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Vol. 157 失敗か?成功か?診療関連死モデル事業運営委員会報告を読む

医療ガバナンス学会 (2010年5月6日 07:00)


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医療制度研究会・済生会宇都宮病院 中澤堅次
井上法律事務所・弁護士      井上清成

2010年5月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


平成22年3月24日、医療版事故調査委員会設置法案に関わるモデル事業の報告がワーキンググループから発表された。3年間の結果を報告するとともに、民主党政権下でも存続が決まったことを受けて学会関係の法人事業として再開し、第三者機関の法制化のために事業の継続を求めている。

■ 結果は失敗だが事業の方針は変えない。
事故調査委員会設置法案に多くの医師が反対する理由は、懲罰的な死因究明制度に対する問題の他、解剖重視の調査と評価の限界、遺族への説明の難しさ、費用対効果の悪さ、評価する医師の資格と人材難などに加えて、再発防止対策に不可欠な院内調査を第三者機関が代行するなど、制度上の欠陥があるからだった。

今回の報告書では、指摘されていた欠陥がそのまま事実として証明された形になっており、院内調査については第三者評価の補完の意味と断った上だが重要性を認めている。
様々な欠点とともに院内調査の重要性が認識されたので、第三者機関による安全対策は難しいという結論になるかと思ったが、相変わらず従来の方針を変えず、評価にあたる医師の人材難を補うために、専門的な教育を受けた厚生局職員や、少数の評価担当専門医を養成し、検証の範囲を拡大し、刑事処分、行政処分など法的な仕組みも明確化すると述べている。同じ事実の把握でありながら、正反対の結論を意図的に導きだす、わが国の特有の結論ありきのたちの悪い行政手法の現実を見た気がする。

■ 報告書が出来るまでに10ヶ月、一例当たりのコストは95万円
モデル事業は平成17年から22年まで約4年間、厚労省の補助金で日本内科学会を中心に行われた。事業の目的は解剖を前提に死因究明と診療行為の医学的評価を行い、診療行為の是非の判断と再発防止の二つを事業の目的としたという。現地調査には、病理医、法医、立会い医の三名が入り、解剖医、臨床評価医、法律家、総合調整医、解剖担当医など10名の委員からなる地域委員会が評価を行った。
調査報告書が出るまで掛かる期間は平均10.4ヶ月、コストの内容が詳しく書かれているが、一例あたり合計で94.7万円かかったという。
調査は解剖重視の姿勢をとっており、中立性と遺族への配慮から当該病院での解剖と主治医の立会いは認めず、関連のない施設に移送して行うという犯罪捜査なみの念の入れようである。

■ 解剖重視だが死因解明に役立つことは少なく院内調査が調査に主流に
解剖で死因が特定される事例は少なく、死亡まで時間が経過すると役に立つ所見は見つからないとも述べている。結果的に死因究明は臨床調査中心に行われ、当事者が行う院内調査の報告が有用だったとしている。今後の方針は、中立・公平な解剖医や法医を迅速に派遣し、当該病院で解剖するなど便宜性を高め、Aiなどを積極的に取り入れ、必要な人材確保や検査費用は公費負担を求めるとし、限界に挑戦してでも解剖を重視する内容になっている。

■ 地域や評価委員会ごとに異なる評価
評価は地域や評価委員会ごとに差があり、報告書でも臨床行為の是非と再発防止が混同され、途中から両者の記載の区別を明確にするなどの対策をとったが、統一的なレベルでの報告書作成は容易ではないとしている。医療行為の是非の判断と再発防止の反省が両立しないことを認めているようである。

■ 医師や臨床評価委員は時間調整が難く、今後は医師以外の専門職を活用する。
医師や臨床評価委員は通常業務の間に召集されるため時間調整が難しかった。今後は業務の効率化のために、調整看護師を活用し、評価委員を減らし、専任評価員を固定して習熟させるなど、医師以外の職員を活用する。地域間の評価格差を無くすためには、中央に調整看護師を配置し、各地域と定期的な協議の場を作り連携強化を行うとしている。
現在地域事務局は24時間体制になっておらず、夜間祝休日の対応が出来ていない状況であるが、今後調査対象を死亡例以外にも広げるために、さらなる医療従事者の確保が必要とし、臨床専門医であっても事例の医学的評価は難しいため、経験・研修を積んだ公正・中立性な評価を継続して行える専門臨床医の養成が必要としている。刑事処分や行政処分の検討は今回の事業では行わなかったが、制度化に当たっては法的役割を明確化する必要があるしている。

■ モデル事業からは再発防止の提言は十分にできない
再発防止の提言内容は、病院の要因から、医療体制や医療界が関係することまでにおよび統一が取れず、モデル事業からの提言は十分実施できなかったと述べている。今後は報告書の統一を図り、関係行政機関に対して、勧告や建議を行うことを引き続いて検討するとしているが、日本医療機能評価機構と連携し、院内の再発防止策の提案を事業側でピアレヴュウする作業モデルを検討するなど、第三者機関単独では再発防止に限界があることを証明した形である。

■ 遺族との関係はおおむね良好だが特別の配慮が必要とし民事訴訟もある
モデル事業では、遺族が問題とするポイントをつかみにくく、結果が出るまでに時間がかかり、報告書は専門的で難解という指摘があった。そのため遺族と調査委員会の間に調整看護師が入り、質問意見書の提出や、調査進行状況の経過報告、調査報告書の事前配布などの改善を図った。
遺族の評価は8割が好評であり、多くは医療行為と死因の解明で死者に最善を尽くしたという印象を持っている。医療機関も評価内容に対する満足度は高いとし、遺族との関係は改善が悪化を大きく上回り、55例の追跡調査では、刑事事件0、民事訴訟2、可能性あり2、示談・和解12であったとしている。

別紙で報告されている事例の多くは入院中に生じた、ミスや不祥事が関係しない死亡で、最初から訴訟になるようなケースは稀である。また、回答により遺族との関係が悪化した例が少なからずあり、民事訴訟が検討中も入れて55例中4例近くもあったことを考え合わせると、医師法第21条の届け出を含まず任意の参加で、訴訟によらない問題解決を目ざすモデル事業にしては調停失敗が多すぎるという印象があり、本当に問題解決になっているのかどうか疑問が残る。

■ 第三者機関の今後は院内調査重視とADRやメディエーションの仕組み?
結論では、モデル事業は、医学的に死因を究明し医療行為を評価することができた。中立的な第三者機関の必要性は事業を通じてさらに明らかになったと述べている。しかし、同時に院内調査の存在に頼らざるを得ず、医療紛争には他にADRやメディエーションなどの仕組みも想定しているなど、第三者機関による問題解決の限界も明らかである。
実現しそうも無い大掛かりな死因究明制度に加えて、院内調査を配しADRもつけて、何のために自然死の範疇に入る医療関連死を究明しなければならないのか。人の死に関して根源的な議論もなく、医療を手段とした犯罪死と医療による致死を混同し、上層組織の思惑ばかりが先走る。安全のための努力は重要だが良心的医療にも完全は無く、第三者機関による解剖重視の死因究明制度では、医療の妥当性を証明することも、安全対策に責任を持つことも難しいというのが妥当な結論であろう。

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