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Vol.083 COVID-19対策によって、麻疹やポリオの大流行を引き起こさないために

医療ガバナンス学会 (2020年4月27日 06:00)


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帝京大学大学院公衆衛生学研究科
高橋謙造

2020年4月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

COVID-19(新型コロナウイルス感染症)が世界中の人々の予防接種に影響をもたらしている。ヒト同士の物理的距離をあけることが感染予防につながるため、子どもへの接種を延期したり(途上国での予防接種キャンペーンの延期も含む)、物流の停滞でワクチンの運搬が困難な国も出始めている。ユニセフは、麻しんワクチン接種を逃す子どもが世界37か国で1億1,700万人と推計している(2020年4月14日The Measles& Rubella Initiative)。

特にアフガニスタン、コンゴ共和国、ソマリア、フィリピン、シリア、南スーダンでは麻しん、コレラ、ポリオ対策にさらにCOVID-19の感染拡大阻止が加わり、何に重きを置くか苦渋の選択が迫られている。予防接種に関する戦略諮問委員会(Strategic Advisory Group of Experts on Immunization: SAGE)や世界ポリオ根絶推進活動(Global Polio Eradication Initiative: GPEI)は、予防接種キャンペーンを一時中止・延期する方針を表明した。

ポリオ(小児麻痺)は、現在でも、アフガニスタンとパキスタンでは、ポリオ野生株が急増している。アフリカでは、経口ポリオ生ワクチン接種児からのワクチンウイルス伝播による感染拡大が問題になっている。いずれの地域とも、ワクチンの中断により、麻痺性ポリオが増加する。やがては、近隣のポリオ排除国へと流出することが危惧される。

麻しんは、近年、欧州や米国でも大流行が起きている。エボラウイルス感染症が流行したコンゴ共和国では、ワクチン接種率の低下により、エボラウイルス感染症を遙に凌ぐ数の麻しん患者が発生した。今後、全世界でワクチン接種の停滞により、麻しんの大流行が起きることが懸念されている。

ポリオ、麻しんに限らず、今後は世界規模で、ワクチンで予防可能な感染症(Vaccine Preventable Disease: VPD)が再流行し、患者と死亡者が増加すると予想される。これはCOVID-19の流行が収まった後も遷延すると考えられる。

ワクチン接種率の低下は、日本でもすでに起きている。乳幼児健診は、各地で中止や延期が相次ぎ、COVID-19感染を恐れ、医療機関への予防接種での受診は減少している。保護者が子を思う気持ちを考えれば、やむを得ないことだ。ただし、このままでは、子どものCOVID-19罹患や死亡より、VPDの罹患や死亡増加さえ懸念される。

日本小児科学会などではFAQを公開し、予防接種を延期しないように、と呼びかけている。通常、定期接種には対象年齢が定められており、対象年齢以外では公費接種が受けられず、任意接種の扱いとなる。厚労省は、COVID-19により接種ができなかった場合、対象年齢の縛りを外す措置を講じた(厚生労働省健康局健康課2020年3月19日https://www.mhlw.go.jp/content/000612054.pdf)。

このような状況下では、さまざまな紛れ込み症状が起きることが懸念される。ワクチン接種が安全に実施されるためには、国の制度整備は元より、各ワクチン接種医療機関でも、ワクチン接種に関する知識のアップデートや、副反応疑い症状について相談を受けた際、きちんと対応できるようにしておかねばならない。

これまで、予防接種についての研修は、学会や医師会で実施し、方法や知識を習得できた。しかし、COVID-19流行により、地区の医師会ごとの研修会は延期や中止が発表されている。通院が困難な状況でオンライン診療での初診が始まったように、代替手段が提供されるべきだ。

米国では、e-learning でのワクチン教育が実施されている。Center for Disease Control and prevention: CDCのVaccine For Children: VFCプログラムでは、VFCプロバイダーになる条件に基礎知識をe-learningで受講し、全て基準をクリアしていること、また、抜き打ちの医療機関訪問で管理や保管方法のチェックがあり、これらは更新するために毎年実施される。VFCプロバイダーに認定されると国から無償でワクチンが提供され、子どもたちには無料で接種できる仕組みである。

英国では、様々な専門的背景をもつ医療関係者が予防接種を行えるようになった背景があり、安全かつ効果的に実施でき保護者等の質問に自信をもって応じるために誰もがアクセスできるe-learningプログラムがある。初心者には全てを、経験者は関連項目だけ実施し、証明書が発行される。これは予防接種だけではなく、認知症や高血圧、メンタルヘルスなど豊富な種類でいつでも学べる環境が整備されている。

日本でも、予防接種について、医療者がオンラインで学ぶ環境が整備する必要がある。COVID-19の流行下においてVPD事例を増加させないために、以下に接種者を増加させていくか、そのための学びと議論を拡げていく必要がある。それが医療者たちの知識をupdateし、安全な予防接種を推進し、子どもたちの生命を守ることにもつながるのだ。

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