医療ガバナンス学会 (2020年5月28日 06:00)
では、今一生懸命何をやっているのかというと、いっぺんに多くの人が感染したら、いっぺんに重症の人がでてしまって手に負えなくなるから、いっぺんに多くの人が感染しないようにさせているということだ。だからこれからの数か月で新たな感染者が減ってくるかどうかというような今後の感染者の推移予想ということは、実はそれほど大きな意味はない。封じ込められるかどうかが問題になっているときは、封じ込められるかどうかの予想が大切なのだが、今やこのウイルスの「封じ込め」はできないということがわかってきているのだから。でもそのことは、日本の政府や専門家会議もあまり説明していないこともあり、多くの人は自粛解除の先には感染の収束があると思い込んでいるのではなかろうか。
いやでも感染する人は少しずつ増えていって、最終的には6-7割の人が感染するわけだが、今の日本で既に感染している人の割合はまだ5%ぐらいだということが抗体検査でわかってきた。ということは裏を返せば95%の人はまだ感染していないということだ。東京都で180人(5月9日現在)が亡くなっているが、逆算すると致死率が1%なら東京だけで1万8000人が感染していなければ数が合わない(発表では5月9日現在で4846人)。だから隠れ陽性者が今の何倍もいる可能性は高く、山中教授をはじめ多くの専門家がそう指摘している。いずれにせよ日本での感染拡大はまだ序の口ということで、これから1年も2年もずっと気を付けていかなければいけないということだ。でも経済活動への影響を考えたらずっと社会封鎖はしていられないので、いったん解除の方向へ向かっているというのが今の状況だ。
60歳以上でまだこのウイルスに感染していない人は感染すると命の危険があるという状況はずっと続くので、60歳以上の人は今年いっぱい旅行したりしないで、社会から距離を置くこと(なるべく人の多いところに行かない、公共交通機関には乗らない)を守るようにしたほうが安全だ。一方、若い人が重症化する可能性は低いのだからまずは大丈夫なはずで、感染して免疫でも付けばほとんど関係なくなる。
それでは今後の出口戦略はどうしたらよいのか、筆者が考えるロードマップを列挙してみる。まず、働き盛りの年代の人達は普通の生活に戻る。退職した年代の人達は出歩かない。特に若い人と接触しない(子供の感染率は比較的低いようだから、子供との接触は、その親よりはましかもしれない)。社会全体の感染者がまた増えてきたら、若い世代ももう一度自粛、落ち着いたらまた解除、それを繰り返す。感染して治った人は免疫ができているので、どんな時期でも全く制限なく暮らしていい(知らない間に罹って、治って免疫が付いた人、つまり抗体検査で陽性の人が一番安心ということになる)。だから抗体検査ができるようになったら、時々測ったらいい。それまでは、ひたすら自粛。いつまでたっても旅行すら行けないなどというは厳しいけれども、死んでしまってはもっと厳しい(誰でも死の危険性があることが現実であることを志村さんや岡江さんが教えてくれた)。
最後に社会封鎖についていうと、完全解除をせずにダラダラと部分的な制限を続けるのは一番効率が悪い(効果が少ない割に文化・経済活動への影響が大きい)。したがって、一旦は、1か月とか2か月とか期間を限定して規制を全面解除し、その間に次の自粛期間に備えた蓄えができるようにすべきだ。感染はもはや封じ込められないのだから、社会が集団免疫を獲得するためにも過度に社会抑制をかけ続けるのは得策ではない。ライブハウスなどは再開すればまたクラスターが発生すると心配するかもしれないが、封鎖を続けて再興の機会を全く与えなければ、ついには多くの伝統・文化が完全消滅してしまう。たとえ散発的にクラスターが発生したとしても、感染が蔓延している現在の状態では大勢に大きな影響はない。コロナの流行は収束するものではないということを理解して、現状に即した対応に方向転換していくことが望まれる。
(5月11日受)