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臨時vol 8 「産科医はどこに行ったか?」

医療ガバナンス学会 (2006年3月25日 20:21)


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2006年3月25日発行
北海道大学大学院医学研究科
社会医学専攻
社会医療管理学講座
医療システム学分野
http://www.med.hokudai.ac.jp/~i_sys-w/
助手・医師 中 村  利 仁
★★ グラフ1-4は Web にてご参照ください!!


日本全国、あちこちでお産できる病院が減っているらしい。(診療所はそうで
もない。)この数年の傾向なので、まだ信頼できる統計データは存在しないが、
ただし、これは集約化という医療政策の一つの結果である。お産の少ない小さな
病院の産科から医師を大きな病院に移し、たとえば二交代・三交代勤務として、
常にリフレッシュした医師がバリバリと質の高い医療をたくさん提供できるよう
というわけである。
1980年代前半より、厚生労働省も財務省(旧・大蔵省)も医療の効率化と
医療費の抑制にはことのほか熱心であったので、この医療機関の集約化も、取る
べき施策として強力に推進されてきた歴史がある。
ただし、日本に限らず、医療サービスが集約化によって経済効率を高めるとい
うデータは存在しない。むしろ、著名な経営学者である故ピーター・ドラッカー
などは、巨大病院の効率性の悪さを指摘しているぐらいなのである。
…なお、医療サービスの経済効率追求と医療費抑制の間の矛盾について、今回
は触れない。
出生数が減っていることもあり、お産(分娩)を取り扱う産婦人科・産科医師
の数はこのところ減少傾向にある。小児科医師数は不足しているが/増加してい
るというわかりにくい状況にあるのと違って、分娩取り扱い医師の数は純減して
いる分だけわかりやすいのだが、やっぱり不足しているかどうかの評価は難しい。
以下に全国の数字を示す。

━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━
年度      1996    1998    2000    2002    2004

出生数    1206555   1203147  1190547   1153855  1110721
産科医     11264    11269   11059    11034   10594
医師当出生数  107.1    106.8   107.7    104.6   104.8
━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━━

(出生数は人口動態調査、産科医数は医師・歯科医師・薬剤師調査から主たる診
療科を産婦人科あるいは産科とする医師の数)
これだけ見ると、産科医(産婦人科と産科を合わせた医師数)一人当たりの出
生数は、横這い乃至微減であり、負担が増加しているようには見えないし、不足
しているようにも見えない。

 

【グラフ1】
<a href=”http://mric.tanaka.md/db/06r8_1.jpg”>http://mric.tanaka.md/db/06r8_1.jpg</a>

出典は各年の「医師・歯科医師・薬剤師調査」「人口動態調査」。
都道府県医師数は従業地(働いている病院等の所在地)。
出生数は子の住所地。
医師一人当たりの出生数はほとんどの都道府県でやはり概ね横這いである。格
差は縮小傾向にはあるが、医師の負担になお2倍以上の開きがある。
【グラフ2】
<a href=”http://mric.tanaka.md/db/06r8_2.jpg”>http://mric.tanaka.md/db/06r8_2.jpg</a>

出典は平成16年「人口動態調査」「医師・歯科医師・薬剤師調査」。
合計特殊出生率より、お母さんが二人以上お産することは、田舎では比較的珍
しくないのではないかと思われる。
関東でも医者が少なく、負担の大きい県はある。産婦人科・産科の医師不足は
東北地方だけの問題ではない。
【グラフ3】
<a href=”http://mric.tanaka.md/db/06r8_3.jpg”>http://mric.tanaka.md/db/06r8_3.jpg</a>

全国の産婦人科・産科の診療所の医師の数は、60歳以上男性で平成10年か
ら16年までの6年間に323人減っている。50歳代後半男性で多少の増加が
見られる。他の年代では増減は明らかでない。総数で96人減っている。お産を
扱わない医師が増えているといわれているが、裏付けとなる公式統計は見当たら
なかった。平成14年9月の医療施設調査によると分娩を取り扱った診療所の数
は1803に対して、各診療所に概ね1名ずついる産婦人科・産科診療所医師数
は4571名であった。(60.6%が分娩を取り扱っていない?)
【グラフ4】
<a href=”http://mric.tanaka.md/db/06r8_4.jpg”>http://mric.tanaka.md/db/06r8_4.jpg</a>

全国の産婦人科・産科の病院の医師の数は、30歳代~40歳代前半の男性で
平成10年から16年までの6年間に619人減っている。女性医師が増えてい
るが、減少を補うに充分でなく、総数で579人減っている。帝王切開の64%
は病院で行われているが、中堅層が抜けたことにより、20歳代の若い医師と4
0歳代後半以上の医師に負担が移っていると考えられる。
因みに、グラフ3と4を見比べる限り、病院の産婦人科・産科を辞めた医師が
産婦人科の診療所を開業するケースが増えているようには見えない。病院を辞め
た産科医の新しい動きとして致命的なのは、産婦人科自体を辞めてしまうセグメ
ントが急増していることなのではないか。

つまり、産科医から、別の診療科へと鞍替えしているのである。抜けた欠落を
埋めているのは、主として経験の乏しい若年層である。彼等の負担とリスクを何
とかしない限り、日本の産科医の明日は来ないのではないか。

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