最新記事一覧

Vol.053 新型コロナ、検査で陽性だと軽症でも入院・隔離されてしまう法律の矛盾、至急改正を

医療ガバナンス学会 (2020年3月17日 06:00)


■ 関連タグ

わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2020年3月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.軽症者の扱いに関する矛盾

新型コロナウイルスに感染した可能性があっても、風邪症状が軽い人は自宅療養で経過を追うようにという指示が出されています。

ところが一方で、新型コロナウイルスの検査で陽性に出てしまったひとは、たとえ症状が軽くても入院・隔離されてしまいます。

どうしてこのような矛盾した対応がとられているかというと、その原因は「感染症法」という法律の規則にあります。この法律で規定している二類感染症に対しては、全症例を把握して、対象者を隔離しなければいけないと決められているのです。そして、新型コロナウイルスもまさにこの「二類」に相当する感染症に指定されたからなのです(指定感染症)。

今、国や地方自治体が行っている防疫・医療上の対応、すなわちクラスターと呼ばれる感染集団を徹底的に調べ上げて、濃厚接触者といわれる人たちすべてに検査を行って、陽性ならば入院・隔離するのは、もちろんこの新興感染症を拡大させないためなのですが、一方で感染症法という法律を守るためでもあるのです。検査をするときに防護服を着たり、検体の運搬を厳重にしなければいけないのも同様です。

この法律の対象者はあくまで「コロナウイルス罹患者と確定したひと」つまり検査で陽性だったひとだけですから、同じ軽症者であっても片や検査を受けていない人は自宅療養、片や検査で陽性だった人は入院・隔離という真逆な対応がとられるという矛盾がおきているのです。

2.感染が広がった蔓延期では対応を変えるべき

新興感染症の防御にはいくつかのフェーズが想定されていて、流入期ではネズミ一匹逃さないような徹底した監視体制がとられ、したがって法律的には「二類」相当の管理が適当です。でも、感染源が特定できないような感染者があちらこちらで出現してくるような状況はすでに次のフェーズの蔓延期です。このフェーズに入ったとたんに180度方向転換した対策に切り替えられなければなりません。ここが重要なポイントです。すまわち、軽症者の隔離はやめて、重症者の管理に集中し、軽症者は一般の診療所を受診して治療を受けます。そうなれば当然、防護服を着てはいられませんし、検査も同様です(診察のときは防護服を着ていないのに検査のときだけ防護服を着るのは矛盾しています)。

しかしこのような対応に切り替えるためには、法律上「二類」相当のままではおかしなことになってしまいます。季節性のインフルエンザなどが含まれる「五類」に鞍替えさせなければいけないのです。そうなると、検査で陽性の軽症者を入院させておく義務はなくなり、自宅療養に切り替えられます。しかし、今の日本の現状は蔓延期に入っているのに初期の流入期の対応を続けている状態なので矛盾が生じています。もちろん蔓延期に入ってもクラスターの追跡は感染拡大の防ぐための有効な手段であるのは変わりないですが、少なくとも冒頭の矛盾は解消されて不必要な隔離をしなくてもよくなり、患者さん自身が解放されるばかりでなく病院側の負担も大きく減少します。さらには、検査体制の整備も格段に進むものと思われます。早急に「二類」から「五類」へ変更することが望まれます。

3.検査を拡大させると重症者が増えるのか、それとも逆に減るのか

今一番大切なことは重症患者さんを減らすことです。しかし、治療法がないという現状では、感染したひとの一定の割合が重症に移行することは避けようがありません。となると重症者を減らす唯一の手段は感染者を減らすことで、そのためには少しでも感染の拡大を抑えることが重要なのです。すでに感染しているひとがほかの人にうつすことで感染が広がっていくわけですから、感染してしまった人が自宅療養など行動を自制することが最も大切なわけです。無症状だったり症状が軽いとどうしても動き回ってしまうけれども、検査で陽性と診断されれば誰しも行動を自制します。このことがとても重要なのですが、残念ながら「検査を多くすると重症者が増える」という仮説が支持されていて、検査をしない方向へ世論が大きく動いています。

「検査を多くすると感染者が増えて、重症者の増大で医療崩壊する」というシナリオです。重症者が増大して病院のキャパシティーを超えれば病院は機能しなくなります。でもよく考えるとそれは検査とは全く関係がないことがわかります。検査をすることで感染者が増えるのではなくて、すでに感染しているひとが明らかになるだけだからです。つまり感染者が増えていくのは検査を多くしたからではないのです。ここが誰もが錯覚してしまうところです。むしろ検査を多くして陽性者がほかの人にうつすことを抑えることで感染者が少しでも減ってくれれば、重症者も減るのです(海外の多くの国ではそれを目指しています。)。

もう一つ考えなければいけないことは、検査をして陽性とわかった軽症者の扱いです。今の法律に乗っ取って病院に入院・隔離にすると、どんどん軽症の入院患者さんが増えていってそのために病院が満杯になり、重症患者さんの入院が滞ったり、入院中の患者さんのケアも十分できなくなりなどの影響がでるのです。これを避けるためには法律を改正するか、法律の解釈を変えて、自宅療養での隔離に切り替えれる必要があります。

4.検査を多くすると国民が安心する理由

私が考える「検査を多くすると国民が安心する」理由は、「個々人が陰性だということがわかる」からではないのです。今、我々の周りにどれぐらい感染者がいるのか、それがわからないから不安なのです。今は既に感染したひとの周辺だけ調べて(クラスター追跡)感染者数が増えたとか減ったとか意外と少ないとか評価していますが、クラスター追跡とは別にどのぐらい社会に広がっているのかを調べなければ本当の実態がわからないでしょう。だからそれを調べて、例えば意外と少ないというのがわかったら安心できるし、厳しい行動制限措置(大きな集会の禁止など)も緩めることもできるのです。逆に意外と感染者多かった場合であっても、実態がわからないよりわかったほうが安心できませんか。どういうところに注意したらいいかももっと明らかになるからです。

5.さらに検査体制を充実させなければいけない理由

検査をする必要のある人達がいっぱいいるということをお話しておきたいと思います。それはリスクが高いとされる高齢者や合併症のある人と接する機会の多い職業の人達です。感染しても診断されないでいると、ウイルスをばらまいてしまいます。これだけは極力避けなければなりません。具体的に挙げればきりがないですが、医療従事者(医療従事者の感染例は海外でも数多く報告されています)。福祉や介護に従事されている方、役所や警察、消防の方々など。感染拡大防止の観点からは、保育士や学校の先生も含まれるでしょう。

このように検査が必要なひとの「希望者全員」が検査を受けられる体制作りが必要なのです。これらを実行するだけでも今の検査体制では到底できません。将来、キャパシティーが十分になれば、それ以外の希望者にも検査が拡大できるでしょう。いろいろな問題が解決されれば「検査をしてはいけない」理由はあまりないのです(検査を受けたくないという人は当然「受けない」という選択をすればよいわけです)。

6.検査をあまりしないほうがいいと考えるほかの理由

検査をあまりしないほうがいいと考えるほかの理由についても一つ一つ考えてみましょう。

1)若い人の多くは軽症で済む場合が多い。
2)治療法がないのだから検査で陽性と分かっても何のメリットもない。
3)検査の感度が悪いから、偽陰性(罹っているの陰性にでる)だと安心して動いてしまって逆効果だし、擬陽性(罹っていないのに陽性となる)なら罹ってもいないのに隔離や行動自粛をもとめられてしまう。
4)病院というところには罹患者がいる可能性がある危険な場所で、検査のために病院に行って逆にうつされてしまうリスクがある。
5)検査のために病院に多くの人が訪れて、病院が疲弊する。
6)日本の現状はまずまず大きな感染の拡大を抑えられていて、比較的コントロールされているのだから何も変える必要はなく、現状維持でよい。
7)検査のキャパシティーがない。

どれもなるほどと納得するような説得力のある理由と思われますが、少しずつ議論の余地があるように思われます。
1)2)多くの人にとっては本人のメリットはあまりないのですが、検査をする意義は人にうつさないため、つまり自分ではなくほかの人のために検査をするということです。そのために無駄な労力やお金を使いたくないというのは理解できますが、自分のおじいちゃんやおばあちゃんの安全のためと思えたら、検査をしてもいいのではないでしょうか。
3)検査の感度が低いとしても今はこの方法しか診断する方法がないのですから、この検査の特性を理解したうえで検査結果を解釈するしかありません(重症者の確定診断もこの検査で行っているのだから状況はお同じです)。検査を受けないという選択の自由は当然ありますが、検査を受けたいというほかの人の権利まで奪わなくてもいいのではないですか。
4)5)この問題があるから、海外においては屋外(屋内より安全)の検査専用の施設とか、ドライブスルー検査という方法が工夫されているのだと思います(韓国、アメリカ、オーストラリア、ドイツなど)。
6)この問いかけが最も説得力があるように感じます。まさにその通りかもしれません。ただし、ある程度、日本全体にどのくらい感染者がいるかを検査で明らかにしなければ、本当にうまくコントロールされているかはわかりません。「重症者や亡くなられた方の数が少ない」という事実がそのことを裏付けているのは確かですが、行政の行っている感染動向調査数はあまりにも少ないと言わざるを得ません。

7)もうこれを言われたらすべての議論が吹き飛んでしまいます。であるならば、至急キャパシティーを増やす努力をしてほしいということです。大事なことであるならば、公費で機械を購入して民間にも無償で供給してもいいし、法律も整備して検査方法を工夫していけばいくらでもキャパシティーを増やすことは可能です。諸外国でできていることができないわけはありません。

7.まとめ

最後にもう一度、重要なポイントをまとめます。

「検査を(多く)すると亡くなる人が増える」は間違い。」
(影響力の大きい橋下徹氏もそうおっしゃって検査を増やさないように主張されています)

https://news.livedoor.com/article/detail/17967636/

検査陽性でも軽症なら隔離されないように法律を改正しないと、検査は増やしたくでも増やせない。(今の法律のままで検査を広げたら、病院の隔離枠はすぐに満杯になる)

https://www.jmedj.co.jp/journal/paper/detail.php?id=14225

https://blogos.com/article/442888/

最低限、検査をする必要があるひとがいて、その人たち全員が検査できることが重要。
(群馬県の医師が感染したまま1週間診療していました)

https://headlines.yahoo.co.jp/hl?a=20200314-00000595-san-hlth

何とか感染の拡大を最小限に抑えてこのやっかいな新興感染症を乗り切りましょう。

 

MRIC Global

お知らせ

 配信をご希望の方はこちらのフォームに必要事項を記入して登録してください。

 MRICでは配信するメールマガジンへの医療に関わる記事の投稿を歓迎しております。
 投稿をご検討の方は「お問い合わせ」よりご連絡をお願いします。

関連タグ

月別アーカイブ

▲ページトップへ