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Vol.206 現場からの医療改革推進協議会第十四回シンポジウム 抄録から(9)

医療ガバナンス学会 (2019年11月29日 06:00)


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2019年11月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2019年12月8日(日)

【Session 09】福島  15:00 ~15:55
●地域包括ケアシステムの一部として  ~地域にどう根差していくか~
佐久間 裕

私たち啓誠福祉会は、福島県田村市と田村郡小野町で高齢者介護事業所を運営している社会福祉法人です。福島県石川郡(人口4万人)のひらた中央病院を中心に広域にわたって医療・介護サービスを展開する、医療法人誠励会グループに所属しています。
田村市は、福島県中通りの最東端に位置し、沿岸エリアの浜通りとの結節点となる地域です。人口約3.7万人、65歳以上の人口は1.23万人、高齢化率は32.5%と福島県平均の30.2%を2.3ポイント上回っており、市の一部は過疎地域に該当しています。市の最も東に位置する地域は、8年前の東京電力福島第一原子力発電所事故により警戒区域に指定されていました。
その田村市に昨年11月、特別養護老人ホームさくらの里を開所しました。さくらの里は東日本大震災で倒壊し、閉校した菅谷小学校の跡地に建てられています。地域住民が閉校になった小学校跡地の有効活用を願い、住民アンケートをまとめ、田村市へ「介護施設」を造ってほしいと要望し、計画された施設です。地域からの要望によって造られた施設を、この地域にどのように根差していくのかが、私たちの大きな課題です。
現在、田村市も地域包括ケアシステムの構築と体制整備を推進しています。介護予防・重症化防止の推進と高齢者の社会参加を主軸として、虚弱高齢者を地域全体で支えていく仕組み作りが不可欠となります。特に田村市では、介護保険申請理由の4割を廃用症候群が占めており、虚弱状態となった軽度認定者の自立支援をいっそう推し進める必要があります。
これらの状況を踏まえ、開所から1年が経過した我々の取組みをご紹介したいと思います
●福島県いわき市で地域の医療を盛り上げていきます
尾崎章彦

筆者は2018年7月にいわき市のときわ会常磐病院に常勤医として赴任し、以来、乳腺外科の立ち上げに取り組んでいます。
いわき市は34万人の人口を抱え、東北第二の人口を誇ります。一方で、地政学的な背景のもと、慢性的に医師不足に悩まされてきました。例えば、2017年人口10万人あたりの医師数は全国平均の233.6人に比較して172.1人に留まり、医師の平均年齢は55.5歳と43の中核市で最も高い状況です。実際、乳がん領域においても専門医の資格を持つ常勤医師は市内に一人いるのみで、ほぼ同等の人口規模である郡山市や福島市と比較しても少ない水準です。現在、データ上、市内の乳がん患者の約20%が市外での治療を選択していると推測されます。
このようないわき市の現状を考えた際、新たな乳腺外科の立ち上げは乳がん患者さんの治療選択肢増加につながる重要な取り組みと言えます。
一方で、筆者は医師として診療と同じように研究も重視しています。研究は医師が診療以外で地域に貢献する重要な手段であり、また、地方の病院が外部の若手医師をリクルートし、生き残っていく上で非常に重要だからです。
現在、週に一度の研究日においては、前任地である南相馬市において、診療の傍ら、以前から実施している震災後の住民の健康調査も継続しています。また、そのような活動の延長線上で、イギリスのエジンバラ大学やネパールのトリブバン大学、中国の復旦大学といった、海外の学術機関との共同研究も実施しています。国内においても、ジャーナリズムNPOであるワセダクロニクルと製薬マネーの調査を実施するなど、様々なパートナーと研究を遂行中です。
このように筆者は現在、地域医療とともに研究にも真剣に取り組む、新しい医師のあり方を追求しています。そのような挑戦は、長期的に地域の医療充実にもつながると信じています。
現在、当院においては初期研修の受け入れに向けて動いています。病院のさらなる発展には、若い医療者の力が欠かせないと考えているからです。志ある若い医療者と一緒に、いわき市そして浜通りの医療を、より良いものにしていきたいと願っています。
●福島を生かした自分なりの働き方
嶋田裕記

東日本大震災の被災地に位置する南相馬市立総合病院で働き始めて、今年で6年目になる。現在は、月~木曜日は基本脳神経外科医として南相馬市立総合病院に勤務し、金・土曜日は遠隔画像診断サービスを提供するエムネスという企業でお手伝いをさせていただいている。中でも私が携わっているのが、LOOKRECという、医療機関・患者様向けの医療支援クラウドサービスだ。画像や検査情報などを中核に、医療者と医療機関、患者様をクラウド上で結びつけるシステムである。どうして私がこういった働き方をしているのか、ご説明させていただきたい。
私が働いている福島県では、脳神経外科医が1人もしくは2人体制で基本稼働している病院が複数存在する。これは実際、非常に大変で、筆者も夜間休日の呼び出しにほぼ毎日対応している。しかし、こうした病院は概して手術件数が少なく、技術の維持は難しいことが多い。また、手練の脳神経外科医のほとんどが50代以上であり、今後は急性期治療を行う脳神経外科の病院は少なくなっていくと考えられる。技術の向上・維持という点でも、脳神経外科の専門治療は、道府県単位で概ね各分野1~2施設に集約化すべきだろう。
ただしそれには、施設間の診療情報のやりとりを迅速に行うことが必須である。脳卒中診療は一刻を争うことが多いからだ。例えば急性期脳梗塞の血栓を回収し、再開通させる治療は、文字通り一秒を争う。データをいち早く共有し、手術適応のある患者を直ちに搬送することが重要だ。「診療情報提供書」という、紙を介した現行のやり取りでは、緊急治療が必要な症例の集約化は難しい。
患者の診療情報の共有に関しても、新たな考え方が出てきている。今までは「病院同士が患者情報を共有する」という発想であった。しかし最近では、「患者の診療情報は患者自身のものであり、患者が各病院に閲覧を許可している」というPersonal HealthRecord(PHR)の考え方が広がりつつある。
今後、専門治療が集約化され、多くの術者は必要なくなるからこそ、PHRの枠組みを作っていくことが非常に重要だ。患者が集約化されたいわゆる”ハイボリュームセンター”での術者を目指さない場合には、患者を適切な時期に適切な施設に迅速に紹介できる能力が求められる。こうした能力を身につけることと、PHRの枠組みを作り上げることが、私の役割ではないかと考えるようになった。
現在、南相馬市立総合病院でもLOOKRECを導入し、遠隔でも当直医のコンサルトを受け、適切な指示を行うことができるような流れが進みつつある。自分はこうした導入事例を臨床医として観察し、詳細を学会などで報告することができる立場にいる。その知見をLOOKRECフィードバックすることも可能だ。福島で脳神経外科医として勤務しながらエムネスでお手伝いすることは、大きなシナジーを生むと考えている。
相対的に医師が足りていない地域から解決策を提案していくこと、今後世界に向けて発信していくことが、私にできる大きな仕事と考え、頑張っていきたい。
●福島原発事故と様々な国際機関の動き
坪倉正治

東日本大震災および福島原発事故から8年半以上が過ぎ、次年度には10年目を迎える。これまでの様々なデータから、放射線災害による住民への健康影響は放射線被ばくによるものにとどまらず、生活・社会環境の変化に伴い多面的となることが、多くの国際機関でも共有されるようになった。
現場にとって10年目は区切りではなく単なる時間経過上の一点に過ぎないが、多くの国や国際機関ではこれまでの状況をまとめ、自国での今後の対策を強化しようという動きが加速している。現場で何が起こっているかよりも、これまでの教訓から自国の制度を変更し、準備として何を行っておくべきかに焦点がより置かれるようになった。
原子放射線の影響に関する国連科学委員会(UNSCEAR)は、2021年の福島レポートに向けて、2019年末にデータの締め切りを迎える。国際放射線防護委員会(ICRP)の出版物改訂や、住民生活に焦点を置いた国際原子力機関(IAEA)のレポート作成も進んでいる。
演者は現在、フランス・パリにあるIRSN
(放射線防護・原子力安全研究所)に出向中であり、そこでの経験も踏まえて福島原発事故と様々な国際機関の動きについて紹介したい。

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