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Vol.111 3種類の第二波:いま、何をすべきか

医療ガバナンス学会 (2020年5月27日 06:00)


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東京大学大学院工学系研究科教授
大澤幸生

2020年5月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

MRICで私は5月2日(土)に、社会ネットワークモデルによってシミュレーションを行った結果から「集会の人数」と「別々に会う相手の総数」に制約をもうけて感染数を抑える方法を提言した。全体として接触数を8割減らすという統計的な方法では個人がとるべき行動を計画しづらい上に、感染拡大が非線形、つまり原因を8割抑制すると結果が8割減るわけではない現象であるせいで政策とその効果の因果関係が見出しにくいからである。

しかしながら、とにもかくにも2020年5月24日現在、全国のCOVID-19の感染の波はひとまず収まったところである。この先にも多様な問題が山積しているが、
(1)これからどのように制約を緩和してゆくべきか
(2)これからも感染の流行(第2波あるいは第N波)は来るのか?
(3)科学的対策は、どのように進化させると効果的か?
という3点は多くの人の関心事であろう。

メディアに周知されている情報の範囲では、(1)について政府や各自治体で段階的緩和措置を講じている。東京都の場合は緩和を4段階で行い、最初の段階では、飲食店や博物館、学校などを緩和し、第2段階では、学習塾や劇場、集会場などを、その次の第3段階では、ネットカフェやパチンコ店などを緩和し、それぞれの対象での緩和も営業時間を徐々に伸ばすような段階を踏むという。最終的には制約を全面的に緩和するが、「クラスタ」が発生したことがある業種の緩和は、国の方針も踏まえて対応を検討するという。全体に、クラスタ発生の経験知に基づいた緩和であるといえよう。さて、過去の経験やデータを見て判断する考え方は正しいだろうか(「データ」が「経験」よりも科学的であると考える人も多いが、データはセンサーの経験知を蓄積したものに過ぎない)。

図1 自然発生に起きる小さな第二波(横軸:週、縦軸:週ごとの新規感染者数)

図1を見てほしい。大きな第一波が起きて、それが収まってからしばらくして小さな波が起きている。ネットワークモデルに基づくシミュレーションの便利さの一つは、このような小さな波が発生した由来を再現することができることである。この図に見られるような小さな波は、シミュレーションを行ったネットワーク上で、まだ集団発生の起きていなかったような隣接者たちのなすグループへの感染によって起きた。「8割減」のような対策は確かに感染を防ぐことができるものの、それゆえに全く感染者のいない、したがって免疫を獲得した人もいないような集団が散在して残る可能性は否定できない。そこに残り2割の接触を通じ針の穴を抜けるようにウィルスが伝搬することにより、隠れていた集団が感染クラスタとなってしまう。
実際、ミュンヘン工科大学(TUM)による日々の各国新規感染者数のグラフ( https://www.ei.tum.de/lsr/forschung/covid-19 )によると韓国やフランスで第一波のあとに小さな波がみられる。韓国では5月6日に政府の制約が緩和され、日常に戻りながら生活の中で防疫を実践する「生活防疫」政策に転換したはずであるが、ソウルの感染クラスタが発生したのは5月1日ごろで繁華街にあるクラブ等から発したものとされている。すなわち、制約を緩める前の段階で伝搬したウィルスが、当時注目されていなかったクラスタを爆発させた。さらに、上記のTUMに見られる韓国の小ぶりの第二波は、この波よりもひと月前であり、かつ大きいことがわかる。

上の図1は、(2)にいう第二波の発生原因のひとつを示している。すなわち、第二波の一因は、隠れた未感染集団が細い線を介して既感染の人々に繋がり、そこへダイナマイトの導火線のように人と人の間のパスをつたってウィルスが伝わり集団感染を引き起こす。それゆえ、先に述べた「クラスタが発生したことがある業種の緩和」に注意を向けすぎず、細いパスを通って新しいクラスタに引火してしまうような新クラスタの発生について社会ネットワークモデルによってシミュレーションを進め、集まる人数やそこにおける人と人の接触内容を検討し続ける体制が必要となる。
ただし、この種類の第二波は、隠れている集団が互いに接しない限り大爆発を引き起こす原因になるとは考えにくい。実際、上のシミュレーションにおいても、上記の世界の感染者数変化においても、第二波が巨大化することは稀である。これに対し、ふたつめの第二波は制約緩和によるものである。

図2を見てほしい。青い(丸ドットの)曲線は、100%通常通りの接触を保つ場合である。これに対し、オレンジ(角ドット)の線は20%すなわち8割減である。政府の専門委員会の方が「減少するペースが増加したときよりも遅い(のが問題である)」「8割減なら急速に感染者は減っているはずだ」などの趣旨のコメントをされていたが、一般に、強い制約をかけると感染者0への収束は遅れる傾向になる。
上記のTUMの提示しているように、日本よりも厳しい制約を国民に課してきた各国のカーブを見ても、減少するペースが増加したときよりも遅いのが普通である。むしろ、制約を緩和した場合に大きく感染者数が跳ね上がる第二波が到来し、そのあとで感染者数は0へと高速に接近する場合が多く観測される。これは良いことではない – 一気に大きく感染者数が跳ね上がることは医療システムへの負荷を過大化してしまうからである。制約をかけて医療機関への患者の来訪を時間的に分散させるほうが良い。図2のように、20%から50%にするか100%にするかで0への収束スピードに大差はないが、100%まで上げると医療システムへの負荷を過大化させるので、20%からの緩和は40%→60%などと徐々に緩和する段階的緩和措置がおおむね適切といえよう。新規感染者数がピークよりも5%以下まで下がっている場合は100%緩和しても図2のように大きく跳ね上がるケースはシミュレーションでは極めて稀であるが、現状ではまだこのレベルに収束したとはいえず段階的緩和が適切であろう。
ただし、新規感染者数がほぼ0に収束した後も、人々が数多くの新しい相手と接触する場合はネットワークに潜むクラスタのリスクが表出化することがある。

図3は、0収束の後で、20%から50%に制約を緩めると同時に人々が接触相手を変えたケースで、新規感染者が急速に跳ね上がっている。日々新たな相手と接触するビジネスミーティングや繁華街での見知らぬ人との対面を一気に活性化させることによりこのような現象が発生しないかどうか観測しながら段階で気に行うことが当面は必要である。

第二波の原因には、この他にも可能性がある。新しいウィルスや大きく変異したウィルスが到来し、過去のウィルスに対して得た免疫が功を奏しない場合である。これについて社会ネットワークモデルを用いてとらえるためには、ウィルスの遺伝子レベルの進化もまた社会ネットワーク上を感染が伝搬するうちに起きてくるプロセスをシミュレーションする連成型のシミュレーションが求められるため、(3)の問いに対して異分野の連携が解の一つとなる。現在、Dawex社(フランス)等が率いて世界規模の異分野データ共有プロジェクトが進んでおり、筆者も日本との架け橋として各方面に声掛けをしている。日本の場合は検査不測のため感染者数などのデータの信頼性が疑問視されており、データ駆動の機械学習に傾倒してきた人工知能などの計算科学分野においてもモデル駆動のアプローチが勢いづきつつある。信頼できるデータと信頼できるモデルを併せて開発し導入してゆく異分野連携プロセスへと、科学がパラダイムシフトを起こそうとしているように筆者には見える。

図2  100%、20%(8割減)、20%の後50%、20%の後100%の4ケースの比較

図3  20%(8割減)の後、人々が交流相手の変更と同時に制限を50%に緩めるケース

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