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Vol. 169 「平成20年 医師・歯科医師・薬剤師調査」から医師数を解析する

医療ガバナンス学会 (2010年5月17日 07:00)


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わだ内科クリニック院長
和田 眞紀夫

2010年5月17日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


平成20年 医師・歯科医師・薬剤師調査」(厚生労働省大臣官房統計情報部編、財団法人 厚生統計協会)(平成22年4月8日発行)が新たに発刊された(調査のもとになっているものは、平成20年12月31日現在、我が国に住所があって、医師の場合は医師法第6条第3項により届け出た医師の「医師届出票」の調査であり、この調査は(昭和57年以降)2年ごとに実施されている。届出項目のなかに「主に従事している施設及び業務の種別」という項目があるが、その選択肢には「無職の者」という項目も含まれている)。

<はじめに>
「医師の数が不足している」という現状把握から「医師数を増員する」政策がとられている。筆者はそのことに賛成の立場にあることをあらかじめ表明しておきたい。理由は単純で不足しているものは補わなければならないということだ。不足していないという評価が下されるなら大前提から覆されることになる。
紙面の関係で詳しくは言及できないが、だからといって増やせばすべてが解決されるわけでは全くない。それと平行して進めなければいけないことは山ほどある。しかし足りないものは増やさなければならない。そこで理論のすり替えをしては間違ってしまう。

<東大グループの解析>
医師不足の解析では、「医療崩壊の現状分析と対策に関する考察」(東京大学医科学研究所先端医療社会コミュニケーションシステム 社会連携研究部門「医療再建を目指すワーキンググループ」http://kousatsu.umin.jp/が詳しい。
このレポート内容を要約するのは僭越であるけれども、要は単純に医師総数だけで判断しては誤るということ。医師総数は増えていても、病院勤務の産婦人科、小児科、内科、外科の医師数は減少していること(特に29歳以下の若手医師が減少していること)、44歳以下の医師数は定常状態にあること、過重労働を解消するためには労働時間の短縮が必要であること、高齢化に伴って医療ニーズが増大していることなどの解析を行っている。さらには、西高東低になっているという地域偏在、同一医師が複数の医療機関(病院)へ勤務している実態(厚労省統計の実人数より病院報告による常勤換算の医師数のほうがうわまっていること)、キャリアパス(病院勤務に始まって30歳代後半から50歳代前半にかけて診療所に移動するという自然の流れがあること)などの問題を取り上げているほか、女性医師の増加に伴って女性職員の育児支援の必要性を訴えている。

<平成20年調査結果の分析>
1.医師数の年次推移
1988年(昭和63年)の医師総数は201,658人、このうち医療施設の従事者は193,682人(96.0%)、病院の従事者が121,025人(60.0%)、診療所の従事者が72,657人(36.0%)、介護老人保健施設の従事者が22人(0.0%)、それ以外の従事者が6,254人(3.1%)、その他の業務の従事者が354人(0.2%)、無職の者が1,346人(0.7%)
2008年(平成20年)の医師総数は286,699人、このうち医療施設の従事者は271,897人(94.8%)(病院の従事者が174,266人(60.8%)、診療所の従事者が97,631人(34.1%)、介護老人保健施設の従事者が3,095人(1.1%)、それ以外の従事者が8,923人(3.1%)、その他の業務の従事者が628人(0.2%)、無職の者が2,143人(0.7%)、不詳13人(0.0%)
分析:
この20年間の分析では、医師総数は85,041人(1.4倍)も増加しており、病院の医師数(1.4倍)と診療所の医師数(1.3倍)は同じ比率で増加していて、病院の医師数の割合は過去も(60.0%)も現在(60.8%)も変わらないということ。診療所の医師数の割合はむしろ微減しているのだが、これには介護老人保健施設の従事者(1.1%)という新たな職種が生まれていることも影響していると思われる。すくなくとも比率で見た場合は大きく開業へと流れる傾向が顕著になっているわけではない。

2.人口10万対医師数の年次推移
1988年(昭和63年)の医師総数では164.2人、このうち医療施設の従事者は157.7人、(病院の従事者が98.6 人、診療所の従事者が59.2人)
2008年(平成20年)の医師総数では224.5 人、このうち医療施設の従事者は212.9人、(病院の従事者が136.5 人、診療所の従事者が76.5人)
分析:
絶対数同様に20年間で人口10万対医師数でも総数で1.3倍、医療施設の従事者でも1.4倍に増加している。

3.医師数及び構成割合(年齢階級・性別)の年次推移
1990年(平成2年)の医師総数は211,797人で、その内訳は、男が187,538人(88.5%)、女が24,259人(11.5%)。
このうち29歳以下が26,317人で、その内訳は、男が21,223人(80.6%)、女が5,094人(19.4%)。
2008年(平成20年)の医師総数は286,699人で、その内訳は、男が234,702人(81.9%)、女が51,997人(18.1%)。
このうち29歳以下が26,261人で、その内訳は、男が16,752人(63.8%)、女が9,509人(36.2%)。
分析:
近年、女性医師の比率が急増していることは周知の事実であるが、20年間の間に約2.4万人から5.1万人へと倍増している(比率では11.5%から19.4%にまで上昇)。注目すべきことは20歳代では女性医師の割合が36%に急増していることだ。ところで、医学部の定員が変わらないとすれば、裏を返せば20歳代の男性医師が激減しているという事実である。実際、20年間で20歳代の男性医師は実数で激減している(約21,000人から16,000人へ5,
000人の減少)。実は30歳代の男性医師数で見てもこの20年間で減少に転じている。病院では20-30歳代が主な働き手であることを考えると、このことが病院医師不足の大きな要因の一つとなっていることを忘れてはならない。

4.医師の平均年齢
医師の平均年齢を見ると、病院・診療所全体では48.3歳、病院が42.9歳で、特に大学病院では37.8歳、そして診療所の医師の平均年齢は58.0歳である。統計に絡んだ解析は行わなかったが、診療所の医師の平均年齢がいわゆる定年年齢(60歳)に近いことに思いを馳せなければならない。今回の統計で「無職」と答えた医師は2,143人(0.7%)しかおらず、ようするにひとたび医師になればほとんどの医師が死ぬまで働き続けているという現実がある。そして開業医の半数近くが定年年齢後の高齢者なのである。医師総数という場合、このような高齢医師までも医師数の頭数に入れて計算していることを忘れてはならない。社会が高齢化するということは医師という集団も高齢化しているわけだ。30年―40年も第一線で骨身を削って働いてきた高齢医師になおかつ24時間の時間外診療を押し付けようとしていることを為政者は考慮に入れているのだろうか。

付記:
今回、診療科名による医師数の年次推移については省略したが、そもそも厚労省の統計自体で詳しい分析を行っていないことを付記しておきたい。

<まとめ>
医師数の不足があるかを考えるとき、決して医師総数だけをみて、簡単に結論づけるべきではない。現場を知らない事務方には現場から伝わってくる実感として理解できない部分である。病院勤務の若い医師層を考えるとき、そしてある意味で定年後の再就職的な意味合いで仕事を継続している診療所の医師層を考えるとき、年齢的な要素を鑑みて医師の実数や労働力を計算する必要があるだろうということになる。

筆者の提言は、20歳代の男性医師数を増加に転じさせて20年前の実数にもどるぐらいに、医師養成定員を増やすべきだということだ。たとえば、医学部定員100人中かつては女性が10人であったものが30人に増えたならば、定員を120人に増員する必要があるだろう。冒頭でも述べたように、医師数を増やせばなにもかも解決するというものではない。一方で、将来女性医師が男性医師並みに働くことが出来るように、女性医師のための育児支援などを平行して進めなければならない。

西高東低の医師の偏在を考えたとき、東日本に医学部を新設することは悪くない。既に医学部の新設を願って申請をする準備がある私学があるのなら、それに対してNOと言える正当な理由はどこにあるのだろうか。そもそも病院の医師不足の要因の一つには病院のポストが十分でないという現実がある。だから少数の医師にしわ寄せがきて過重労働になるのである。新たに病院のポストを作ることはトータルでは病院勤務の医師枠を増やすことになるはずである。いろいろな意味での医師の偏在が医師不足という現状を招いていることは間違いない(でなければ医師の総数がこの20年間増え続けていることと矛盾してしまう。)。偏在を解消するための施策を平行して行わなければならないことは言うまでもない。

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