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Vol. 133 さい帯血バンク経営危機から見えた補助金行政の弊害

医療ガバナンス学会 (2010年4月14日 07:00)


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構想日本 政策スタッフ
田口空一郎
2010年4月14日 MRIC by 医療ガバナンス学会


3月24日、毎日新聞朝刊が「宮城さい帯血バンク:経営危機 11年度以降は事業継続困難に」と報じた。この問題は、単なる一さい帯血バンクの経営危機というには問題が大きすぎると思われるので、政策論の観点などからいくつか批判的検討を加えたいと思う。

なお私事になるが、私も父を多発性骨髄腫という血液に関する病で失った経験があり、また亡父も自家骨髄移植を行うなど、骨髄移植医療には大変お世話になった経験があることからも、本件の問題の存在を座視し得なかったという事実を付言しておきたい。

まずは読者に問題の概要を把握していただくため、当該の毎日新聞記事を引用する。

「白血病患者への移植治療などに用いられる、さい帯血を管理する「日本さい帯血バンクネットワーク」加盟のNPO法人「宮城さい帯血バンク」(理事長・里見進東北大病院院長)が経営危機に陥っていることが23日、分かった。同日の臨時総会で、11年度以降は事業継続が困難として、事業譲渡も含めて検討する方針を会員に示した。全国11カ所にある公的さい帯血バンクの経営危機が明らかになるのは初めて。

東北大内に事務局を置く「宮城さい帯血バンク」は00年に業務を開始。今年2月末までに計94本のさい帯血を骨髄性白血病患者らに供給した。現在は1028本のさい帯血を冷凍保存している。

同バンクによると、運営には職員4人の人件費に加え、感染症などの各種検査費用を合わせた年間約3000万円が必要。一方、収入の大半を占める国からの補助金は、さい帯血の採取数などに応じて定額を各バンクに配分する仕組みで、同バンクに対する08年度の支給額は1600万円、09年度は2268万円だった。さい帯血の供給1件につき約17万円支払われる診療報酬も、09年度は約200万円にとどまった。会費やチャリティーコンサートの開催で資金繰りに努めているのが現状で、年間約1000万円の赤字が続いているという。【比嘉洋】」

【補助金依存体質の実態】

そもそも日本さい帯血バンクネットワークを始め、11箇所のさい帯血バンクの収入は国からの補助金がほとんどを占めており、骨髄バンクのように患者の自己負担金からの収入もなく、また輸血用血液のように診療報酬上で定められた収入もないため、補助金の増減によって自力での運営が困難になるであろうことは火を見るよりも明らかなことであった。

たとえば今回、経営危機が明らかとなったNPO法人 宮城さい帯血バンクの平成20年度の収支計算書を見ると、この期の収入合計4177万円のうち、国からの事業費・設備費に対する補助金収入が併せて3408万円となっており、収入合計の80%にまで及んでいるという補助金依存体質が見て取れる。

加えてこの補助金は、保存さい帯血一件当たり幾らという形で日本さい帯血バンクネットワークを通じて各地のバンクに分配されており、宮城のような移植取り扱い件数の少ない小規模な地域バンクはより一層、運営が厳しいものであろうことが当初から認識されていた。

また、全国のさい帯血移植数が00年度の161件から09年には891件にまで急増しているにも関わらず、国からさい帯血バンク全体に投入された補助金総額は、02年度の約9億3000万円をピークに09年度には約6億2500万円にまで減額されてきている。これでは、補助金頼みの小規模な地域さい帯血バンクが運営できるはずがない。

それでは、こうした経営危機の問題が起こることが当初から予想されながらバンク閉鎖に行き着くまでどうして対応が遅れることになったのであろうか。実はこの背景を探ると厚生労働省から日本赤十字社への補助金事業の丸投げの実態が浮き彫りになってくる。

【なぜ対応が遅れたのか?】

そもそも日本さい帯血バンクネットワークの事務局は日本赤十字社(日赤)に置かれており、11箇所の地域バンクのうち5箇所は日赤の地方血液センター内に設置されている。また、日赤からさい帯血バンクネットワークへ事務局員が出向しており、同ネットワークが厚生労働省と各地のさい帯血バンクの間を取り持つ窓口の役割を果たしている。事実上、さい帯血バンク事業は日赤が運営の統括をしているシステムであるといって良いだろう。

日赤は日本赤十字社法という法律に基づき設置されている法人であり、戦前は宮内庁管轄下であったこともあり、慣例的に皇后陛下が名誉総裁となるような半官営型の特異な組織である。また一般会計と特別会計(血液事業、医療施設事業、社会福祉施設事業など)併せて決算規模が1兆円を超える全国ネットワークの巨大事業体でもある。

こうした官僚機構と呼んでもよい大組織と比べれば、年間900件弱というさい帯血移植の差配を行うさい帯血バンク事業の規模たるや微々たるものではあるが、官僚機構の通例に倣い、日赤はこの小事業を統括するに足る小回りの利くマネジメントや大きな方針転換もできる柔軟な合意形成のプラットホームには適していないように思える。むしろこうした小規模事業をしっかりとした仕組みづくりもせずに日赤に丸投げしている厚生労働省の問題が認識されて然るべきだろう。

たとえば、日本さい帯血バンクネットワークのホームページを見ても、同事務局だけでも09年度で約4600万円の補助金が投入されているにも関わらず、総会や事業運営委員会、事業評価委員会の議事録は平成19年度から更新されておらず、その実態を把握することは困難を極める。そして関係者の話から推測すると、この背景にはマンパワー不足による運営遅滞があることが想像されるが、そうであるならばこそ、そのような仕組みへの事業丸投げを厚生労働省が行っていること自体が無責任であるともいえる。

政府は公金投入の国民に対する説明責任として、補助金の使途・運営の透明性、事業効果の検証と見直しを担保しなければならない。効果も経過も不明瞭な補助金の投入によって、さい帯血移植を待つ患者が不安に怯え、移植難民化することを助長すべきではない。

【どう解決するか?】

この問題の解決にはいくつかのポイントがある。単に補助金を増額して急場をしのげば良いということではない。

まず一件150~250万円するとされるさい帯血移植の費用負担を誰がするのかを明らかにする必要がある。現在はさい帯血の代金について自己負担は徴収されていないが(以前は徴収されていた時期もあった)、骨髄移植と同じように30~50万円の費用を自己負担するということもありうる。しかし制度の持続可能性という観点からすれば、天下り問題で揺れる骨髄バンク(正式名称「骨髄移植推進財団」)の改革とさい帯血バンクの改革を以下のように併せて実行すべきだろう。

具体的には、輸血用血液のように、さい帯血や骨髄を保険収載して診療報酬上の価格を設定し、患者と保険者で3:7の費用負担をするということが最も現実的であろう。そしてさい帯血や骨髄に対して支払われる報酬を、より透明性と公益性の高い新たな「骨髄・さい帯血バンク」の運営資金として充当し、補助金に依存しない運営体制を確立すれば良い。そしてそのためには、諸外国と同様、さい帯血および骨髄の移植に関する法律を制定することが必要になる。

実はわが国の輸血事業に対しては、すでに「安全な血液製剤の安定供給の確保等に関する法律」(通称「血液法」)が制定されており、安定的な輸血供給体制確保のための需給計画の策定や事業者の権利義務関係などを明文化している。したがって新たな「骨髄・さい帯血バンク」の開設に向けては、たとえば「安全な骨髄およびさい帯血の安定供給の確保と移植等に関する法律」(骨髄・さい帯血移植法)といったような法律の立法化が急務だ。

こうした需給計画や事業者の権利義務関係等を定めた新法を制定することにより、厚生労働省からの補助金の丸投げという不安定で無責任な事業形態を脱却し、法的責任の明確な事業主体による持続可能な事業運営を担保することができる。もしそうした中で新たな「骨髄・さい帯血バンク」のトップが経営判断のミスを行えば、説明を尽くし、それでも足りない場合は責任を取って辞任するというプロセスも確立できる。

今、行政刷新会議による公益法人の事業仕分けリストに骨髄バンク(「骨髄移植推進財団」)が挙がっていると聞くが、単に組織として「不要」とするだけでなく、バンク機能の「要改善」点をあくまで患者目線に立って議論し、今回のさい帯血バンクの経営危機問題も踏まえた、骨髄・さい帯血両バンクの本質的で包括的な制度改正に繋げていただくことを期待したい。

また、移植は献血と同様、「ドネーション」という善意で成り立つ仕組みである以上、それを預かるバンクの職員には、高い倫理観と公共心が求められる。いみじくもアメリカの骨髄バンクは患者やその家族が主体となって運営されていると聞く。充て職の天下りポストなどあってはならないことだ。移植を希望するすべての患者のためにも、さい帯血バンクそして骨髄バンクの一日も早い改革を求めていきたい。

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