医療ガバナンス学会 (2020年5月8日 06:00)
この原稿は月刊集中5月末日発売号からの転載です。
井上法律事務所 弁護士
井上清成
2020年5月8日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
2.院内感染の可及的な防止策
この度の新型コロナの感染拡大は、想定外の事態の連続であったので、そのための医療提供体制が十分には準備できていなかった。とは言っても、院内感染が相次いだのは日本だけではない(欧米も同様であった)。ただ、その中でも、PPEやN95マスクなどの防護具の配給が進みつつある。PCR検査も、院内感染の予防という観点からも必須であったことが再認識され、今や普及しつつあるらしい。
病床について見れば、結核病床が利用されたり、新型コロナ専用の仮りの病床が増設されたり、仮設の多数の病床が「臨時の医療施設」(新型インフルエンザ等対策特別措置法第48条)として開設されたり、軽症者用にホテルが借り上げられたりするなどしている。新型コロナの感染者用の病床には、対策・対応が急速に進んで来た。
ところが、「紛れ込み感染」などにより、新型コロナ以外の非感染者用の病棟に院内感染が広がってしまう例も相次いでいる。逆に、新型コロナ以外の非感染者のみを診療している病院では、他の入院患者や外来患者を守るために、救急搬送の受入れに困難を感じてもいるらしい。つまり、非感染者のみを診療している病院が積極的に一般の救急搬送を受け入れると、ある時に知らぬ間に「紛れ込み感染」が生じてしまう。逆に、そのような感染リスクを重視すれば、救急搬送の受入れは極めて困難となる。少なくともPCR検査の結果を見てからの受入れでないと、感染していない他の入院患者や外来患者への責任を果たせていないという考えも出るかも知れない。こうして見ると、たとえ巨額の財源を要したとしても、何らかの効果的・具体的な打開策を見い出さねばならないであろう。
3.感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を仮設
新型コロナ以外の非感染者を診療している病院が、新型コロナの無自覚の感染者によって院内感染を惹き起こされないようにしなければならない。しかし、社会的には、救急搬送の受入れを積極的に行って、新型コロナ以外の急病の患者が困らないようにすることも強く要請されている。ただ、その両者の要請を達成するためには、救急搬送の受入れの困難さを、抜本的に解消しなければならない。
実際、一般の病院にグリーンゾーンとレッドゾーンとを区分けさせて、院内感染を全く起こさせないようにしつつ、適切に感染者も非感染者も診療できるようにするのは、並大抵のことではないように思う。さらに、それとても、一つの病院建物の中での「紛れ込み感染」の排除は難しい。
と言って、多くの病床を一ヶ所に仮設したとしても、本質的には変わらない。もちろん、新型コロナの感染者のうちの特に重症者をよく治療できるようにはなって良好ではある。しかし、一般の病院の院内感染対策には、効果がない。
そうすると、(余り見たこともないことで空想の産物ではあるが、)アイデアとしては、「使い捨てベッド(病床)」というシステムが思いつく。新型コロナ感染の判別用に、救急受入れ病院の直ぐ近くに、受入れまでの間の緊急暫定のショートステイを想定した、使い捨ての病床(ベッド)を仮設する、というアイデアである。
新型コロナへの感染の可能性を除外して、新型コロナ以外の非感染者への救急対応をしている病院につなぐことが、主たる役目と言ってもよい。典型的なものとしては、PCR検査もできる診察室と個室1病床のみの有床診療所のイメージである。その後に取り次ぐであろう近くの救急病院の規模等に応じて、2つ以上の多数の有床診療所を並べて仮設しておく。まずは救急車はそのうちの1つの有床診療所に搬送し、患者はPCR検査を受けると共に、その病状に応じて応急措置(近くの救急病院の診療体制に応じて、産科も外科も何科でもありえよう。)を施されて、PCR検査などと総合した感染の有無の判別の結果が出るまでは、その有床診療所に入院している。その結果、新型コロナ陽性ならば感染症病棟に移るし、新型コロナ陰性ならば一般の病棟に移ることとなろう。なお、新型コロナ陽性となった場合は、その有床診療所は一旦は休止して消毒をするので、その間は、並んでいる他の有床診療所のみが稼働することとなる。
つまり、仮設の病院・診療所内で院内感染をしないように、1床のみの有床診療所とするのがよい。それを2つ以上のセットで並べて仮設し、それも救急病院のすぐ近くの敷地に仮設することとする。もちろん、新型コロナの流行が去ったら、直ちに取り毀すこととなるであろう。つまり、「使い捨てベッド(病床)」と言ってよい。
4.都道府県が臨時の医療施設として開設
この「使い捨てベッド」は、知事が都道府県内の救急受入れ可能病院の状況に応じて、それら都道府県内の各地に多数、仮設する。開設者はその都道府県、運営者は近くの救急病院(単独または複数)、費用は全て開設者たる都道府県負担で、特別措置法第48条所定の「臨時の医療施設」として仮設する有床診療所とするのがよいであろう。
以上は、 検査とセットで運用することによって、院内感染を可及的に防止し、救急搬送などでの一般患者受入れを円滑にするためのシステムである。もちろん、病床配置という観点だけからの一つのアイデアであるに過ぎない。ただ、それであっても、効果的・具体的な打開策の立案のための何らかのヒントになれば幸いである。