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Vol. 159 新型インフルエンザ発生から1年を経て(2)

医療ガバナンス学会 (2010年5月8日 07:00)


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-闇の中で決定され、検証されない国の施策-

山形大学医学部附属病院 森兼啓太

2010年5月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


新型インフルエンザ2009年H1N1の国内患者発生が迫っていた昨年と異なり、今年は今のところ平穏な黄金週間である。このような平穏な時にこそ、昨年同時期に忙しい中で実施した対策の検証に十分時間をかけるべきである。

3月31日に始まった厚生労働省主催による新型インフルエンザ対策総括会議は、3回を重ねた。5月2日現在、ウェブサイトでは3回分の資料全てと、第1回の逐語による議事録がアップされている(1)。これは非常に迅速な対応だと感じる。2009年の新型インフルエンザ大流行の際は、1ヶ月以上も厚労省のウェブサイトに何ら新規情報がアップされないなど、必要な情報が掲載されていないことに関する苦情が多数出ていたかと思う。当時は行政官を支える事務的・技術的補佐のマンパワーが絶対的に不足していたのだと思う。この総括会議を支えるスタッフは少なくともよく機能しているらしい。

では、会議の内容自体はどうであろうか?まず第1回目の議事録を見ると、42ページのうち10ページ分(3ページから12ページ)を事務局からの説明で費やしている。3時間の会議であるから、4分の1としておよそ45分だ。そもそもこの会議に出席している人は、総括を行う能力と知識があるから選ばれているはずであり、この1年の出来事や基礎的データは十分承知のはずである。そのような委員を前に45分の貴重な議論の時間を費やす必要があるのか。委員の一人の岩田健太郎氏がブログ(2)で書いているように、事務局が「自分の立場ばかり強調する資料」を時間をかけて説明することによって、国の新型インフルエンザ対策を正当化することが目的であると見るのはうがった見方だろうか。

45分にわたる説明を行なったのは正林督章・新型インフルエンザ対策推進室長であるが、正林氏と筆者は2005年頃から、高病原性鳥インフルエンザA(H5N1)がパンデミック株になった場合を想定した新型インフルエンザ対策の策定において協働した。時には意見が食い違うこともあったが、辛抱強く議論を重ねる氏の姿勢を筆者は高く評価している。2009年2月に策定された国の行動計画は、あの時点では妥当なものであったと筆者は今でも考えているが、今の時点で妥当かといえばそうではない。行動計画も策定しなおす必要があり、そのためにもこの1年間の施策に関する十分な検証と反省は必須だ。正林氏には、国の対策の検証を行う貴重な機会を最大限活用すべく、時間配分への配慮を御願いしたい。

また、4月28日に行われた第3回会議は、特別ゲストとレギュラーメンバーを合わせて20名ほどの委員で行われている。発言が1人4分に制限されたとの情報もあり、そのような多人数による短時間の発言で検証を行うことが果たして可能なのか。第3回は議論の方向性が定まらなかったのではないかと推測している。第3回に議論すべきことのひとつに検疫があるが、検疫によって有症状者を発見することは可能であり、その意味で筆者は全否定はしない。しかし国内初発患者を検知した5月15日深夜より10日も前の5月5日に国内初発例が発症していたこと、その後も多くの症例が入国時無症状で検疫を通過していることを考えると、検疫による国内患者発生の遅延や抑制・抑止が不可能なことは明らかである。SARSなどインフルエンザと類似の疾患でそれを支持する論文がいくつもある(3)。検疫・水際対策を重視し国内発生のサーベイランスを軽視した当初の国の方針は明らかに誤っており、この点について何の検証もなされない検証会議は無意味である。

ともあれ、逐語の議事録は会議における議論の内容を極めて正確に伝える。これと対照的なのが、以前から問題にしている「新型インフルエンザ対策本部専門家諮問委員会」である。m3.com編集部の尽力により、同社からの行政文書開示請求に応じて内閣官房・副長官補室が全10回の会議資料や議事録を明らかにした(4)。

それによると、議論の内容を伝えるものとして第1回と第9・10回の議事概要が残されているのみであった。しかも各回わずか数行のくだりであり、内容的には既知のものである。要するに当時の議論を記録するものが公式には存在しないと言っているに等しい。資料は事務局が作成したものであり、委員会の5名の見解や議論を反映しているとは限らない。重要なのは、5名の委員が混乱のさなかでどのように考え、どのような議論が行われ、どのような過程を経て様々な国の重要施策が決定されていったか、ということである。議事録は事実上存在せず、従って当時の意思決定に関する検証は不可能ということになる。こんなことでいいのか。

3月31日の検証会議においては諮問委員会委員長の尾身氏が自身のメモをもとに様々な発言をしている。尾身氏がメモを保存しておいたことはせめてもの救いであるが、議事録が無いのであれば当時のメモをもとに検証するしかなかろう。さらに言えば、他の4人の諮問委員会委員もメモを取っていないことはないはずである。これらも明らかにすべきである。

第3回目の検証会議の様子を伝える岩田氏のブログ(2)には、「上田(博三・健康局長)さんは厚労省が危機管理の素人であり、その業務にふさわしくないことをカミングアウトした。質的、量的人材不足で必要な仕事が出来ていないこともカミングアウトした。これでいいのだ。」とある。詳細は逐語の議事録を待つ必要があるが、国の対策が正しかったという結論ありきの検証ではなく、一つ一つの対策を虚心に検証し、今後の国の感染症・公衆衛生対策に生かさなければ、今回の混乱を再び繰り返すことになるであろう。

(1)http://www.mhlw.go.jp/bunya/kenkou/kekkaku-kansenshou04/info_local.html#section03
(2) http://georgebest1969.cocolog-nifty.com/blog/2010/04/post-fd2a.html
(3) St John RK, King A, de Jong D, et al. Border screening for SARS. Emerg Infect Dis. 2005;11(1):6-10.
(4) http://www.m3.com/iryoIshin/article/119673/

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