グループ会長と事務局長の水道局へ直談判し、震災3日目にして浄水場から常磐病院まで、パトカー先導により給水車の移動が行われた。1時間おきに5回、計10tの水が供給されたそうだ。ところが安堵したのも束の間、福島原発3号機の水素爆発により事態は急変、透析治療を急遽中止し、外来透析患者や小さい子供がいるスタッフは避難を余儀なくされた。これにより給水車がストップし人手も激減、いよいよ打つ手無し、と追い詰められた所でときわ会グループ会長の素早い決断により透析患者の集団搬送が決定した。東京、千葉、新潟へバス29台を要して約600人の市内の透析患者がスタッフとともに集団移動して、各地の医療機関、行政の方々に大変お世話になったそうだ。

私自身、運良くこれまでの人生で大きな災害に遭ったことがなかったが、今回は違った。私の住むいわき市平地区も河川氾濫による浸水被害があり、膝下位まで道路に水があふれていた。自宅近所はちょうど13日午前2時頃に一番水位が上昇し、私自身眠れない夜を過ごしたことを今も覚えている。他の地域ではさらに水位が増し濁流が自宅1階を流してしまう所もあった。結局市内では男性2人、女性5人の、合わせて7人が死亡、1人行方不明となった(10月15日現在)。また河川氾濫により浄水場が水没し市内の広範囲で断水が続いている(10月16日現在)。およそ4万5000戸が断水となり私の家もその1つだ。
そんな台風直撃の翌朝、病院より電話があった。安否の確認と浸水や断水などの状況説明を求められた。幸い病院の方は大きな被害はなかったとのことだった。しかしながら職員の中には多数の浸水被害、断水になっている家庭があるようで、そういった方に対して病院からミネラルウォーターの無料配布がすぐに始まった。さらに東日本大震災時からの関係各位から病院へ、ミネラルウォーターの寄付が続々と送られてきた。また当院新村浩明院長を筆頭に、病院職員に有志を募り被災者宅へ向かい片付け作業の手伝いを毎日行っている。義援金の協力依頼も随時始まった。東日本大震災の経験もあるからなのか、これら一連の迅速な対応・被災者へのケアに私は非常に驚きつつ、感謝の念に堪えない。

私がここに勤めている理由の一つに、福島県いわき市の医療に少しでも貢献できればというのがある。実際に働いてみると病院内に勤める方皆から暖かい心で接してもらえる。逆に私のほうが毎日ここで癒やされている程だ。今回皮肉にもここいわき市で私も被災者の1人となってしまったのだが、それも周囲の方々に随分助けられている。しかしながら、家族を失い、家屋も流されてしまった方々の精神的な悲痛は計り知れないものがある。未だ被災の全容が明らかになっていない今回の台風19号、こんな時こそ日本が一丸となって私が受けた恩も次へ繋ぎ、一日でも早く日常生活を皆が迎えられるよう復興支援をしていきたい。

最後に、この度の台風19号により、お亡くなりになられた方々のご冥福をお祈りすると共に、被害を受けられた方々に心よりお見舞い申し上げます。1日も早い復旧と、皆様が平穏な日々を取り戻せるよう、心よりお祈り申し上げます。

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