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Vol.205 現場からの医療改革推進協議会第十四回シンポジウム 抄録から(8)

医療ガバナンス学会 (2019年11月28日 06:00)


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2019年11月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2019年12月8日(日)

【Session 08】スポーツと医療  14:00 ~15:00
●SEISA/ FGCによるスポーツを通した社会改革  ~ブータン王国の事例を中心に
宮澤保夫

星槎グループ(SEISA)と世界こども財団(FGC)は長年にわたり、教育、スポーツ、健康医療、災害支援といった多様な分野で国際支援を続けてきた。
一例として、ミャンマーでは政府と協働し、遠隔地に対する巡回診療および健康相談の取り組みにおいて、一定の成果を上げることができた。また学校施設を通した支援においても、保健衛生環境改善において大きな成果を上げた。
近年はスポーツを通した青少年育成、そして社会改革に力を入れている。特にブータン王国では、スポーツを通した健康増進、障がい者の社会参加、支援、理解を定着させるための活動を、スピードを上げて行っている。環境も一部では整い始め、コーチと選手の努力もあって支援者の理解が広まり、競技水準も上がってきた。ブータンパラリンピック委員会を設立し、アーチェリーとライフル射撃において、2018年にはアジア・パラリンピック大会への初参加を可能にした。さらに2019年、北京で開催された世界パラリンピック陸上競技大会においては、初出場ながらも2選手が砲丸投げでパラリンピック参加標準記録を突破した。
ブータン国内での障がい者スポーツへの理解が深まったことは、ブータン国王、ブータンオリンピック委員会会長、パラリンピック委員会会長をはじめ、携わる人々にも大きな喜びとなり、期待を与えることができた。
このように、国ごとに考え方、方向性、目標を明確に設定し、時間をかけ、エネルギーを注ぎ、経済面の支援も十分とは言えずとも継続的に行うことで、強い信頼関係が生まれる。その証として、ブータン王国のスポーツ分野での国家予算が大幅に増額され、障がい者に対する認識と環境改善に大きな変化をもたらしたことは、大変嬉しいことである。
現在、エリトリア国でも、スポーツ・教育分野において大きな前進を続けている。Unicefと協働し、幼児期教育とコミュニティ開発のプログラムも進行中である。これはスポーツの有効性を取り入れながら、学校を活用した幼児期からのケアと教育、青少年のスクールクラブの活性化、そして水道および衛生環境の整備を通じて、コミュニティ開発を行う統合的なプログラムである。
●スポーツとアンチ・ドーピング   ~アスリートの責務を考える~
室伏由佳

近年、スポーツの価値を認識するためのアンチ・ドーピング・ムーブメントが推進されている。ドーピングの歴史を遡ると、ドーピング検査自体が規則違反者への抑止的な対策となっていた。しかしながら、ドーピング検査の拡充と規模の拡大、分析能力向上の一方で、新たな不正手段を探し、検査での陽性反応逃れをしようとするアスリートやサポートスタッフの完全排除は困難であるという指摘がなされてきた。
更に、近年の深刻な問題としては、エルゴジェニックエイドなど、禁止物質が混入されたサプリメント摂取による規則違反である。成分が明確な処方箋と異なり、サプリメントの製造や成分表示を規制する明確なルールは、国際的にも規定がない。ドーピング検査で陽性反応が出たケースのうち、サプリメントの誤った使用例は増加傾向にある。2019年、日本ではオリンピアンによる規則違反が初めて起きたが、禁止物質の含まれるサプリメント摂取が要因だった。
2015年に策定された現行のアンチ・ドーピング規定(Code2015)では、アスリートが果たすべき役割と責務がより強調されるようになった。万が一、体内に禁止物質が存在した場合には、意図的であるかないかないか、アスリートに落ち度がないかに関わらず規則違反となる。検査で陽性が疑われた場合、聴聞会で意見を述べられるが、成分表示の不十分なサプリメント摂取は自身を弁護する適切な理由とはみなされない。
近年、大学生アスリートを対象としたアンチ・ドーピング知識の実態調査では、全体的にアンチ・ドーピングの知識が乏しく、特にドーピングの副作用など医学的知識の欠如や、「身体に摂り入れるものに責任を持つ」アスリートの責務への理解が不十分である点が指摘された。このような状況への対処として、不正摘発を目的とした「抑止的なアプローチ」から、スポーツの価値を認識するための「予防的なアプローチ」へと教育啓発の在り方が変化し始めている。
アンチ・ドーピング教育は、できる限り若年層期に開始すべきという指針も示されている。2021年に改定を迎えるCode2021で初めて策定されるThe International Standardfor Education=ISE )では、一層充実したアンチ・ドーピングの啓発が期待される。
●アサイーの造血機能性によるアスリートのパフォーマンス向上プロジェクト
長澤 誠

アマゾン原産のヤシ科フルーツである「アサイー」は、近年スーパーフードとして注目され、美容・健康目的で女性を中心に利用が広がっている。その一方で、アスリートや貧血に悩む人々からも「貧血が改善した」「ヘモグロビン値が上がった」などの声が聞かれ、その効果が支持されつつある。興味深いのが、アサイーに含まれる鉄はレバーのように多くはなく、しかも比較的吸収効率が低い植物性の「非ヘム鉄」であるのに、貧血改善に寄与する点だ。何故なのか、鉄以外の何かが作用しているのではないかと考えられてきた。
そこで貧血改善のメカニズムを解明するため、「アサイーは造血作用があるのではないか」と仮説を打ち立て、2018年に千葉大学と共同で研究を行った。実験でマウスにアサイーを摂取させたところ、エリスロポエチンの分泌が増え、赤血球数が増加することが明らかとなった。
「造血」は貧血を改善するだけでなく、酸素運搬能力の向上によりアスリートの持久力向上にもつながる可能性がある。当社ではこの結果を受け、アサイーの造血機能性でアスリートをサポートする「アサイーでみなぎるプロジェクト」を発足させた。
主な取組みはアサイーの造血機能性の更なる研究と、スポーツにおける血の重要性の啓蒙、そしてアスリート向けの商品開発等だ。研究においては、山梨学院大学陸上部(短距離ブロック)の協力でアサイーを摂取した選手達のモニタリングも実施。その他にも様々な競技とタッグを組み、より実用性の高いデータの取得に注力していく予定だ。
当社のアサイーは2008年、帝京大学ラグビー部に貧血対策の一環で導入され、以来、選手達の貧血問題は解消し、前人未到の9連覇を成し遂げた。その他の競技でも貧血体質のアスリートに活用されてきた実績がある。アサイーの造血機能性が実証された今、貧血に悩むアスリートをより一層精力的にサポートし、日本のスポーツ振興に貢献していく所存である。
●スポーツは米国をどのように変えたか
大西睦子

「最高の薬」とまで言われる運動。運動が体や心の健康に良いことは、今さらミステリーでも何でもない。それにとどまらず、私が米国で目を見張ったことは、「スポーツがいかに米国という国家の特徴を生み出し、映し出してきたか」ということだ。
例えば、多くのアスリートが社会運動を先導してきた。モハメド・アリは、大学キャンパスで戦争反対を訴えベトナム戦争の終わりに貢献した。他にも多くのトップアスリートが公民権運動を主導した。最近では、アメフトスター選手コリン・キャパニックは人種差別に抗議し、国歌斉唱中の起立を拒否した。トランプ大統領をはじめ彼の行動を批判する国民と、賛同する国民で全米が二分し、激しい論争が巻き起こった。そんな中、コリンはNFLの職を失ったが、ナイキが新しい広告塔として起用した。広告には「何かを信じろ。すべてを犠牲にしてでも」という力強いメッセージが描かれている。
スポーツはまた、米国における女性の権利の革命的な変化を、如実に反映している。1972年に、教育における性差別を禁止する連邦法「タイトルIX(教育法第 9篇)」が定められ、性差別は違法となるだけでなく女性の自尊心を高めた。以来、米女性アスリートは驚異的に成長した。現在、米女子サッカーチームの世界ランキング1位の最強チームだ。一方、米男子チームは世界21位。にもかかわらず男子代表の賃金が高いことから、女子サッカー代表28人は、男女平等な賃金を求めて米サッカー連盟を相手に訴訟を起こした。来年5月に裁判が行われる予定だ。
米メジャースポーツの王者は、ホワイトハウス訪問という伝統があるが、トランプ大統領の思想や政策に抗議して、訪問拒否する選手も多い。さらに、スポーツは地域のコミュニティのつながりも高める。例えば、がん研究や患者の支援のための資金を集めるために、地域でマラソン大会やウオーキングなどは頻繁に開催されている。
今回は、米国社会におけるスポーツの意義を伝えたい。

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