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Vol.086 今できるのは、「手洗い・マスク・3密を避けることだけ」ではない。「社会的な距離」の徹底を

医療ガバナンス学会 (2020年4月29日 06:00)


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わだ内科クリニック
和田眞紀夫

2020年4月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ハンバーガーチェーン店の店舗の前に、外にはみ出すほどの長蛇の列ができている光景を目にするこの頃です。よく見ると、マスクをしているお年寄りとお子さん連れのお母さんの間にマスクをしていない若い人などが、間を開けずにぎっしり詰めて並んでいました。

新型コロナウイルスの感染拡大防止策としては、「手洗い・マスク(咳エチケット)・3密(密閉・密集・密接)を避けること」だけをしていればいいと思っている人が多いように思われますが、実はこれでは重要な対策がいくつも抜け落ちていると思われます。

ウイルスは基本的にはほかの生物と共生しなければ生きていけないので、感染するときは人から移るのが基本です。多くの場合ウイルスは感染した人が吐き出す呼気に乗って直接ばらまかれ(飛沫感染)、一部は周囲の物に付着して数時間から数日間生き残り、被感染者の手を介して口腔や鼻の粘膜から入り込みます(接触感染)。コロナウイルスは糞便の中にも出てくる性質があるので、飛沫とは別に感染者の手についたウイルスが周囲の物に付着することがあるのがまた厄介なところです。さらには小さな粒子のコロナウイルスは(エアロゾルを形成して)空気の中を漂って感染するとも言われています。つまり、マスクや咳エチケットは飛沫感染を防ぐ手段、手洗いは接触感染を防ぐ手段であり、3密を避けることはエアロゾル感染を防ぐための個別の対策なのです。

飛沫感染と接触感染のどちらの感染経路が多いのかはわかっていません(調べようがないからです)。しかし、基本的にはコロナは呼吸器系の感染症を引き起こすウイルスなのですから、飛沫感染の果たす役割が大きいことが想像されます。であれば、やはり感染した人の近くに寄ることが最も危険な行為であり、誰が感染しているかわからない現状の中では、まずは自宅から出ない(外出自粛)ことが確実の対策であり、やむを得ず外出した時はほかの人の近くに寄らないことが大切なのです。

「人と人との距離を開けること」、いわゆる「社会的距離」です(欧米では6フィート、1.8メートルの距離をとることが推奨されています)。都市封鎖(いわゆるロックダウン)を実施している欧米でも生活必需品の買い物等は認められているのですが、やむなく家を出るならばせめて人との距離を1.8メートル開けるように求められています。では日本ではどうでしょうか。最近になってようやくテレビの報道番組などでは外国の例に倣って出演者が間をあけて並び、一部の店舗では床にマークを付けて間をあけてレジに並ぶなどの工夫をしていますが、多くの人は「人との距離をあけること」に関してあまり積極的ではありせん。それは日本のコロナ対策専門家会議や厚労省が具体的な「社会的な距離」の指示を出していないことも影響しています。ちなみにむしろ日本で強調されている「密閉・密集・密接(を3密)避ける」という対策は、初期の日本国内の発生状況を考慮して日本で考えだされた対策であってその有効性が立証されているものではなく、諸外国の対策に取り入れられているものではありません。このような3密をあまりに強調しすぎると、「3密以外ならいい」と思い込んでしまう逆の効果が生まれているように思われます。徹底的な外出制限ができない現在の日本の現状の中で、せめて「社会的距離を置く」ことは国や専門家会議がもう少し啓蒙して徹底させてもらいたものです。

そしてもう一つ、国はあまり説明していないけれどもとても重要な注意点があるのです。それは、「若い世代の人が高齢者(もしくはリスクを抱える弱者)のそばに近寄らないようにすること」です。イギリスでは3月の母の日に家族が集まってお祝いをする風習があるのですが、今年に限っては若い人は母の日に実家に行かないようにとの注意が呼びかけられました。無症状や軽症でウイルスを持っている若い世代がおじいちゃんやおばあちゃんにウイルスを移しては大変だからです。このウイルス感染の特徴の一つは高齢者で重症化して亡くなられる確率が高いということです。ですから高齢者を完全な形で隔離できればそれが一番いいわけですが、高齢者の中には若い人の助けを借りないと生活できない人が大勢いて、高齢者を完全な形で隔離することはできません。となれば、「ウイルスに感染しているかもしれない」若い人が高齢者のそばに寄らないようにすることがとても重要なのです。

東京で感染が蔓延しているからと言って、年配の父母、祖父母の暮らす実家に戻るなどというのは持ってもほかの行動なのです。そのことを理解していない人があまりに多いように思います。「高齢者(もしくは弱者)と社会的な距離」を置くこと、これ我々ができることの中で最も重要なことだと思われます。特に高齢者と接する機会の多い仕事に従事している方は、老若男女を問わず要注意ですし、必要があれば速やかに検査を受けて感染しているかどうかを調べるべきです。ウイルスがどのようにして移るのか、ウイルスを移してはいけないのは誰なのかよく考えて、「社会的な距離を置くこと」(特に高齢者に対して)を是非実践していただきたいと思います。

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