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Vol. 181 IDATENパブコメ(2)本当の意味での日本版ACIPを・日本に導入されるべきワクチンリスト

医療ガバナンス学会 (2010年5月27日 15:00)


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本当の意味での日本版ACIPを
日本に導入されるべきワクチンリスト

日本感染症教育研究会(IDATEN)
岩田健太郎 神戸大学感染症内科
荒岡秀樹 虎の門病院臨床感染症部・臨床感染症科

2010年5月27日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

【本当の意味での日本版ACIPを】

予防接種制度の見直しの議論で、必ず取り上げられるのが「日本版」ACIP、すなわちアメリカのようなadvisory committeeを作って予防接種のあり方を決めていきましょう、というものです。このような論の進め方を行うと、「アメリカと日本は違う」「我が国独自の社会や文化に合致した制度を」という異論が生じます。逆に、ACIPの組織図や規約を翻訳するだけの「模倣」に堕してしまう可能性もあるでしょう。

アメリカと日本は違う、我が国独自の社会や文化に合致した制度。当たり前のことです。しかし、そのことはACIP(あるいはアメリカではダメだ、というのであればオランダなど別の国の制度を採っても良い)を参考にせずともよい、という誤った結論に導かれてはいけません。他国の良い制度を見習い、咀嚼し、自分の血肉として我が国の社会や文化に合致したスタイルを創出していくのはむしろ日本の得意とするところなのです。我が国独自の文化を大切にする、というのであれば是非積極的に他国の良い制度を参照すべきです。

むろん、組織図だけ模倣して「改革したつもり」になってはいけません。日本にもワクチン産業ビジョン委員会や公衆衛生審議会など、一見するとACIPに見えなくもない集団があります。が、それらが日本のあるべき予防接種のあり方を具現していない以上、これはACIPとは似て非なるものだと認識すべきでしょう。従って、輸入すべきはACIPの「形」ではなく、その根幹部分、魂の部分だと考えます。ACIPの魂にあたる部分は以下の4点に集約されるでしょう。

多様性
ACIP会議は投票権を持つ議長含む15名、それにex-officioとしての行政担当者、liaisonとして各関連機関の代表などが加わり議論を重ねます。その出自は多様で、小児科医、家庭医、内科医、医師会など現場の運用部門が参加しているのが特徴です。メンバーには実際に診察室でワクチンを接種している臨床医もいます。我が国では、ワクチン学会、ウイルス学会が予防接種に関する専門家集団として機能しますが、運用サイド、公衆衛生や臨床家の参加に乏しいです。これではエンジンやタイヤの専門家だけを集めて勝ち目のないレーシングチームを作るようなものです。米国もこれで一度失敗しています。1976年に米国は豚インフルエンザワクチンの大量接種を行い、多くの方が副作用(ギラン・バレー症候群)に苦しみました。この大量接種を強く推奨した人物には、ポリオワクチンの開発者である高名なSalk氏もいました。ワクチン学とウイルス学の英知だけでは正しい判断は下せるとは限らない、という証左です。
ACIPから学ぶべきは多様性です。ワクチンにまつわる全てのプレイヤーが参加すべきなのです。

継続性・迅速性
ACIP会議は年3回開催され、その決定は各学会などの診療ガイドラインに迅速に反映され、CDCや州政府の政策にも直接影響しています。我が国のように議論が始まってから意志決定に至るまでの冗長さがなく、より国民の利益に合致したシステムになっています。

透明性
ACIPメンバーの選抜プロセスは明示され、各メンバーの利益相反も開示されます。会議は一般に公開され、インターネットでの中継もあります。我が国のように「探せば見つけられなくもない」という申し訳程度の情報公開ではなく、積極的にACIPで行われた議論を人口に膾炙するよう尽力しています。この透明性が信頼性(credibility)の基盤となっています。

独立性
ACIP会議での決議は最終言説となり、これが事実上の決定事項となります。我が国のように会議に会議を重ね、厚労省や財務省、政治家などの横やりが入って骨抜きになる可能性が完全に排除されています。この独立性もACIPにおける決定事項の責任の所在、わかりやすさを反映しています。

1964年に設立されたACIPは無謬な存在ではありません。例えば、1976年の豚インフルエンザ出現時には、副作用のある予防接種を大量に接種するという事態を引き起こしました。しかし、このときもACIPの多様性、継続性・迅速性、透明性、独立性の各属性の助けを得て迅速に問題に対応し、検証し、改善を行いました。我が国のように予防接種のリスクのみを喧伝して萎縮する、という判断停止状態に陥ることはありませんでした。日本版ACIPはワクチンにまつわる問題の全てを払拭する神的な存在ではありません。ワクチンにまつわる問題がゼロになるということはありえないのです。しかし、多様性、継続性・迅速性、透明性、独立性をもった予防接種に関する意志決定部門が日本にあれば、ワクチンにまつわる問題に、よりまっとうに対応できるはずなのです。

文責 岩田健太郎 神戸大学感染症内科

<参考>
1. Smith JC,et al. Immunization policy development in the United States:the role of the Advisory Committee on Immunization Practices. Ann Intern Med. 2009;150(1):45-9.
2. 横田俊平. アメリカの予防接種を決める仕組み Advisory Committee on Immunization Practicesについて.小児内科.2007;39(10):1473-77.
3. 横田俊平,他.米国「予防接種の実施に関する諮問委員会」Advisory Committee on Immunization Practices(ACIP)について わが国の予防接種プラン策定に新しいシステムの導入を.日本小児科学会雑 誌.2006;110(6):756-61.
4. 岩田健太郎. 予防接種行政に必要なのは日本版ACIP 米国ACIP会議に参加して 週間医学界新聞 第2857号 2009年11月30日 医学書院 http://www.igaku-shoin.co.jp/paperDetail.do?id=PA02857_03
5. Richard E. Neustadt, and Harvey V. Fineberg. The Swine Flu Allair. Decision-making on a slippery disease. University Press of the Pacific. 1978. Reprinted in 2005.

【日本に導入されるべきワクチンリスト】

予防接種制度の見直しの議論で、日本の提供しているワクチンの種類が、諸外国の提供しているそれに比べ、明らかに見劣りしている現状がとりあげられている。欧米に比べ臨床応用に20年程度の遅れが生じているものもあり、1例をあげると、米国でインフルエンザ菌ワクチン(Hibワクチン)が臨床応用されるようになったのは1988年、日本においては2008年末のことである。

近年、前述のHibワクチンや7価結合型肺炎球菌ワクチン(プレベナー (R))、ヒトパピローマウイルスワクチン(サーバリックス (R))などが、任意接種である問題はあるものの、日本に導入されたことは前進しているととらえられる。しかしながら、依然として世界的に有効性が確立しているにもかかわらず、日本にワクチン自体が存在せず、導入すべきワクチンが存在していることも事実である。以下に、日本に導入されるべきワクチンのリストをあげる。

1) 不活化ポリオワクチン
現在、日本においてはポリオ生ワクチンが定期接種の対象とされている。1988年にWHOにより提唱された世界ポリオ根絶計画は、一部のアジア、アフリカ地域を除いて根絶に近づいている。これまでの経過で、安価で接種が容易である経口生ポリオワクチンの寄与してきた面は多大であった。しかし、一方で300~400万回の投与に1回ほどの頻度でワクチン株ウイルスによると考えられる麻痺が副作用として報告されている。また、免疫のない成人が、ポリオ生ワクチンを飲んだ小児からワクチン株ウイルスの感染を受けて麻痺を起こすことも約600万回に1回の頻度であるとされている。わが国でも、毎年のようにワクチン関連麻痺が報告されており(1)、直近では2010年2月に神戸で発症している。
このことから、欧米諸国を中心として、不活化ポリオワクチンが導入されている。世界においてポリオが根絶に近づいている今、生ワクチンに比べ安全性を重視した不活化ポリオワクチンを導入することが必要と考える。

2) Tdap(3種混合:ジフテリア、破傷風、百日咳)ワクチン
現在、世界的な傾向として成人の百日咳発症が問題視されている。日本においても、同様に成人発症例が増加している。三種混合ワクチン(Dtap)の接種がなされている国では、百日咳患者の乳幼児比率は減少しているが、一方ワクチンにより獲得された免疫力は経年的に減弱し、青年や成人発症が相対的に増加する。この予防のために開発されたのが、成人用Tdapである。これは、局所の副反応を軽減する目的で、ジフテリアトキソイドと百日咳ワクチンの力価を落としたものである。米国では、2006年から11~18歳を対象にTdapが導入され、またすべての医療従事者もTdapを1回接種するよう推奨されている(2)。日本においても、早期導入が必要と考える。

3) 腸チフスワクチン
腸チフスはチフス菌の経口感染によって起こり、アジア、中東、東欧、アフリカ、中南米諸国にわたって広い地域で患者が発生している。最近は、チフス菌の薬剤耐性が増加しており、治療の面でも問題となる。日本においても、渡航者、流行地域への赴任者を中心にワクチンの接種の必要性が高い。流行地域へ行ってからのワクチン接種では遅いことがあり、日本において早期導入が必要だ。

4) 髄膜炎菌ワクチン
現在、日本において髄膜炎菌による流行性脳脊髄膜炎はまれにしかみられないが、世界的にみるとアフリカや中近東では流行がある。また、米国でも流行があり、思春期では死亡率は25%にものぼるとされているため、ワクチン接種を推奨している(3)。日本においても、流行地域への渡航者、赴任者を中心に、また脾臓に病気を持っている方など基礎疾患のある方も含めて接種導入を検討すべきであろう。

5) ロタウイルスワクチン
ロタウイルス胃腸炎は5歳以下の小児の重症下痢症の最も一般的な原因である。ロタウイルス関連の入院は小児の全入院の2.5%にも上る。米国においては、2006年2月に5価のロタウイルスワクチン(経口生ワクチン)が認可された。これは、1998年米国で認可されたロタウイルスワクチンと違い、腸重積症の発症リスクが増すという報告はなされていない。WHO(世界保健機関)は、2009年6月に最重要ワクチンに指定し、全ての国の定期接種に入れることを勧告している。日本においても、導入すべきワクチンと考える(4)。

6) 経口コレラワクチン
日本においては、現在任意接種の形で注射用不活化ワクチンが導入されている。東南アジア、インド、中近東、アフリカ、中南米などで発生がみられ、これらの地域への渡航者、赴任者を中心にワクチンの必要性がある。しかしながら、コレラ注射用不活化ワクチンは免疫効果に疑問があり、日本からの渡航者に接種を要求している国もないのが現状である。世界的にも有効性が確立している経口コレラ不活化ワクチンの導入が必要と考える(5)。

以上が特に必要性が高いと考えられる日本に導入されるべき6種のワクチンです。他にも、帯状疱疹ワクチンなど、これからさらに導入されるべき必要性が高くなる可能性のあるワクチン、また現在は任意接種の形で導入されているものの定期接種の形で提供されるべきワクチンなど、改善すべき点はこれから刻々と変化していくことが予測される。

以上のことからも、是非将来にわたって継続性・迅速性を持った予防接種に対する意思決定機関を日本国として持つ必要があるのではないかと考える。

文責 荒岡秀樹 虎の門病院臨床感染症部・臨床感染症科

<参考>
1. ポリオ 2009年現在. IASR 2009; 30(7): 171-172.
2. CDC. Preventing tetanus, diphtheria, and pertussis among adults: use of tetanus toxoid, reduced diphtheria toxoid and acellular pertussis vaccine. MMWR Recomm Rep. 2006; 55: 1-37.
3. World Health Organization. Meningococcal vaccines: polysaccharide and polysaccharide conjugate vaccines. WHO Weekly epidemiological record 2002; 77: 329-340.
4. CDC. Prevention of rotavirus gastroenteritis among infants and children. MMWR Recomm Rep.2009; 58: 1-25.
5. Zuckerman JN, et al. The true burden and risk of cholera: implications for prevention and control. Lancet Infect Dis 2007; 7: 521-530.

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