医療ガバナンス学会 (2020年3月30日 06:00)
これまでの感染対策は隔離策が中心でしたが、すでに隔離策による拡大抑止力と社会経済活動再開の勢いとが拮抗しながら、国内感染者数が微増または高止まり状態の期間に入り始めているようです。今後は、どこかのクラスター監視網が決壊するたびに、一時的な制限措置を繰り返すことにより、感染者数をある程度抑え続ける形での長期にわたり自然終息を待つというのが、多くの国で予測されている共通認識です。死亡者数の増加は、医療供給体制の崩壊による受療機会の喪失によってもたらされていることが指摘されており、今後の感染拡大緩和策の第一目的は、すでに飽和状態に近い病院医療供給体制の決壊を抑えることです。
ワクチンまたは薬という決定策登場を当てにするのが非現実的な状況であり、幅広い検査の実施による感染の特定と患者の隔離を続けること以外打つ手がなく、米国連邦政府も民間セクターと連携し、検査キットの生産を加速中です。そのために必要な道具が検査キットなのです。地域のサンプリング数、つまり検体採取対象の被検者数を大幅に増やし、現在PCRの対象から漏れている無症候や軽症患者までをもモニタリングするために、一刻も早く抗体検査キットの大量の配備をすることだと信じております。
PCRはウイルス存在診断として必要ですが、元来大量処理には向いていない汎用性の低い高額検査です。一方、抗体検査は、取り扱い容易、普及させれば診療所や献血テントでも実施可能、15分で結果判明。採血は咽頭や喀痰採取に比して患者からの感染リスクが圧倒的に低く、検査手技の上手下手は結果に関係ありません。感染症指定病院以外でも必要な感染防護さえできれば実施可能、現在稼働中の全国の民間検査会社が容易に導入、受託できます。
抗体検査は一人1回あたりIgMとIgGの2種類のキット検査から成りますが、一般にIgM上昇により感染急性期、IgG抗体の上昇により感染症の回復期であることが示され、個別患者の経過判定において、PCRの結果と組み合わせることで、治癒判定の精度が上がることが期待できます。
この検査キットを全国配備し、
1.インフルエンザ予防接種の運用と同様に、許容可能な自己負担または無料で、全国の診療所や市中一般病院、保健所、自治体などで血液検査を受けることができるようにする。検査キットの供給量により、検体処理を民間検査会社への送付にするか、その場で処理するかを決める。保険診療にせず提供することで、保険財政や国庫に過剰な負担をかけずに済ませることができます。
2.事前同意取得により、検査結果を必ず行政管理のもとに置き、国内散布状況やクラスターの発生状況を把握し続けることができる体制を作る。
3.IgM陽性者については、もちろん感染者として自宅待機や治療対象者になるが、2回目以降の追跡検査を保険扱いにして、医療機関や保健所の管理下に置く。
という体制を整えることによってモニタリングすることで、これまで見逃されていたかもしれないウイルスの潜在的存在地域を網羅的に把握し、地域の隔離措置を的確に実行するための有効手段にもなりえます。
クラボウ社がすでに中国からの輸入販売(販売価格1回分2500円)を開始しましたが、地球規模での需要を想定すると輸入依存では十分な供給量が確保できないことも予想されるので、ぜひとも一刻も早い国産品の製品化と普及が望まれます。横浜市立大学がすでに抗体検査の技術は持っています。さらに、すでにあるインフルエンザなどの簡易キットの製造ラインを利用、フル稼働させれば、大量生産可能です。大学技術者や関係メーカーを招集、共同事業をすばやく実行、大量供給を可能にできる見込みがあるものと考えられます。さらなる低価格化も可能かもしれません。いずれにせよPCRよりも格段に安価で、仮に患者全額負担でも十分な需要が見込めます。
今日からの感染拡大緩和策に寄与する、今入手可能な限られた手段、かつ実効性の期待できるものとして、抗体検査キットの早急な大量入手または大量生産による全国配備をするべきです。最優先に資源、資金を投入すべき技術、製品であり、そのために政府がやるべきことは、特許手続きが必要であれば優先的に進め、製品化のために必要な予算を確保し、関係メーカーが早く協業できる態勢を確保することです。大学研究者とメーカーをすぐに招集し、小さなチーム日本を即刻立ち上げることです。制圧のために資金、人的資源や設備の提供をご希望になる民間企業や投資家の方々のお力もお借りすれば、計画のより早い実現が可能になるのではないかとも思います。
小さな一歩としては大きな効果を生みうる、現時点でまず手を付けるべき作業だと信じております。