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Vol.151 コロナ対策、新組織はできたが

医療ガバナンス学会 (2020年7月21日 06:00)


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伊沢二郎

2020年7月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

永寿総合病院院長の会見があった。新型コロナの院内感染を起こした説明と214名の感染者と43名の死者を出してしまったことへの謝罪であったが、責任の重さを痛感する苦渋に満ちた会見であった。ただ果たしてこの度のことは、一病院のことと云えるのでしょうか、何処でも起こり得たことだと指摘する専門家もいる。院内感染は2月26日に脳梗塞の診断で入院した方に初まったと云うがその節、院内感染のリスクは今ほどに共有されていなかったのでは。その少し前に初めて、新型コロナの院内感染があった和歌山県済生会有田病院が県に報告を上げたのは12日のことだ。専門家会議・感染研にしてもその頃は、前門の虎後門のコロナ状態であったのにクラスター潰しに明け暮れていた。このような中、永寿総合病院に責任在りと、一方的に非難することが出来るでしょうか。略同時期の和歌山県済生会有田病院と永寿総合病院、事の顛末の差は何なのか。

仁坂知事が直接乗り出したからといって有田病院は県立でもなく地域医療を担う病院です。県知事と都知事、比較してあげつらう気はないが、事実として「早く徹底的に対処する」との掛け声の下に敢えて国の方針に従うことなく、大阪府の応援を得てまでもPCR検査を実施、コロナの封じ込めをやり抜いた、結果は皆さんもご存知の通りです。東京に於いても同様の危機意識が有ったとしたら違う結果に収まっていたのではとも思うがこれとて、そもそも専門家会議・感染研の当時の方針・認識はどうで在ったのかに行き着く、仁坂知事からして国の方針に反旗を翻した程だから。コロナの押さえ込みは、「早く徹底的に検査する」が極めて有効であることを和歌山県が身を持って証明した実例であるが、インフルエンザと重なる秋を向かえると云うのに、未だに我々に生活様式の変化を求める以上に踏み込んだ国の対策なり方針を見ていない、病院の経営問題さえ未解決だ。

これ迄のコロナ対応の良し悪しの総括も有ったのか無いのか良く分からない。何れかの時期にちゃんとした検証がされることだろうが、この二つのケースはコロナ問題に公がどう係わったのか否か、そしてどうなったのか。ただ自治体や民間に責任を押し付けるだけでなく、国がどの様に係わるべきかの象徴的事案として捉えるべきでないでしょうか。其程にクルーズ船以降今日に至るまで、表現としておかしいが厚労省の存在感の希薄さが際立つ、その反面結果的に専門家会議が出すぎと映る。途中から西村大臣中心の対応に移ると厚労省の在り様はなお更のことだ。クイズで今の厚労大臣はと聞かれたら思わず答えに詰まってしまうだろう。韓国では、PCR検査の為の専門外来窓口の運営に初まり、患者の症状別入院施設への振り分けと入院指示まで国が直接関与している取材報道があった。

法律の立て付が異なるから出来ることだ、との言い訳が聴こえてくるようだが、「んなーこったどうでもいい、危機意識の問題だ」と言いたい。分からない事が多いウィルスであり、もっと厚労省が関与して然るべきでないのか、ちゃんと機能しているのかと疑ってしまう。コロナも経済も二兎を追うには二人の大臣が要るかも知れないが実質は一人に見える。経済に前のめりになる余り、厚生行政本来の施策が置き去りになっていないか。専門家会議に代わる組織の陣容は定かでないが今のところ、医療体勢強化を鑑みたように見えない。経済を回すことは大事だが、コロナとの闘いに負傷しても野戦病院が脆弱では思い切り戦えない、戦死の恐怖もある。どっちが大事か小学生でも分かることだと思うが。もう次の波が来ているのかと思わせる東京と隣接県のコロナ感染者の状況。このままインフルエンザと重なる秋に向かうのか、一市民にとって不安は尽きない。

平時だったら見えなかったであろう様々が浮き彫りになった、気付かされもした。良く想えるものは何も無い。厚労省の存在の希薄さは先に述べた通りだが、この国の政治システム自体も機能しているのか。識者や専門家の多くが、経済もコロナも二兎を追うには無自覚な感染者の早期発見と隔離に尽きると言うのに、PCR検査一つとっても未だに相変わらず、やれ2万件近く出来る様になったとか、実施数はその半分だとかレベルの議論だ、「桁が違うつーの」と言いたい。京都大学山中教授は自身のiPS研究所だけでも1日当たり、10万件のPCR検査が可能であるとのこと。他の研究機関を動員すればもっと出来ると安倍総理との対談で進言した。その後この提案に政権からのアクションや反応すらない、少なくとも国民には聞こえて来ない。この数は厚労省がこなせる範囲を越えてるので実施には省庁横断の決裁が要ることでしょう。

だからこそ山中教授も総理大臣の鶴の一声を期待したのでしょうが未だ、鶴の鳴き声は聞いてない。一時期、大学の研究機関から、要請があればPCR検査に協力する談話も有った。桁違いのPCR検査を出来ない理由は何も無い、この他に抗原検査もある、国民皆コロナ検査だって在り得ることだ。経済との両立には検査数の桁違いの拡充が必要最小条件で在ることは自明の真理と思うが、他にやりようがあると言うのか、有るならとっととやってくれ。出来ない理由は何も無いのにやらないのなら説明して欲しい。今まで、それらしいことしか聞いてないので勝手に邪推すると、当初に専門家会議が言っていた医療現場が混乱する、は病院の経営問題が出る程に来院者の足が遠退いているのだから関係無し。感染者の収容も、無症状者・軽症者は然るべき宿泊施設で済むので理由にならない。ここからは邪推であるが、従来の専門家会議にPCR検査をしないのは「ポリシーだ」。

そのように言う委員が居たと聞く。何だそれはと思うが、この発想から初まった検査ルートを絞ってまで検査数を抑え今に至る方針を今更、変更出来ないことが理由でないのか。桁違いの検査をやって状況が好転すれば当然、なんで早くそうしなかった、の責めは負わなければならないが、これ迄の良し悪しを総括しない理由も同じか。厚労大臣以下、専門家会議・感染研、貴殿方の面子などは我々市民にとってはどうでもいいことだ。
クルーズ船以降、今に至るまで明るい兆しは何も無いが有事だからこそ見えてきたもの、思慮させられることがある。厚労省を初めとする医療のガバナンス問題・政権と役所の在り様・国と自治体の関係・自治体と民間の絡み等々。自分達にも直接関係する事柄も多く、否応無しに考えさせれる。黒川検事長の件での世論の盛り上がりを引き合いに出すまでもなく、市民の政治意識は間違いなく高まっている。

これが自粛生活時間的余裕の副産物であるなら、コロナ禍にしてまあ々の良い事だ。自画自賛だが我々の民主主義レベルも2段階程上がった様にも感じる。そのせいか一向に、民意の支持が集まらない政府及び厚生行政のやることが陳腐に見える。そんな折り(7/6)、専門家会議に代わる分科会一回目の会合があった。尾身座長が今までの鬱憤を晴らすが如く、一時期の保健所の混乱は統廃合による弊害で在るかの様に語気強く訴えていた。がしかしそれは、PCR検査を保健所ルートに絞った結果の弊害だろうと言いたい。因って保健所を拡充しろと言いたいのだろうが、其が喫緊の課題と言うのか、その感覚にはガッカリだ。臨床医は、これとは別の有識者グループに都立病院から入ってはいるが、民間病院の経営問題を解決出来るか疑問だ。コロナ検査と陽性者を受け入れる、ふじみの救急クリニック鹿野院長の経営上の遣り繰りを聞くに、経営と医療現場にも携わる医師の参加は不可欠だ。

これら医師の意見が反映されない組織に、この問題の解決は無理なのではと思う。感染症学主体の組織に、感染してしまった後の医療をどうするかの感覚があるのかと思ってしまう、我々市民はそちらの方が重要だ。医療環境脆弱な明治期、眼前の人命救助より多くの人々を流行り病から救う方が優先したことでしょう。今に名を残す明治の偉人曰く「医学は予防に尽きる」、当時の医療環境からすればこれは此で真理でしょうが、これしか方法が無かったとも云える。翻り時は代わり環境も変わったが、専門家会議改め分科会を仕切る感染症専門家の皆さんの発想は「予防に尽きる」で止まっているとしか思えない。和歌山県済生会有田病院は院内感染後の対応に苦労した。コロナと闘う前に国の方針と闘った、なんでそこまで追い込んだ。院内感染を押さえ込もうとした知事の足を引っ張ったのだぞ、結果良しでは済まない。予防に尽きるに止まる組織ならではのことでないのか。

各国の研究が進むほどに新型コロナは厄介な病気で在ることが分かってきた。肺炎・血栓をあちこちに作る・中枢神経を傷付ける・軽症でも後遺症が残る、等々此だけでも絶対に避けたい病気だ。様々な症状を呈する新型コロナウィルスだからして、新規発足の分科会には各科の専門医が居て、診断と治療に関しての意見が、対コロナ前後策にも反映する組織であって然るべきと思う、これにより予防策だけに尽きていた体制が、首尾一環したものになると思うが。
専門家会議の過半数が横滑りした分科会は相変わら「予防に尽きる」だけの組織なのか、労働組合関係筋や自治体関係者も入っているが、肝心の本当の医師がいない訳の分からない印象の組織だ。
これでコロナとインフルエンザが重なる時期を向かえることになるが、一市民としては誠に心配が尽きない。ひたすら行動自粛あるのみ。

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