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vol 6 「末梢血幹細胞ドナー傷害保険」

医療ガバナンス学会 (2006年3月20日 20:38)


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2006年3月20日発行
日本造血細胞移植学会
副理事長 加藤俊一
(東海大学医学部基盤診療学系再生医療科学)


造血幹細胞移植医療に関係する多くの方々が長い間待望していた「末梢血幹細
胞ドナー傷害保険」が3月1日から利用できるようになった。この保険は従来骨
髄ドナーに適用されていたドナー傷害保険が末梢血幹細胞ドナーに拡大されたと
いうことにとどまらず、学会が保険会社と共同で開発し、その運用に責任を持つ
という点でも画期的といえる。

保険の実現までの経緯、保険の具体的な内容と特徴などについて、この保険の
実現のために深く関わった立場からご説明し、できるだけ多くのドナーの方々が
利用されることをお薦めしたい。
1.経緯

1991年に骨髄移植推進財団(以下骨髄バンク)が発足する際に、非血縁者ボラ
ンティアドナーに起こりうる一定のリスクを補償するような保険が必要であると
して、当時の厚生省の働きかけにより「骨髄ドナー団体傷害保険」が東京海上火
災を幹事会社として商品化された。この保険は骨髄バンクが団体として加入する
形態から「団体傷害保険」と呼ばれるが、非血縁者ボランティアドナーだけでな
く、血縁者ドナーも「厚生会」という保険代理店を経由して加入できる道が開か
れていた。

発足当時は骨髄採取のリスクを正確に計算することが困難であったため、死亡
時補償1億円に対して20万円の掛け金でスタートすることになった。その後骨髄
バンクにおけるドナー安全管理のための努力が続けられ、実際の事故は当初想定
されたリスク計算をはるかに下回り、数回の改訂を経て、現在では25,000円の掛
け金にまで値下げされている。

2000年に健康保険に採用された同種末梢血幹細胞移植においても、健康なドナー
に骨髄採取とは別のリスクが存在し、同様のドナー傷害保険を要望する声が多く
の医療関係者、ドナー経験者、ボランティアなどから寄せられていた。日本造血
細胞移植学会では2004年に幹事会社である東京海上日動火災に適用拡大を要望し、
監督官庁である金融庁との折衝を含め約2年で実現することになった。

 
2.「団体傷害保険」とは

同種末梢血幹細胞移植は非血縁者間では未実施であることから、現時点では血
縁者間の末梢血幹細胞ドナーのみが対象となる。その際の団体は「日本造血細胞
移植学会」となり、厚生会は保険会社の代理店として機能することになる。

さらに血縁者骨髄ドナーについても、今後は日本造血細胞移植学会を団体とす
る契約に変更された。

なお、非血縁者骨髄ドナーについては従来どおり骨髄バンクが団体加入し、掛
け金は患者側が負担することに変更はない。
3.学会の関与

2000年の同種末梢血幹細胞移植の診療報酬収載に際して、G-CSFの中長期的安
全性が確立されていないとする厚生労働省からの求めに応じて、日本造血細胞移
植学会がすべての末梢血幹細胞ドナーを事前に登録するという制度を開始するこ
とになった。

学会では末梢血幹細胞採取のガイドラインを作成して安全性確保のための指針
を示し、100%のドナー登録を目指すとともに、ドナーにおける短期ならびに中長
期にわたる有害事象を把握するシステムを確立した。このようなドナー登録制度
は世界にも前例のないもので、欧米各国からも高く評価されている。

2005年4月からは血縁骨髄ドナーについても同様に学会に事前登録することに
なり、骨髄バンクによる非血縁者骨髄ドナーと併せてわが国における造血幹細胞
ドナーのすべてが把握されることになった。健康なドナーにおける安全性を担保
する制度の一環として、学会ではこのドナー登録制度と傷害保険を有機的に連動
させるようなシステムを設計した訳である。

今後血縁者間骨髄移植、末梢血幹細胞移植のいずれにおいても、学会へのドナー
事前登録が我々学会員の責務となり、ドナー傷害保険によりドナーの安全性をさ
らに深める努力を行っていくことになる。

 

4.保険の内容

(1) 掛け金

骨髄ドナー、末梢血幹細胞ドナーのいずれにおいても1移植あたりの掛け金は
25,000円で同額である。

末梢血幹細胞ドナー登録事業の5年間に得られた有害事象の正確な把握は、リ
スク算定という傷害保険を導入する際の基本的な作業を円滑に進め、監督官庁の
理解を得る上でも大いに役立った。
(2) 補償内容

死亡時1億円、後遺障害300万円~1億円(傷害の内容と程度による)、入院
時1日あたり10,000円、外来通院時1日あたり5,000円が補償される。なお、治
療費についてはこの保険の対象外で、ドナーご本人の健康保険により対応するこ
とになる。
(3) 適用範囲

この保険の適用は、

①事前のドナー適格性判定のための健康診断、
②自己血採血、
③骨髄または末梢血幹細胞採取に関連する一連の医療行為(麻酔、G-CSF投与、
アフェレーシス等)、
④提供後3カ月までの健康診断、
⑤提供後2年までのドナーリンパ球輸注(DLI)、などに起因した事故で、①~
⑤のために自宅を出てから帰宅するまで(もしくは骨髄採取翌日から7日後、末
梢血幹細胞提供翌日から8日後までのいずれか早い時点まで)に発生したもので、
事故の日から180日以内の死亡・後遺障害、入院、通院が対象となる。

 
(4) 加入方法

まず主治医によるドナー適格性判定を記入した上で日本造血細胞移植学会に血
縁ドナー登録を行い、学会のドナー委員会においても適格性記入項目により適格
であることを確認した上でドナー固有番号を発行する。

ドナーはこの学会から発行されたドナー固有番号を付記した保険申込書を学会
の事務受託会社である「厚生会」に送付し、同時に掛け金の振り込みを行うが、
この際にも主治医のサインが必要となる。掛け金が振り込まれた日以降しか補償
の対象とならないので、十分な時間の余裕をもって計画と手続きを進めるように
しなければならないことをドナーも主治医も認識しておかなければならない。

 

(5) 事故が発生した場合の手続き
万が一事故が発生した場合は、主治医に事故証明書を作成してもらい、ドナー
自身または家族が保険金の請求を厚生会に行う。厚生会は請求事例について、日
本造血細胞移植学会に因果関係の判定を依頼する。学会は骨髄または末梢血幹細
胞採取と事故との因果関係の有無を判定するが、補償の条件としては学会のガイ
ドラインの遵守が前提条件となる。「因果関係あり」という場合には、規定に従っ
て保険金が支払われることになる。

参考にされるガイドラインは、日本造血細胞移植学会の末梢血幹細胞採取ガ
イドライン、日本小児血液学会の小児ドナーの倫理指針と技術指針、骨髄移植推
進財団の骨髄採取に関する諸規定などとなる。今後血縁骨髄ドナーにおけるガイ
ドラインを整備することになっている。
5.本保険の意義と今後の課題

以上、この保険の特徴と内容を詳しく紹介したが、学会が主導する形でこのよ
うな医療の安全性を高めるための制度を整備した点は特筆されるべきものと思っ
ている。学会員である移植医は、このような制度や保険の存在をドナーや家族に
正確に説明し、自らを守るためにも積極的に活用することが望まれる。
また、このような医療の周辺システムを円滑に進めるためには、医師や看護師
を補助する移植コーディネーターを各施設で雇用する必要があり、データマネー
ジャーなども含めて日本における移植医療の基盤整備を急がなければならないと
ころである。そして、医療機関におけるこのようなインフラ整備のためには、診
療報酬体系内にドナー安全管理料を導入するなど、行政が果たすべき役割が極め
て大きいものと考える。

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