医療ガバナンス学会 (2019年11月21日 06:00)
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2019年11月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2019年12月7日(土)
【Session 03】アジアと医療協力 15:20 ~16:30
●福島の地で、ベトナム人看護師と共に働く
園田友紀
2019年4月、介護分野で4つ目の在留資格となる、特定技能による外国人受け入れが始まった。医療介護現場で外国人と働く風景は、今や日常になりつつある。
公益財団法人ときわ会常磐病院(福島県いわき市)では、2015年8月より経済連携協定(Economic Partnership Agreement、以下EPA)ベトナム人看護師候補者の受け入れを行っている。筆者は2017年より彼らの学習支援(主に国家試験対策)に携わり、2017年は1名、2018年には4名が合格を掴んだ。2019年12月現在、候補者4名を含む計9名が勤務している。
我が国におけるEPAに基づく外国人看護師の受け入れは、2008年に開始された。制度開始から11年が経過し、当初の現場の高い期待に反し、失敗に終わったと評価する声が少なくない。その原因として、(1)EPA看護師候補者の国家試験合格率が17%と低く(2018年度全体合格率:91%)資格取得自体が大きな障壁になっていること、(2)現場の即戦力になるまで受け入れ施設の人的・経済的投資と時間を必要とすること、が考えられる。
そのような背景がありながら、なぜ外国人看護師を受け入れ、共に働くのか――。「ベトナム人看護師が日本の看護師になるまで」、そして「看護師になってから」という経験を踏まえ、受け入れの実際や課題について紹介し、また制度を利活用し日本で働く外国人ケアワーカーとどのよう協働していくかについて考えていきたい。
●アジアで増加する水害―福島の被害に見る課題
尾崎章彦
アジアで水害が増えている。2017年にはモンスーンが南アジア一帯を直撃し、1200名の方々が亡くなった。また、つい最近は、アラビア湾で史上最強のサイクロン「キャー」が発生した。
日本においても、先日の台風19号は各地に大きな被害をもたらし、90名近い方々が亡くなった。不幸なことに、福島県における死者数は30名と突出して多かった。10月19日の朝日新聞が、福島県で死亡した方々の情報と死亡時の状況について掲載している。平均年齢が69.9歳、22人(73%)が65歳以上の高齢者、16人(53%)が男性だった。自宅において亡くなった14人のうち12人(86%)が高齢者だった。また、6人(43%)が平屋に住んでいた。
この結果から、自宅で亡くなった高齢者が多かったことが分かる。台風が福島県に最接近したのは、10月12日深夜から13日未明だった。いわき市において浸水被害に遭った方々のお話を伺うと、眠っている時に自宅が浸水し、あっという間に身動きが取れなくなったという。
若年者はともかく、高齢者や障害のある方々、寝たきりの方々においては、独力では避難ができないケースも多いだろう。特に、病院や長期療養施設などの避難においては、患者の避難に大変な調整が必要である。不十分な準備で避難が遂行されれば患者の健康状態にも悪影響が及ぶ。診療が継続不可能であることを確信しなければ、病院管理者として患者の避難に踏み切ることは難しい。
特に今回の台風で感じるのは、水害における避難タイミングの難しさである。地震とは異なり、被害が生じる前の能動的な対応を求められ、また津波とも異なって被害の程度の予測に不確定要素が多すぎるからだ。
次善策は2階以上への垂直避難だ。ただし、平屋では難しい。浸水の危険性がある地域においては、自治体・地域レベルで、水害時にどのような形で避難するか事前に決めておく必要がある。
今後、自治体レベルでは、避難勧告を出す閾値がますます下がっていくだろう。実際、台風19号のおよそ2週間後に日本に最接近した台風21号に際しては、福島県いわき市全域に避難勧告が発令された。温暖化を背景に、大規模な台風は増加すると見られている。災害弱者の避難に関して、具体的かつ現実的な対策の立案が急務である。
●モンゴルにおける遠隔医療の取組み、国際診療支援について
島村泰輝
モンゴルでは、政府の方針もあり鉱山事業が主な産業の一つである。深刻な大気汚染に加え、アスベストが現在でも大量に輸入され暖房のパイプ等生活レベルまで使用されている現状があり、塵肺症やアスベスト関連疾患が発生しやすい土壌がある。医療防護は十分とは言えないことから、塵肺症をはじめとする鉱山関連疾患が多数存在しうるはずだが、実際には公式発表されている罹患者数が少ない。これについては、十分な医療が提供されておらず、患者が病院にかからない、あるいはかかっても適切に診断されていないことが推察されていた。
CTはモンゴル全体で数十台しかなく、医療装置は古いものが多い。国として数少ないCTを用いた診療を行うためにも、診療レベルの高い病院に患者を集約して検査を行う必要がある。現実問題として、大量の患者画像が発生したとして専門家による適切な診断がなされなければ検査を行う意味が無い。診療体制構築の方法に遠隔診療が挙げられるが、金銭的にも医療装置の更新が困難な状態で、新規に高額かつ設営に時間を要するシステムの導入は難しい。
我々は「LOOKREC」という、インターネットとブラウザがあれば作動する遠隔診療システムを有している。そこで、モンゴル保健省、呼吸器および循環器を専門とする国立第三病院、そしてモンゴル国内すべての病理画像を集約する国立病理センターをLOOKRECにて繋ぎ、放射線画像と病理画像を用いて総合的に診断する方法を、青年海外協力隊(JICA)を通じて導入した。また、WEBコンサルティングを行える環境を構築出来たことにより、モンゴルと日本で同じ症例を同時に見て、ディスカッションをしながら診療にあたることが可能となった。
日本においても、地域医療や専門家による高い医療レベルを要する診療には、遠隔診療が必要不可欠なツールとなる。モンゴルの取り組みを通じて遠隔診断のひとつの形態を紹介したい。
●中国との医療交流
麻田ヒデミ
我々は20年に渡り中国の医師・医療従事者と医学交流を続けている。来日研修の受け入れや現地医療機関への健診技術の指導、移動検診車の導入、日本人医師による画像診断支援システム構築などを行ってきた。
当時の中国の医療機関は現在とは比べ物にならないほど遅れており、交流の基本も中国人医師らが日本から何かを学びたいという要望に応える形が多かったように思う。しかし当時30~40代だった彼らは勉強熱心で、何より真摯に中国の医療の進歩や医療環境の向上を目指す情熱にあふれていた。
今では中国には、医療技術で日本を凌ぐレベルの病院は数多くあり、症例数も圧倒的に多い。おそらく今後はアジア各国も同じように発展していくのではないかと思う。
では、私たちはこれからどんな形でアジアの国々と医療交流を進めていくことができるのだろうか?
今でも毎年多くの中国人医師や医療従事者が来日し、訪日治療を希望する患者も多い。日本の医療の質に対する信頼は高い。私のところに来る医師たちは皆、日本のサービスやホスピタリティ、患者に寄り添う理念を学びたいという。
先日視察に来た、クリニックをチェーン展開するグループの代表者は、「日本の医療サービスの概念を学びたい」と言っていた。彼らは病床を持たず、プライマリケアを中心に予防医学や健康管理に力を入れたクリニックを目指している。さらに、在宅医療を可能にするための知識も熱心に学んで帰国していった。
日本は進みゆく超高齢化社会の中で、様々な医療・介護・健康増進のサービスが発展し、技術力も飛躍的に進歩している。最先端医療だけでなく、日本のプライマリケア、地域医療の仕組みや様々なサービスは、国際的にも非常に優れているのではないか。
地域に密着し、患者に寄り添うという日本の医療の概念と、それを可能にするサービスや技術力、人材、設備などは、今後アジアの国々と医療を通じて交流する上で、非常に重要な武器となると考えている。
●人工知能の応用に入った医療提供体制~上海児童医学センターにおける実践から
趙 列賓
慢性疾患は世界各国に深刻な社会経済的負担をもたらしている。成人の慢性疾患は小児期の健康や疾患治療とも密接に関連しており、小児科領域における医療提供モデルの新たな開拓分野となっている。小児科の医療機関単体では、責任を持って小児の全成長過程の健康管理を担うことが困難になってきている。そのため、種々のレベルで異なる役割の医療機関を含めた、統合型小児医療提供体制の新しいモデルの探求および確立が求められている。その観点から人工知能技術は、種々の医療機関を横断的につなげ、協力関係を構築しながら小児医療を提供する新たな機会を提供している。
上海交通大学医学院附属上海小児医学センターは、中国の国家小児医学の拠点病院に指定されており、1,500病床を有し、小児科の全サブスペシャルティーを網羅している。特に、小児の先天性心疾患、白血病や悪性腫瘍、重度障害、小児の発育・行動と保健、小児外科、新生児医療などは、国家臨床重点専門分野として認定されている。
また、国家小児心臓侵襲的手術トレーニングセンター、小児血液疾患国家重点研究拠点、および国家小児白血病データ登録センターなど、様々なレベルの100以上の医療機関と連携し、小児医療連合も創設した。複数の医療機関を横断した小児医療サービスおよび人工知能技術の小児科領域での応用を積極的に展開し、有望な結果を達成している。