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Vol.152 新型コロナ感染者の個別報道が新型コロナを拡げている

医療ガバナンス学会 (2020年7月22日 06:00)


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医療法人鉄医会ナビタスクリニック理事長・内科医
久住英二

2020年7月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

第2波到来とも言われる新型コロナウイルス感染の広がりに、東京で日々診療にあたる一医師として大きな危機感を持っている。もはや当面、感染はゼロにはできないだろう。それでも感染拡大スピードを少しでも抑えるために、すべきこと・できることはまだまだ数多くあると感じている。

目下の気がかりは、新型コロナ感染者の個別報道だ。新型コロナの感染者が発生するたびに、「◇◇大学に通う●●県〇〇市在住の女性が、何月何日に東京に行き、帰宅後に発症しPCR検査で陽性が判明しました!」などと報道機関が一斉にやる、あれである。

本来、感染拡大を押しとどめるには、PCR検査を積極的に受けてもらい、陽性者(感染者)を隔離するなどの措置を徹底するしかない。しかし、感染者に対する偏見や差別が深刻な状況では、“発覚”を恐れて検査を拒否したくもなるだろう。結果、感染の封じ込めができず、経路不明の市中感染は増え続ける――負の連鎖だ。

「偏見や差別はやめましょう」と声高に叫んだところで、その実効性は疑わしい。だったらいっそ、感染者の中途半端な匿名報道などやめてしまってはどうか。

メディアも当然、個人名等は伏せてプライバシーに配慮しているが、このネット社会にあって、個人の特定は時間の問題だ。

特に日本は諸外国に比べてSNSの匿名利用が多く(2014年総務省調査)、誹謗中傷や根拠のない発言に対する心理的ハードルは、実名に比べれば低くなる。真偽の分からない情報が飛び交い、冤罪にも似た不当な非難を受け、自ら命を絶つ人もいる。実際、新型コロナ感染者が出たとある県の高校では、報道後、様々な噂や中傷がインターネットで拡散した。本人は周囲から感染を非難されて自殺未遂、父親は自殺したという。感染者の住む家に投石されたり、落書きされたりとの報道には枚挙に暇がない。コロナいじめや差別で引っ越しを余儀なくされている人もいる。人間の心に潜む闇が新型コロナウイルスの力を借りて狼藉の限りを尽くしている。それを抑えるために人々が培ってきた理性は、どこに行ってしまったのだろう。

皆さんならどうだろう、ご想像いただきたい。自分が濃厚接触者と分かったり、思い当たる節があったりしても、無症状や軽症だった場合。感染者の“烙印”を押されるくらいなら、そのままPCR検査を受けずにやり過ごそう、と思ってしまう可能性はないだろうか。感染者が潜伏すれば、感染のチェーンは見つけにくくなり、経路不明の感染者が増え、やがて感染爆発に至る。やがて、感染者を誹謗中傷した人達にも新型コロナウイルス感染は容赦なく広がるだろう。

良かれと行われているはずの新型コロナ感染者の個別報道だが、国民の生命を守るのに実際どこまで役立っているのか――。残念ながら私には、恐怖心と苛立ち、偏見と差別をあおるばかりに見える。感染のリスクを知るには、個別報道よりもむしろ「接触確認アプリ」を各自がきちんと導入し、活用すればよいはずだ。

皆さんにも、本当に新型コロナ感染者の個別報道が必要かどうか、立ち止まって考えてみていただきたい。新型コロナに正しく立ち向かう社会を、一緒に作っていきましょう!

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