医療ガバナンス学会 (2010年4月23日 07:00)
日本では、国民が所得に応じて健康保険料を支払っており、これを原資として、医療費が支払われています。その額は、所得に比例して決定されています。しかし、窓口で支払う自己負担金(外来では3割)は所得に関わらず一定のため、所得の少ない人ほど負担が大きくなってしまいます。また、所得が少ないために健康保険料を支払えないと、医療費が全額自己負担になり、所得の少ない人が医療の恩恵に浴しにくい状態があります。
「社会の中のより裕福で高い教育を受けた人々は、それ以外の人々に比べて、より長生きで健康な生活を送る傾向にある。」(「健康格差と正義」ノーマン・ダニエルズら著、児玉聡監訳、頸草書房刊より)とされています。かつて、日本は一億総中流と言われ、格差が少ない社会でした。しかし、近年の社会経済的格差の拡大にともない、健康格差が拡大しています。健康格差は、単に医療へのアクセスの格差ではなく、健康に対する知識の差や、喫煙率、飲酒量、労働環境など、さまざまな社会的格差の総和として生じるため、医療制度を変えるだけでは解決しない可能性があります。しかしながら、お金がないことを理由に、治療をあきらめている人がいることも事実です。
「がん患者、お金との闘い」(札幌テレビ放送取材班著、岩波書店刊)では、まさに爪に火をともすような生活をして子どもを育て、がんと闘う患者さんの姿が描かれています。なかには、離婚して、生活保護を受けて治療を続ける患者さんがおられるそうです(筆者注:私有財産があると生活保護が受けられないためです)。病魔との闘いは、肉体的、精神的につらいものです。そのさなかに、経済的にも追い詰められてしまうのは、想像を絶するつらさだろうと感じました。
現在の日本では、保険料など負担感はあるものの、重い病気になった時には、十分なサポートが得られない、ちぐはぐな医療保険制度です。かつて「民でできることは民で」と言った首相がいましたが、民間の医療保険しかない米国の寿命が先進国で群を抜いて短いことを考えれば、医療保険は公がやるべきだと思います。重い病気になった時に、どのような医療保険制度ならば安心できるでしょうか。私は、現在の窓口負担や、高額療養費返還制度の仕組みは、変えるべきだと考えています。多額の医療費が使われる、終末期の濃厚な医療のあり方などは、国民的なコンセンサスを得たうえで、見直すべきではないでしょうか。
また、医師が患者さんの費用負担の現状について、知ることが必要だと感じています。「医療」とは、医療行為だけを指すのではありません。私は、患者さんが社会生活を送れるようにするための介入すべてが「医療」だと考えます。医療者にも意識改革が求められていると思います。
最後に、ツイッターはじめました(http://twitter.com/KusumiEiji)。医療制度について呟いてますので、こちらも是非フォロー下さい。