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Vol. 168 参院選を間近に今再び「医療事故無過失補償制度」の創設実現を!(その3)

医療ガバナンス学会 (2010年5月16日 07:00)


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第3回 補償額1000万円、本当にそれで大丈夫ですか。問題解決になりますか。
猪又治平
2010年5月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


「現行の医師賠償責任保険との2階建ってどういうことですか」
第2回目の読者からの反響は予想以上に大きく、上記のように言われました。
筆者としても大きなファンド(3000万円補償×300人=90億円)が用意できるなら、実は限度額3000万円くらいまで、自賠責に見劣りしない補償額の大きさを確保したいのはヤマヤマです。しかし限られた資源原資のなかでどうやりくりするか。まるで台所を預かる主婦ですね。はやく救世主篤志家が現れて寄付などとつい夢を見てしまいます。

さて、早速本論です。交通事故自賠責は見知らぬ同士が加害したり被害にあったり、いわゆる不法行為による第三者賠償(third party liability)です。これに対し労働災害・医療事故は、それぞれ雇用契約・診療契約に基く契約債務不履行でありいわば第二者賠償(second party liability)です。この意味で医療事故は労働災害に似ています。加害は医師。被害は患者。加害者被害者の互換性逆転はありません。

労災補償は企業・会社・雇用主を生かし同時に労働者を生かし持ちつ持たれつの世界。当事者まかせに放置しないで、双方に良いように社会的国家的に補償制度を用意する必要があったために、十二分とはいえなくともセイフテイーネットをつくり、労災を被った労働者にとにかく一時的にせよ迅速手当てし当面の生活を補償する。労災病院を用意して医療費負担を軽減し早期社会復帰してもらう。労働者のためであり使用者のためであり持ちつ持たれつ双方を守って参りました。

労災保険は、ドイツビスマルクにはじまり全世界的に資本主義企業社会とそこに働く労働者を守り支える制度として、昭和22年に我国にも導入されました。企業とそこに働く労働者。対立コンフリクトと抗争労働運動だけでは双方をダメにし立ち行かなく崩壊にいたります。資本主義企業社会防衛そして働く労働者の味方。戦後間もなくいち早くこの制度を導入したのも先人の偉業といってよいでしょう。どれだけの使用者ならびに労働者がその恩恵を被っているかはかり知れません。
自賠責保険は昭和30年。その10年後からの高まり行くモータリゼーションを賢明にも先取りしたセイフテイーネットとして、主としてアメリカの制度を参考にはやくも昭和30年に我国に導入されました。爾来50年余の歴史です。多発する交通事故の被害者を迅速に救済して、近年では死亡者の減少も進んでいます。教育マナー向上と環境整備の賜物でしょう。日本に追いつけ追い越せと上海万博で躍進する中国政府も最近この自賠責制度を導入しました。

医療患者損害補償保険(仮称)は、労災保険に似ています。自賠責のように加害者被害者が逆転することはありません。しかし、「明日は我が身」というのは変わりません。国民全員が潜在患者です。一度も病院・医師にかからない、無縁という人はないでしょう。生まれる時から死ぬときまで一度はお世話になる病院・医療。なくてはならない医療。公共財。最近は特に教育・医療・環境の良化がいわれるようになっています。3公社5現業に勝るとも劣らないインフラです。

健全な医療を維持確保発展させるために医師・病院・学会・日本医師会と患者という限られた世界に放置しないで、国民医療なのだから全国民的社会的国家的政策的に適正なセイフテイーネットを用意すべきであろうということです。目的は患者被害の迅速応急救済措置です。病院だけに任せておくと「過失なければ責任なし」で患者は放置されたままです。第1に患者のため第2に医師のためそして結果としてひろく国家のため。

長くなりました。あらためて何を申し上げたいかといいますと、交通事故・労働災害・医療事故などこれら三者の不慮の事故によって、当事者国民の収入が途絶えたり生活が破綻し家族が離散するような不幸を放置するような国では近代国家とは言えない。年金制度も含め国家の威信にかけて国家利益のためにもつくるべき制度であるということです。ですから国民が不幸にして被害患者になったときは少なくとも経済的な心配をしなくて治療に専念できるという、相互扶助制度を国家が手助けするという位置づけです。共通の思想として国民が互いに助け合おうという気持ちが前提です。今は個人主義が行き過ぎて損得しかない中で相互主義を訴えるのはかなり根気が要りますが、負けずあきらめずみなさまのよきご理解とご賛同をいただいて実現にこぎつけたいと念願しております。

再び今回のテーマに戻ります。以上のようなことがどれだけの国民、どれだけの医師・病院のかたがたの理解が得られるか。年間300円の拠出と申し上げましたがもしもみなさんが年間1000円(酒煙草飲み物代金くらい)拠出してもよいとおっしゃっていただけるならざっと100億のファンドが集まります。また国会の理解が得られれば公的資金の応援も期待出来るかもしれません。ダム道路橋をつくるように。
新設する補償制度がベースになります。限度額1000万円を超える事故の場合は現行の(過失)医師賠償保険で手当てします。2階建というのはこの意味です。自賠責保険に似ています。
医療事故災害補償法・同保障保険法を立法し早期にこの制度を制定する必要性をよくご理解いただけましたでしょうか。

繰返しになりますが労災と医療は、広くこの民主主義・国民主権の国家社会防衛をどう考えるかの問題だと思います。今崩壊しそうになっている医療を立て直すため、医師と患者との信頼とこころを通わすあたたかなこころとコミュニケーションが大事です。日銀の行う信用秩序維持と同様、今や総務・厚労・文科を一元化した政府主管の医療事故補償セイフテイーネットがどうしても必要な時代になったのです。なんと1972年(昭和47年)日本医師会が「医師として過失が無いのに不可避的に生ずる重大な被害に対しては国家的規模で損害補償制度を創設し救済を図る」必要があるとしているが、いまここに38年ぶりに新制度が創設されるのです。
ようやく機が熟したのです。まさに歴史的画期的な(epochmaking)出来事が生まれつつあるのです。教育・環境とともに政府の最重要課題の1つであるといってよいのではないでしょうか。医療事故災害補償法・同保障保険法を立法し早期にこの制度を実現したいと思います。

みなさんとともに頑張りたいと思います。

次回第4回は、ノーロス・ノープロフィット プラン についてお話させていただきます。 以上

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