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Vol.084 社会的養護下の若者を苦しめる新型コロナ ~若者おうえん基金新型コロナ緊急助成の挑戦~

医療ガバナンス学会 (2020年4月28日 06:00)


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公益社団法人ユニバーサル志縁センター専務理事
首都圏若者サポートネットワーク事務局長
池本修悟

2020年4月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.生きづらさを抱える自立援助ホームの若者
私が事務局長を務めている首都圏若者サポートネットワーク(運営委員長:宮本みち子、顧問:村木厚子)は、自立援助ホームの入所者に対して、体験就労のコーディネートを行っています。今年の3月にも児童養護施設を退所した若者への体験就労の相談が入ったのでコーディネートを担当しているスタッフが調整を試みたのですが、新型コロナウィルス感染拡大による自粛要請もあり、就労体験の場を紹介することが出来ませんでした。

簡単に「紹介することが出来ませんでした」と書きましたが、このような機会の喪失が自立援助ホームに暮らす若者たちの生活を追い詰めます。

自立援助ホームとは、児童養護施設で育ち中学卒業後、学業につかない子どもや、ネグレクトや家庭崩壊などで中学卒業後に家庭にいられなくなった若者を受け入れる社会的養護施設で児童福祉法第6条の3、児童福祉法第33条の6「児童自立生活援助事業」として第2種社会福祉事業に位置付けられています。児童養護施設とは違い、入所者は毎月、朝食・夕食代、光熱水道料金、新聞購読料、せっけんやトイレットペーパーなどの日用品代として 3 万円程度と、自立に向けた積立金 として5万円程度、あわせて8万円程度を自立援助ホームに支払うのが首都圏では通常となっています。また、就業自立に向けて生活を整える意味でも、入所者は収入の得られる日中の仕事に就くことが入所の条件になっています。

自立援助ホームに入所する若者は施設に納める上記の金額とは別に、日常の昼食代や交通費、通信費、衣類を買うお金も自分で稼ぐ必要があります。親を頼れない入所者がほとんどなので、入所者は仕事を見つけて自分で稼がなければなりません。ネグレクトや虐待など、苦しく困難な環境で育ち、社会適応が難しいというハンディを抱えながら、中学校を卒業したばかりの 15、16 歳の若者でも、自分で月8万円あまりを稼ぎ出さなければならず、自立援助ホームに入所する若者を取り巻く環境厳しいことは想像できると思います。就業生活に必要なスキルや意欲を十分に備えているわけではないにもかかわらず、特段の配慮のない職場でアルバイトをし、うまくいかずに短期間でやめることを繰り返す若者が多く、自信喪失になってしまうこともあります。

また、自立援助ホームのスタッフの支援を得て、自身の将来プランを考えた結果、目指す職業やより条件の良い仕事に就くために、定時制高校に進学する若者もいます。これらの若者は、親からの支援がないなか、働いて収入を得るだけでなく、学校に通って勉強するという大きな挑戦をしており、経済的にも、精神的にも多くのサポートを必要としています。そんな若者たちを、自立援助ホームの生活指導員とジョブトレーナーが本人の気持ちに寄り添いながら支援をしており、退所後も自立援助ホームの職員は若者たちのよりどころとなっています。

2.新型コロナウィルス感染拡大の影響

そのような活動を行っている自立援助ホームに新型コロナウィルスの感染拡大の影響が出てきました。先月末以降、全国で外出自粛が広がる中で、アルバイトの勤務時間の短縮等により若者たちの生活が厳しくなってきている状況や保育園等の休園に伴うスタッフ確保の不安などが聞こえてくるようになりました。そこで緊急事態宣言が出される前日(4月6日)に事務局メンバーで集まり、支援施策を検討しました。ここで確認した方針は以下の3つです。

・過去助成団体への緊急調査の実施
・調査結果に基づき緊急助成を実施
・クラウドファンディングを緊急支援の財源確保に活用

この方針に基づいて取り組みを進めていきました。

3.過去助成団体への緊急調査の実施
首都圏若者サポートネットワークは、2018年8月に体験就労とは別事業として、社会的養護を巣立った若者を応援する「若者おうえん基金」を生協、労協、労働組合、社会的企業、NPO等と立ち上げこれまで自立援助ホームやアフターケア事業者など社会的養護関連団体に2018年度は総額9,294,000円、2019年度は総額 10,567,020円の助成を行ってきました。この関係性を活かし、新型コロナウィルス感染拡大で大変な状況にある若者や支援団体の現状を把握するために過去の助成先団体に4月8日から15日まで緊急調査を行いました。

全15団体中11団体から回答があり、具体的な懸念点は以下の7つが抽出できました。(緊急調査の回答原文を一部引用)

(1)感染リスク
「自立援助ホームの入居者、退居者は(※収入がないと生活に影響がでるため)非常事態宣 言後も就労しているため、新型コロナウィルス感染へのリスクが高い状況にあります。 現在当ホームにおいては感染者はおりませんが、いつ入居者で感染者が出てもおかしくない 状況下です。 」

(2)就労リスク
「(※入居者、退居者は)徐々に就業が出来なくなってきております。時短や週末休館等で 収入に影響しつつあります。 他ホームでは自宅待機になり、実質無収入状態になっている話も聞いています。」
「この時期に入居した子どもが仕事を探してはいるものの、求人募集自体が少なく、仕事に 就きたくても就けず、収入の目途が立たず生活に困っている。 」

(3)人手不足
「現状、夕食ボランティアの方の出入りを禁止したため、少ないスタッフに業務の負荷が大 きくかかっている状況。今後、非常勤スタッフも様々な理由で、出勤できない状況が生まれ る可能性がある。そこから、常勤スタッフが休みもとれず、過労状態が生まれる。まさに、 医療崩壊と同様です。」

(4)心理的ケア
「経済的な不安、外出制限等のストレスで普段以上のストレスがかかり、日頃から精神的に 不安定な方や、居場所を求めている方、また当団体の来館者の割合で多い若年層の生活保護 受給者は、(※中略…)ただでさえ少ない精神的サポートとなる場が減り、密なメール電話 のやり取りが普段以上に必要になってきていると感じる。」

(5)居住支援
「退所者が今後の動向で職を失ったり、家を失ったりするケースが出て来る。現状は家を失い生活再建中の退所者1名おり仕事も見つからずホームで一時面倒を見ている。」

(6)資金面での不安
「今後、コロナの終息が長期間になれば経済面から施設の需要が増えることも想定されます。また施設出身者が社会的に弱者にならないようにいかに出身者と繋がっていられるかだと思いますが現在の予算と人員では不十分なのでその辺りも改善されると助かります。」

(7)勤務体制
「全職員が自宅勤務形式で務まる支援事業ではないので、何か代替できるやり方があれば、 と模索しながらも限界があります。」

4.調査結果に基づき緊急助成を実施

上記の調査結果に基づき、募集要項案を作成し、首都圏若者サポートネットワークの運営委員からも意見を参考に、4月23日、全国の社会的養護のアフターケアに取り組まれる伴走支援者向けの公募を開始いたしました。

<<新型コロナ緊急助成概要>>
<趣旨>
新型コロナウイルスの流行や緊急事態宣言を受けて、若者おうえん基金の助成先団体より、業務増加に伴うスタッフ人件費の増加、マスク・消毒液等物資の不足など、厳しい現況について報告を受けています。こうした状況を踏まえ、社会的養護からの自立支援を行う「伴走者」に対して、緊急支援が必要と判断しました。感染予防や様々な活動自粛の影響を、資金面で支える目的で、新型コロナウイルス感染拡大に伴う緊急助成事業を実施します。

<対象>
全国の社会的養護の下に暮らす(暮らした)おおむね30歳までの子ども・若者を支援する「伴走者」(既存の専門機関、児童養護施設、自立援助ホーム、里親家庭、アフターケア事業者、生活困窮者自立支援相談窓口、若者サポートステーションなど)。
*以下のいずれにも該当しない団体であること
・個人的な活動や趣味的なサークルなどの団体
・政治活動や宗教活動を主たる目的とする団体
・反社会的勢力と関係のある団体

<対象事業>
新型コロナウイルスの影響への対応として必要となる活動。
*使途について、使用実績のご報告をお願いしています
*以下、想定している対象事業例
・当事者支援のために必要な活動
—就労リスク対応:生活支援、食料配達、シェルター確保
—精神面のケア:相談員の充実、子どもの余暇の充実(玩具等の購入)
・団体運営継続のために必要な活動
—感染リスク対応:マスク等の予防衛生物資の購入、宅食の充実、職員の車通勤支援、オンライン購入にかかる配送料確保、オンライン事業の充実
—人手不足対応:スタッフの補充、既存スタッフの人件費補充
—感染時リスク対応:隔離場所確保、防護服等の衛生物資の購入

<助成内容>
1団体あたり上限10万円(総額は200万円を想定)

<募集期間>
2020年5月7日(木)締切 (ただし、助成総額に達しない場合はそれ以後も随時受付)

<募集要項URL>

https://wakamono-support.net/application/

5.クラウドファンディングを緊急支援の財源確保に活用
最後に課題となる資金については、首都圏若者サポートネットワークの運営団体の1つである私が専務理事を務める公益社団法人ユニバーサル志縁センターが労働組合のナショナルセンター連合と連携して「若者おうえん基金」クラウドファンディング(https://readyfor.jp/projects/wakamonokikin)を実施していたので、現状の目標金額300万円達成することを前提とし、ネクストゴールを500万円に設定し、総額200万円以上の寄付金を原資とした緊急助成を準備しました。(初期の目標金額300万円は、4月14日に達成し、この原稿を執筆している4月25日現在の寄付総額は4,698,000円)

6.最後に
公募が始まって3日経過しましたが、すでに10団体から総額96万円の申請が届いています。正直申請の総額が寄付額のスピードを大きく上回っているため、このままでは支援が必要な団体であっても不採択の団体が生じてしまいます。皆さんの支援が生きづらさを抱えた若者への支援となります。私も逐次現状を伝え、若者おうえん基金への寄付を出来るだけ多く集め、一団体でも多く助成金を届け若者の支援に活用してもらうために頑張りますので、若者おうえん基金クラウドファンディングへの応援どうぞよろしくお願いいたします。

若者おうえん基金クラウドファンディング

https://readyfor.jp/projects/wakamonokikin

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