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Vol.105 日本における五輪女性アスリートの結婚、出産年齢の現状と推移〜女性アスリートの人生により多くの選択肢を!(2)

医療ガバナンス学会 (2020年5月20日 14:00)


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ハンガリー国立セゲド大学医学部5年
川本歩

2020年5月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

前回の投稿では研究の概要、1992年〜2016年の間に開催された夏季、冬季オリンピックでメダルを獲得したアスリートのメダル獲得時年齢、子供の有無、第1子を得た年齢を調べ、経時的推移について男女間で比較・解析した研究であること、そして女性アスリートでメダル獲得時年齢が上昇していることについて考察をした。今回の投稿では「女性アスリートの結婚率、出産率の低さ」、「第1子獲得時年齢の下降」について考察していく。

・なぜ女性アスリートの結婚率と出産率が低いのか
今回の調査では結婚・子供のいる率は女性が男性より低かった。(結婚率:男性61.0%、女性 44.1%、子供のいる率:男性43.8%、女性 27.4%)この理由としてはどんなことが考えられるだろうか?
女性アスリートが妊娠・出産を避ける理由として、妊娠、出産による体型変化、運動能力の低下を恐れる傾向があると報告されている。(5) 当然のことだが、そもそもエリートアスリートは、パフォーマンスの向上、そして勝利を何よりも優先する傾向が強い。
ゴールドマン・ジレンマをご存知だろうか。1982~1995年のエリートアスリートを対象に「メダル獲得は保証されるが、5年以内に死亡する薬を服用するかしないか」という質問をしたところ、50%以上のアスリートが薬を服用すると答えたというものだ。このことからもアスリートにとって勝利がいかに重要か伺われる。

また、妊娠中や産後の身体的変化に合わせたトレーニングの研究やサポート体制が欠如していることも理由の一つと考えられる。このことは内閣府の男女共同参加局からも報告されている。日本スポーツ振興センター(JSC)が、JOC強化指定選手及びJOC加盟競技団体の強化対象選手を対象に行った平成27年度のアンケートによると、「大会での託児所、チャイルドルームの設置」は8割、「妊娠期、産前産後のトレーニング方法の紹介」は7割、「競技団体における産休育休など、復帰に向けた制度の充実」は約6割が、「ほとんど支援されていない」と回答している。

・第1子獲得時年齢の下降
最後に、男性・女性ともに第1子を得た年齢は低くなっている傾向が認められた。この点に関して、1つには参加可能な競技数、種類が増加していることで、アスリートに多様なキャリアが生まれている可能性が考えられる。その一つに妊娠・出産を経験し、競技復帰を希望する「ママアスリート」がある。欧米はママアスリートの先進国である。例えば、リオデジャネイロ五輪では、アメリカから10名がママアスリートとして参加、Dana Vollmer選手が競泳で初めて金メダルを獲得した。過去オリンピックでママアスリートとしてメダルを獲得した日本人は、元柔道選手の谷亮子氏や元バレーボール選手の大友愛選手などでアメリカに比べてまだ少ないが、昨今海外の現状を踏まえ、妊娠出産との両立を目指すアスリートが増えているという。

元陸上競技・短距離選手の千葉麻美氏は、2011年9月に第一子を出産後2014年のアジア大会で2位という好成績を残した。千葉氏は「日本ではまだ少ないですが、他国の陸上選手でママアスリートの姿を見かける機会が多く、出産後の競技復帰のイメージができていた」と述べている。また、女子バレーボール選手の荒木絵里香氏は2014年1月(当時30歳)に第一子を出産後、同年11月に復帰戦として所属チームの試合に参加した。そして2016年のリオ五輪に出場し5位入賞を果たした。ロンドン五輪終了後、子供を産んでから復帰することをパートナーの方に提案され、「子供を持ちたいという気持ちがある一方、競技もできる限り長く続けたいと思っていたので今しかチャンスがないと思い決断した」と述べている。(6)
このようなキャリアの多様化や、第一子を早い段階で出産することで再度、現役復帰を目指すアスリートが増えてきたことが、出産時年齢の下降原因として考えられる。

・結果のまとめ、日本の現状
女性アスリートは参加種目の増加、女性アスリートの三主徴への理解などから世界的にそのピーク年齢は上昇してきた。実際日本でも同様の傾向を認め、女性アスリート活躍の場は広まってきていると言ってよい。

一方で、女性アスリートの結婚・出産率が低い現状は、まだまだ日本において女性アスリートが結婚・出産を競技人生の障害になると捉えている可能性を示唆している。妊娠中や産後に適切なトレーニングを行えば、妊娠前と同じ肺活量を保つことができ産後も競技パフォーマンスを保つことができるというノルウェーからの報告もある。(7) 実際国外へ目を向ければ産後活躍しているアスリートも多く、出産と競技を両立することは不可能ではない。しかし日本ではまだ妊娠・出産を前提としたトレーニング方法や体制の整備は進んでいないようだ。実際内閣府の調査によると現状の支援体制に満足しているアスリートは少ないと報告されている。

日本でも女性アスリートの第1子獲得年齢は低くなる傾向にあり、出産と競技人生の両立を目指す新しい動きも出てきている。新型コロナウイルスの問題で延期された東京オリンピックを一年後に控え、また男女活躍の場を増やしたいと願う日本にとって女性アスリート支援の体制整備は急務だ。ただメダルを目指すための選手強化でなく、女性アスリートにおける人生の選択肢を広げるためにも日本人を対象とした妊娠中や産後のトレーニング方法の研究、そしてママアスリートのサポート体制を整えることが求められる。

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