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Vol.207 現場からの医療改革推進協議会第十四回シンポジウム 抄録から(10)

医療ガバナンス学会 (2019年12月2日 06:00)


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2019年12月2日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

2019年12月8日(日)

【Session 10】医療ニーズの開拓  16:05 ~16:50

●外国人患者さんに日本の医療機関を円滑に受診してもらうために
澤田真弓

私たちは、医療における言語障壁の解消をミッションに、2014年から医療機関向けに遠隔での医療通訳サービスを中心とした外国人患者受入れ支援を行っている。訪日外国人および在住外国人の中長期的な増加を視野に今年度は国が大きく動き出し、「訪日外国人に対する適切な医療等の確保に向けた総合対策」を掲げるに至った。実際、昨年度は約1.4億円だった本領域の予算は、約17億円まで引き上げられた。同方針に沿い、今後は地域を中心とした多面的な体制整備が進む。医療機関における多言語体制の整備は、その中心的な施策だ。質の高い医療通訳への常時アクセスが医療機関に保証されるよう、電話やビデオを通じた遠隔医療通訳の普及が期待される。
これまで医療機関への支援を中心的に行ってきた私たちは、遠隔医療通訳が普及した後の世界を考え始めた。医療現場の負担を軽くし、より円滑な受入れを実現するためには、外国人患者さん側にも働きかけていくべきではないのか。そう考えた私たちは、外国人患者さん向けに多言語対応している医療機関を予約する支援を開始した。英語、中国語、ベトナム語、ネパール語、スペイン語、ポルトガル語の6か国語に対応する。さらに、外国人患者さんに日本の医療機関のかかり方を理解してもらうため、多言語での説明動画を制作した。医療機関のみならず外国人患者さんにも必要な準備をしてもらうことで、医療機関で働く人たちと外国人患者さんの双方にとって、より良い医療提供・享受経験を実現したい。そうした想いとともに、チームでプロダクトを改善する日々だ。
●医療と教育のはざまにある育児
森田麻里子

母となって思うこと。それは、育児が情報戦だということです。育児の大変さは、体力面や睡眠不足だけではないのです。次々と想定外の問題が起こり、その解決策を探し、どれを採用するか考え、決断する、というプロセスで非常に消耗するのです。
仕事を持つ父母はなおさらです。例えば掃除や家事は外注できると思われがちですが、どの家事をどこまで誰にやってもらうか考え決断し、実際に依頼する、という部分の手間は外注できません。
しかも、そのために必要な情報は、自分から調べたり人に聞いたりしない限り、なかなか入ってきません。私自身も含め、自分が出産するまで赤ちゃんの世話をしたことのない人が増えています。また、祖父母と離れて住んでいたり、祖父母がまだ仕事を持っていたりする家庭も多くあります。育児の知識は、ママ友やネットを頼りに身につけていくしかありません。
結局、保護者の情報リテラシーによって、子育ての質が左右されてしまうのです。
そんな情報戦・決断疲れの中、人は育児ノウハウを求めます。ところが、育児ノウハウにただ1つ「正しい」セオリーというものは存在しません。その理由は、育児の個別性の高さからくるエビデンスの少なさにあります。子どもの性質はそれぞれ違うため、全員にとって「正しい」方法が定まりづらいのです。また、医療と教育のはざまにあることから、小児医療、保育や教育の専門家はいても、「子育て」という分野は確立していません。そのことも、科学的なノウハウの蓄積を遅らせています。
「健康な子どもをより良く育てるためにはどうしたらいいか」という課題は、病気を治すという分野が成熟し予防医療に目が向けられるようになった現在の、さらにその先にある医療課題とも言えます。
求められているのは、保護者の情報リテラシーを補完し、自分で考えなくても良い育児法を教えてくれる信頼できる人やサービスです。WEBメディア、SNS、カウンセリングサービス、保険診療と、様々な方向から取り組んでいるアプローチについてご紹介したいと思います。
●都会の働き手は医療弱者である ~ナビタスクリニック新宿の患者動態調査から~
瀧田盛仁

へき地に居住する高齢患者は、「医療弱者(Medically Underserved Populations)」としてよく認識されている。彼らの居住地は医療機関から「物理的に」遠く、医療機関数も少ないため、医療サービスにアクセスすることが困難だからだ。しかし、医療機関にアクセスする「時間」の視点で考えると、医療弱者はへき地の高齢者だけではない。医療機関が数多く存在する都会の働き手もまた医療弱者ではないだろうか。彼らが勤務終了後に医療機関を受診しようとしても、医療機関もまた通常診療を終了しているからだ。救急病院への不要不急の夜間外来受診を減らそうとする施策は、医療提供者側の視点では合理的だ。
一方で、勤務などで日中に受診困難な方の“不要不急な”疾患の診療の受け皿は、容易に見出せない。
鉄医会は、その名の通り、都会で生活する住民の生活動線である鉄道駅舎に診療所(「ナビタスクリニック」)を開設し、21時まで診療することで、都心で見過ごされている「医療弱者」にアプローチし、彼らの抱える健康問題を解決しようとしている。2008年の立川駅での開業に始まり、2012年川崎駅、2016年新宿駅に診療所が開設された。私は今年4月から立川で内科診療を始めた。実際の医療需要を検証すべく、ナビタスクリニック新宿を事例に患者動態解析を行ったので報告する。
開院以後2019年5月までの延べ受診件数56,541件を解析すると、受診者の年齢中央値は32歳(四分位範囲; 26-42歳)であり、女性が64%を占めた。また、平日について1時間毎の受診者数を調査すると19時台がピークであり、10時から17時台の約2倍であった。
この調査結果は厚生労働省患者調査(平成29年)の外来患者数のピークが75-79歳であったことと対照的であり、若年層の医療需要を示している。また、日中以外の医療需要が高いことも確認された。医療サービス、特に内科診療は、患者さんの生活の文脈や価値観に照らした上で健康に寄与するアドバイスを行う機能を果たしており、患者さんの生活「時間」を尊重した診療形態が必要である。人口減少社会となり、きめ細かく情報共有しながら生産性・効率性を上げることが現代の働き手に求められており、このような社会的背景の変化に寄り添うべく医療サービスにも変化が求められている。

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