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Vol.153 コロナ診療への問題提起 ~民間病院から

医療ガバナンス学会 (2020年7月22日 15:00)


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都内民間病院院長
匿名

2020年7月22日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

新型コロナ患者の首都圏での増加に歯止めがかからない。連日感染制御しつつ経済を回すと言う報道が続いいており、医療体制の維持が急務とされている。現在のコロナ対策は地域での入院病床確保やPCR検査数増加が主たる論点となっている。確かに新規感染者の割り出しと隔離による感染拡大にはこの手法は優れている。

しかしもう一つ重要なことはコロナ疑い患者いわゆる疑似症例の対応である。救急現場でも受け入れ困難事例が多発しており、これに対して救急医療同様な受け入れ態勢構築、コロナ患者への東京ルールが論じられている。

コロナ患者は診断後に初めてコロナ感染症と判明する。すなわちPCR検査等で感染者と確定する前の段階からこの問題は論じられなければならない。有症状特に発熱患者の診断確定と治療への誘導が大事であり、その後コロナと診断された患者の治療フェーズに入る。

さらに事は受け入れの問題だけではない。先日こんなことがあった。3月から発熱が持続しており一部医療機関で診療拒否、他院の発熱外来を受診したがPCR陰性で明確な診断がないまま抗生剤投与、一時改善するも再燃した患者が受診した。明らかな心雑音を聴取し、同日感染性心内膜炎の診断がつき入院となった。発生頻度から考えれば発熱患者の大多数がコロナ以外の疾患を持っているのに、PCRセンターのみならず一部の発熱外来では発熱原因精査が行われていない。これでは本来の疾患が見落される可能性がある。

この診断フェーズと治療フェーズが現時点では同一施設で行われている場合が多いが、一部施設ではコロナ入院病床確保により経営が困難となっている。

今回の女子医問題はこの大学自身の問題点はあろうが、コロナを診ることのリスクを考えさせる。減益によるボーナスカットで多くの看護師離職が起きうることを示した事例だ。甘いと言われるかも知れないが彼らの気持ちもわかる。コロナ診療で神経をすり減らし、一般病床では人員も減り業務過多となった。何とか頑張ったが夏季賞与が減額乃至は無いと聞けば転職を考えるのもやむを得ないだろう。知り合いの民間病院はコロナ診療で大幅な減収減益となっている。本来なら女子医大同様カットしたいところだが、病院長は銀行から借入金を得てボーナスは満額支払うと言っている。彼の気持ちは痛いほどわかる。病院は病床を稼働させなければ収益は出ない。病床を運営する絶対条件は看護師の存在であり、看護を失うことは病院の減収減益のみならず閉院にもつながりかねない事態を招く。

当院は東京都にある中規模の民間病院だ。今回の新型コロナウィルス感染症(COVID19)では、いわゆる発熱外来を行政の依頼に応じて当初から始め現在も継続している。第1波の際には一般病室をコロナ病床に転換した。この際一般病床の大幅な削減を要し、新規患者受け入れが困難となった。さらに感染を恐れた外来患者の受診抑制、電話診療、予定手術や予定検査、処置の延期や中止が相まって、3月末から5月まで大幅な減収減益となった。

コロナ報道を見ていると一般の方はどの病院でもコロナ診療は可能と思っているようだ。有難いことに最近は感謝の品が多く届いている。行政からは病床が不足しており、コロナ病床を増やすことが病院の責務であるかのような発言も聞いている。我々はコロナ診療に初期から協力しているが入院患者受け入れが少ない医療機関であり、今は肩身が狭い雰囲気になっている。我々も入院治療に協力したいと思っているのだ。しかしコロナ受け入れは諸刃の剣どころか中小民間病院では大きなリスクがある。

一つ目のリスクは金銭面。行政はコロナ病床やコロナ対策に補助金を出すと言っている。しかし東京を中心とした都市部で急速な患者数増加の一因となっている夜の街に対し、対策の一環としての休業依頼がすぐに出せない状況がある。これで何時まで続くかわからないコロナ対策に資金が足りるのか。限られた公的資金は、公的医療機関や多くの患者を受け入れる機関を中心に配分しなければ平等では無い。中小民間病院では多くの患者を受け入れるスペースもマンパワーも無いところが多く、公的資金が多く得られるとは考えにくい。

二つ目は風評被害と診療。患者たちは医療機関でのコロナ感染を恐れていることは明らかだ。不安そうにコロナ患者はいないですよね?と聞かれることが良くある。街頭インタビューではコロナ診療に肯定的な話が流れているが、実際には感染者の置かれている状況を見ても差別がいまだに無くなっていない。この状況下でギリギリの収益で戦っていた民間病院が一般病床を転換して少数のコロナ患者を受け入れる選択が可能だろうか。いわゆるブランド病院であればコロナ診療をしていようが患者は来るだろう。一般病院ではコロナ入院患者がいる医療機関として認識されることで新規外来患者数は減少する可能性が高い。さらにコロナ病床へ転換すれば一般病床は減少し新規患者受け入れ数も減る。一般病床の減少による減収減益は補助金のみで贖えるとは思えない。

我々民間病院は収益を上げ職員も守らないと存続出来ないのだ。一部の民間病院はコロナ診療に特化する方向に動いている。素晴らしい取り組みであり、コロナ関連公的資金で損益が贖え、生き残りが可能とお考えかも知れない。しかし私はそう楽観的にはなれない。万が一収益悪化で閉院となれば地域の皆様に多大な迷惑をかける。多くの職員にも職場を失わせることになろう。それ故入院とは異なる形でのコロナ診療を目指したいと思っている。

コロナ診療においては明確な役割分担と連携が必要である。さらに診断施設と治療施設の分離も一案ではないか。診断施設は日勤帯、夜勤帯を問わず発熱者を診療し原因検索を行う。この施設群が機能すればコロナ疑い患者が搬送困難になるケースは激減するだろう。この施設でPCR等を行いコロナの診断がつけば直ちにコロナ治療施設へ転院となる。他の疾患であれば同施設乃至は高次施設での専門治療を行う。

民間医療機関はこのゲートキーパーとしてのコロナ診療であれば参加可能な医療機関は少なく無いと思われる。むろん民間でも治療施設という選択肢はある。公的資金で運営される公的医療機関には治療部門を中心にお願いし、診断と治療の綿密な連携で対応すればコロナ患者、他の疾患を持つ発熱患者両者に有益な診療体制が構築できるのではないか。

我々は楽をしたいと言っているのではない。診断施設にくる患者は疑似症例であり、フル装備での対応と入院となれば診断がつくまで個室でコロナ患者と同じ対応が必要となる。

この国難と言える新型コロナ感染症蔓延に対して医療機関を存続させながら、お互いが出来る最良を行い広域で連携して対応していくこと。それこそが最善の道ではなかろうか。

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