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臨時vol 10 MRICインタビュー 「西田幸二・東北大学医学部眼科教授 ~世界初! 口粘膜からの再生角膜移植 現状と課題~」

医療ガバナンス学会 (2006年4月4日 12:07)


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2006年4月4日発行

 

――どんなことに成功されたのですか。

前職の大阪大学で、角膜が混濁して矯正視力が0.01の患者さんに対し、患
者本人の口腔粘膜の細胞を培養してシート状にした再生角膜を移植し、手術後1
ヵ月で視力を0.7まで回復させることができました。この治療は04年12月
に始めました。

異なる組織の細胞を用いて再生移植に成功したのは世界で初めてでした。その
後、角膜細胞を培養した再生角膜も含め10数人に移植を行いました。1例を除
き全員、視力が回復しています。再生角膜移植を手がける他のグループと比較し
ても我々の成績は突出しており、世界中から問い合わせが殺到しています。
――再生角膜の意義は何でしょう。

現在のところ、事故や病気などで角膜が混濁して視力を失った患者に対しては、
アイバンクから提供される角膜を移植するのが一般的です。しかし、他の臓器と
同様、ドナーが全然足りません。年間1700件ほどの移植が行われますが、移
植待ちの患者さんはその3倍近くいます。運良く移植できても、他人の角膜は拒
絶反応が起きやすく、免疫抑制剤の長期服用を迫られることも多いのです。その
結果として今度は感染症にかかりやすくなったりもします。

これに対して、自分の細胞から再生したものを使えれば、ドナー不足も拒絶反
応も起きません。

とはいえ、自分の細胞なら何でも良いかというとそんなことはありませんで、
分化が進んだ組織細胞は増やしても元の細胞と同じものにしかならないのが一般
的です。ですから、これまでの再生角膜のアプローチは、片目の角膜だけ問題が
ある患者に限って、健康な方の角膜上皮細胞を培養していました。

ただし、移植を必要とするような患者の多くは両目とも問題を抱えていること
が多く、両目に問題を抱えている人の方がQOLは下がっているものなので、何
とかしなければならないと考えていました。
――そこで口腔粘膜に目をつけられたわけですね。

今回の我々の成功は患者さん自身の口腔粘膜を使ったことにあります。口腔粘
膜を使おうと考えた理由は3つあります。

一点目は採取の容易さです。移植の対象となるのは角膜の上皮部分なのですが、
上皮細胞には角化したものと柔かいままの非角化細胞とがありまして、角化した
ものから角膜は再生できません。非角化細胞の中で採取が簡単にできるのは口腔
粘膜上皮細胞しかないのです。口腔粘膜の採取なら、患者さんにもほとんど苦痛
を与えませんし安全です。

次に、角膜上皮細胞と口腔粘膜上皮細胞の表面マーカーがよく似ていることで
す。完全に同じものではないにしても、培養の仕方次第では代替可能でないかと
類推させるものでしたし、実際に角膜様の組織として培養することにも成功しま
した。

さらに都合のよいことに、口腔粘膜というのは、眼科医が普段から扱いなれた
組織でした。まぶたと眼球がくっつくような症例では、癒着を離したあとに再癒
着を防ぐためにパッチを貼り付けます。そのパッチの材料が口腔粘膜上皮です。

 

――ところで、なぜ東北大学へお移りになったのですか。慣れた大阪の方が研究
しやすそうに思えます。

大阪大学では私は助教授でした。昨年にちょうど、地域トップの格を持った大
学病院である東北大学の教授として来ないかというお声がけいただいたので、あ
りがたく話に乗らせていただいたということです。

この医療にはある程度のノウハウが必要です。当面は手術やフォローをキッチ
リできるのは私だけですし、細胞培養を手がける人も東北に連れてこようと思っ
ていますので、大阪を離れたら研究を続けられないというものではありません。
活動が始まれば日本全国から人が集まってくるでしょうし、大学にとらわれずに
連携できればベストであると考えています。
――東北でも、どんどん手術を手がけるということですね。

実は、そうとも言い切れないのです。大阪大学での臨床研究分が6月ころまで
は継続しておりますが、その後のメドが立っていません。
――と、いいますと?

東北大学では先進医療センターが10月ごろに発足予定ですが、人臨床に使用
するための組織の培養を行う特別なクリーンルーム、セル・プロセシング・セン
ター(CPC)が作られるか微妙なのです。CPCがなければ、再生医療は実質
的に不可能です。
――なぜCPCが作られるか微妙なのですか?

病院長をはじめ、皆さん本当に努力してくださっているのですが、3億円程度
のイニシャルコストを捻出するのに苦労しているのです。といいますのが、独立
行政法人化して、病院のお財布から先進医療につぎ込むというのが非常に難しく
なったからです。
――CPCなしでセンターを立ち上げて、後から増設するというのではダメです
か。

後から作ったら、かえって高くつきます。それ以上に恐れているのが、CPC
がないんだから再生医療には触らないでおこうという流れになってしまうことで
す。

せっかく世界初の画期的な再生医療で、患者さんのQOL向上にも大いに役立
つのに、モタモタしていたら他の国の研究者たちが追いついてきてしまいます。
そんなことになったら非常に残念ですから、何とかCPCを作ってもらえるよう、
各方面にお願いしているところです。
西田幸二医師 御略歴

62年 大阪府生まれ
88年 大阪大学医学部卒業
大阪厚生年金病院、京都府立医科大勤務を経て
98年 米ソーク研究所研究員
00年 大阪大学医学部講師
04年 大阪大学医学部助教授
06年 東北大学医学部教授

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