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Vol.047 コロナ流行が懸念されるアフリカの現状と課題

医療ガバナンス学会 (2020年3月9日 06:00)


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秋田大学医学部医学科5年
宮地貴士

2020年3月9日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

「チャイナ、コロナ!」アフリカ南部にあるザンビアのバーでお酒を飲んでいたところ、入店してきた男性にいきなり声をかけられた。ザンビア人の多くはアジア人=中国人と思っている。普段は「ニーハオ」と挨拶されるところだが、いつの間にか「コロナ」に変わっていた。「日本の医療は発展しているから羨ましい。ザンビアで広がったら大変だ」。彼が不安がるのも無理はない。

現地で最も読まれている新聞、Zambia Daily Mail の広告欄にはウイルスの画像と共に簡単な解説が連日取り上げられている。そこには、中国で始まったことや生きた動物が売られていたマーケットが感染源だったこと、症状や世界的な広がりについて言及されている。だが、実際に症状を疑った際の医療機関のかかり方や予防法については書かれていない。

同紙の2月28日の社説ではサブサハラアフリカで初となるナイジェリアでのコロナ感染を受け、より一層水際対策に注力するように書かれていた。また、現在は1つしか用意されていない隔離施設を増やすことも提案されていた。新聞広告もそうだが、コロナを不安に思う住民目線のメッセージではなかった。

新聞を介してだけでなく、保健省は携帯のショートメッセージを使い国民に直接情報を伝えている。2月に入ってからこれまで4回に渡りコロナウイルスに関するダイレクトメッセージが届いている。2月12日(水)に送られてきた第1報はたった2文だが、恐怖を煽るものだった。「新型コロナウイルスは一般的な風邪に似た上気道感染症を引き起こす。 深刻なケースだと肺炎や腎不全を引き起こし、死に至らしめる病気である」。

このメッセージを受けて、国民の不安は増加した。友人の薬剤師によれば、マスク、アルコール消毒、石鹸が飛ぶように売れ始めたようだ。ザンビアをはじめ、多くの南部アフリカ 諸国ではシマと呼ばれるトウモロコシの粉をお湯で練ったものをみんなで手を使って食べる。この食事スタイルを介して感染が広がると思っている人も多い。国民の不安を受けてか、それ以降に保健省から届くメッセージには Death(死)という言葉は使われていない。

新型コロナウイルス(COVID-19)がアフリカ大陸にも広がりつつある。3月6日現在、エジプト、アルジェリア、ナイジェリア、セネガル、モロッコ、チュニジア、南アフリカの7か国で報告されている。いずれもフランスやイタリアなどの外国国籍の方や海外への渡航歴がある人のようだ。

中国とアフリカの関係は急速に強まっている。アフリカに拠点を設けている中国資本の会社は10万社を超え、延べ200万人以上が生活していると言われている。中国とアフリカの直行便は平均して1日8本を超え、年間85万人以上の移動が可能である。その内の半分以上はエチオピア航空が占め、中国人が最大の客のようだ。

アフリカから中国への人の流れも著しい。中国入国管理局の報告によると2018年度に中国で学ぶアフリカからの留学生は8万1,000人だった。フランスに次ぐ、世界2位の留学先となっている。コロナの発生源となった武漢市で学ぶ学生は5,000人を超えるようだ。ザンビアも例外ではない。現在4,000人を超える留学生が中国で学んでおり、その内、186人は武漢市に滞在している。

これだけ人の交流があれば、アフリカ諸国にウイルスが広まるのも時間の問題だろう。潜伏期間を考えれば、水際対策だけに注力していては事足りない。国内での検査体制を整える必要がある。

WHOと英国国際開発省(DFID)はザンビアでのコロナ対策資金として US15万ドルの支援を表明した。また、WHOはザンビア大学医学部付属病院(UTH)、Levy Mwanawasa病院、さらに、現状唯一の隔離施設に指定されているTubalange病院のスタッフ35名に対して院内感染の防止方法などをトレーニングした。UTH の臨床検査部は現在ザンビアで 唯一コロナの確定診断が可能な場所だ。それに必要な染色液や諸々の感染防護服などは WHO が提供している。診断から治療、隔離などのガイドラインも WHO が作成し、現場の医師とも共有されているようだ。

現場からはまだまだ発展途上の医療事情に関して少なからず不安が聞こえてくる。地方の中核病院に勤める医師は言う。「ザンビアでは肺炎患者でもPCRなんてほとんどやらない。市中病院でコロナを疑いPCRをやることは現在は考えられていない。コロナは知らぬ間に広まってしまうのではないだろうか」。

彼の不安に同意する一方で一つ指定したいポイントがある。コロナが広がること自体は大した問題ではないことだ。重要なのは致死率の高い高齢者や持病を持つ人々をいかに守るかだ。中国の疾病対策センターによれば、コロナ全体の致死率は2.3%。年齢別では10代から50代までは1%前後であるが、60代は3.6%、70代は8%、80代になる と14.8%まで上昇する。だが、ザンビアをはじめとするアフリカ諸国と欧州や中国、日本とは人口構成が全く異なる。ザンビアの65歳以上の人口割合はたった2.1%だ。人口の40%以上が14歳以下の子供たちである。

この点を踏まえれば、コロナの広まりを過度に不安がるのではなく、リスクの高い人々が早期診断・早期発見されるようにすることが大切だ。

むしろ私が懸念しているのは、国民の過度な不安による経済的なダメージだ。いくつかのアフリカ諸国では観光客の渡航自粛や流行地から来た人の入国拒否などの措置は既に取られている。ガーナでは日本を含む感染国における大使館での入国査証の発給が停止された。 これに伴い、実質的にガーナへの入国が不可能になった。ナイジェリア、ベナン、ウガンダでは症状がなくても入国後14日間にわたって自主隔離が義務付けられている。リベリアの場合は指定の検査センターで隔離される。スーダンとチュニジアの場合は、14日間にわたって毎日、電話で保健省に体調を報告する必要がある。また、南アフリカ航空、ロイヤルエアモロッコ、タンザニア航空、モーリシャス航空、エジプト航空、ルワンダ航空、ケニア航空の7社は中国からと中国への飛行機を一時的に停止している。(3月6日現在)

このような状態が続き、さらに日本のように国がパニックに陥り、イベントの中止や学校閉鎖が起き経済活動が停滞することが、現在考えうる最悪のシナリオではないだろうか。今月、ザンビアに来る予定だった友人は大学からの渡航禁止を言われキャンセルせざるを得なくなった。現在ザンビアでは感染国からの入国者は14日間の自主隔離を「推奨」されて いる。隔離を強制すれば、外国人観光客は著しく減少するだろう。この意思決定は各国にゆだねられている。私たち国民一人一人は、手洗いうがいをしっかりし、よく寝て免疫力を高めるという当たり前のことに専念すればよい。

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