医療ガバナンス学会 (2020年3月13日 06:00)
匿名
2020年3月13日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
そんな中、2月26日にNew York Times紙や日本の国際ニュースメディアで中国政府による都市封鎖処置によって新疆ウイグル自治区では、飢餓が広がっているというニュースが報道され、米国を中心に話題となっています。
しかし、知人の新疆ウイグル自治区出身のウイグル人に、現在のウイグル自治区の様子を尋ねたところ、報道とは大きく異なり、自治区内の人々の生活は緊迫したものではないと言います。本稿では、現在も新疆ウイグル自治区で暮らす知人の家族の様子や、同区における新型コロナウイルスに関する話題についてインタビューした内容を紹介したいと思います。
報道の大元となっているのは、「ウイグル人権プロジェクト(Uyghur Human Rights Project)」という米国に本部を置く人権保護団体の報告です。同団体の公式ホームページでは、ウイグル人の収容施設で新型コロナウイルスの感染が広まっているレポートや、ウイグル人男性が空腹を訴え叫ぶ動画が紹介されています。(参照:https://uhrp.org/)また、ウイグル人権プロジェクトの告発では、新疆ウイグル自治区では、「多数の」人々が厳しい自宅待機を命じられ、都市封鎖によって食料や医薬品などの生活必需品の物流が滞り、飢餓に苦しんでいると報告されています。
<飢餓の原因は都市封鎖ではなく、人々の買い占め>
知人のウイグル人によると、少なくとも自分の家族が住むボルダラ市では、人々は不自由なく生活し、買い物くらいなら外出は許されているそうです。また、飢餓が起こっている都市が新疆ウイグル自治区内であるとしたら、フェイクニュースに翻弄され、各地で起こっている不要な買い占めのせいではないかと話していました。
ニュースでは、『中国政府による厳しい規制』によって飢餓が発生していると報道されていることを話すと、「それは、到底、考えられない」と失笑していました。
理由を尋ねると、それは新疆ウイグル地区の民族構成にあると説明してくれました。2017年のウイグル地区の人口は2千5百万人で東京都の人口の約1.8倍です。居住する民族の構成は、約50%がウイグル語を話しイスラム教を信仰するウイグル民族で、約40%が漢民族、その他がカザフ族、キルギス族、モンゴル族の人々です。
そしてその役40%の漢民族の殆どが、ウイグル民族を教育するために中国東部から派遣されている政府の役人だそうです。その為、その人達も巻き込んで物資を滞らせることはまずないと言います。日本や世界各国で起きている生活必需品の買い占めは、中国では1月初旬に起きたそうです。知人は、その余波が貧しい人々に及んでいるのであって、ウイグル地区特有のものではないだろう、と話していました。
<新疆ウイグル自治区の人々の新型コロナウイルスへの反応>
3月1日現在、新型コロナウイルス感染への緊張はほとんど解けている状態だそうです。知人の故郷の人達も、中国本土の人々も、「日本の方が感染リスクが高く、大変そうだな」という感想を持つ人がほとんどだそうです。昨年12月末から1月初旬は、健康な成人でも感染すると致死率が高いといったフェイクニュースが出回りパニック状態に陥ったが、コロナウイルスに感染した看護師の女性とその夫による看病や感染予防方法を紹介したライブ動画配信などにより、感染に対する過剰な反応がなくなっていったそうです。
2月初旬から、全ての教育機関は休校となり、会社もリモートワーク以外は業務停止を定められていたそうですが、2月28日より知人の母は勤め先に復職したそうです。
業務停止が定められていた期間中も、人々の生活を支えるのに必要最低限の小売店、水道水や電気、ガスの配給する部署、警察署ではごく一部の人が通常通り勤務し、人々の生活を支えていたと言います。
<新疆ウイグル自治区の人々と感染症>
2月5日のThe Diplomatによる報道では、新疆ウイグル自治区での感染者数は32人でした。これは、ウイグル自治区の人口や2月5日時点で中国本土の感染者数が約3万人で死亡者は500人を超えている事を考えるとかなり少ないです。
このことについて尋ねると、知人は「確かに、新疆ウイグル自治区の実際の感染者数が正確に把握できておらず、実際は報道を大きく上回る可能性があります。しかし、ウイグル自治区ではSARSも殆ど感染が拡大しませんでした」と話していました。これには、中国政府によるウイグル人の管理や規制が要因となっているそうです。
現在、ウイグル人は自治区外に出る事を許されず、ウイグル地区を出入りできるのは漢民族だけだそうです。その為、SARS流行時も今回の新型コロナでも、ウイグル地区内で感染が最初に確認されたのは、休暇中に故郷へ一時帰省しウイグル地区へ戻った漢民族の人たちだったと言います。また、ウイグル人はムスリムの為、ハラルの肉しか食べることができません。しかし、中国政府の管理下で、ハラルの肉は入手が困難であることから、基本的には肉食はせず、野生肉を食べることは絶対にない為、ウイグル自治区から未知のウイルス発症リスクはかなり低いのだといいます。
<最後に>
中国政府によるウイグル人弾圧や、人権を無視した収容所への送還は壮絶なもので、あってはならないものだと思います。しかし、知人は、「メディアで報道されていることが全てではない。私たちの多くは、静かに平和に暮らしていきたいと思っている。こう言っては悪いけど、香港に中国政府の注目が集まった時は、ほっとした」と話していました。ウイグルの人々は過剰な報道を歓迎しておらず、とてもセンシティブな問題であるだけに、正確に情報の発信する必要があるのだと思います。