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Vol. 182 骨髄バンクに、もう天下りはいらない(その1)

医療ガバナンス学会 (2010年5月28日 07:00)


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~公益法人の事業仕分け、天下り根絶は「新しい公共」実現への試金石
山崎裕一(元骨髄移植推進財団事務局総務部長、現在、復職を求め裁判中)

2010年5月28日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


1.はじめに

鳩山・民主党政権が、国民の願いを本当に実現してくれるか?市民・国民は固唾を飲んで見守っている。とりわけ大きな期待が寄せられているのが、昨年秋から始まった「事業仕分け」である。行政の無駄、不要な補助金などを洗い出し、資金を捻出すことが目的ではあるが、それと共に、事業仕分け対象先団体への質問では、必ずと言っていいほど、官僚の天下り人数、年収などが取り上げられ、天下り問題が焦点のひとつとなっている。
今月20日から始まった事業仕分け第2弾目後半、公益法人への事業仕分けでは、骨髄バンク(骨髄移植推進財団)が事前調査され、直前になって対象から除外されたとの報道があった。骨髄バンク事業は、患者さんの命を救う大切な事業で、それなりの実績を上げている団体が、何故、事業仕分け対象にノミネートされたのか、疑問に持たれる関係者も多いと思われる。

また、今週に入り、造血細胞移植の現場医師である名古屋大学医学部の鈴木律朗氏が、骨髄バンクとさい帯バンクの問題点、その解決への取れ組みなどについて提言があった。現場の第一線で医療を担っている方からの貴重な意見であり、私も同感するところが多く、感銘を持って読ませていただいた。
私は、骨髄バンク(骨髄移植推進財団の別称、以下・骨髄財団)の事務局員として、長年勤務してきた者である。これまで、骨髄バンク事業は、全国の医療関係者、日赤血液センター、支援ボランティア、そして事務局スタッフなど現場の方々の努力と協力により、紆余曲折があっても進展し、着実に成果を上げていることに、この機会を借りて、心からの感謝を申し上げる。

さて、より良い骨髄バンクとするためには、避けて通れない問題が、まさに「今、そこにある危機」として存在している。それは、骨髄財団の天下り官僚たちのあまりに酷い言動である。今回は、その実態報告である。あまり愉快な話題ではなく、患者・家族、現場の医療関係者、支援ボランティアの方々に無用な心配をかけたくないと、これまで発言を控えてきたが、この機会に、具体例を通じて、天下り問題の弊害、公益法人のガバナンスの確立の必要性について提言をしたい。

2.不当解雇、いわゆるパワハラ、セクハラ裁判の勃発

私は、2006年9月末、骨髄移植推進財団(以下、骨髄財団)事務局員を不当解雇された。その背景と理由は、1年前の05年8月末に正岡徹理事長(医師・元大阪府立成人病センター院長)に、余りにひどい天下り官僚の言動があり、その改善をお願いする報告書を提出した。しかし、正岡理事長は、最初から「臭いものに蓋」する態度で、ろくな調査もされないまま、逆に、私は1ヶ月半後に総務部長を解任、閑職に降格左遷された。更に1年後には懲戒解雇までされた。天下り官僚に楯ついた者は追放するという、明確な報復だった。

私は、不当解雇という余りに理不尽な骨髄財団の対応に、やむ負えず、財団職員としての地位確認と損害賠償を求め提訴した。いわゆる骨髄バンクのパワハラ、セクハラ裁判といわれる事態の勃発である。
昨年の09年6月12日、東京地方裁判所で第1審の判決があった。判決では、骨髄財団側が懲戒処分理由とした「報告書は虚偽である」との主張は退けられ、「報告書は根幹的には真実」、解雇は無効。損害賠償も認められ、私は、全面勝訴した。敗訴した骨髄財団は、全く反省の態度も示さず、東京高等裁判所に控訴したが、高裁段階では、財団側からの新たな事実、証拠も示されず、今年3月に審理は終了している。裁判長からは、1審判決の路線を前提とした和解勧告があり、協議が続いているが、不調に終われば6月末には判決が出される見込みとなっている。

3.傍若無人な天下りの言動~植民地としての公益法人、天下りが常態化

骨髄財団は、1991年12月に旧厚生省から設立許可されたが、半年後の翌年4月に、早くも旧・厚生省から天下り官僚が舞い降り、それ以後、5代にわたりノンキャリア官僚が天下ってきている。今まで、常務理事のポストに天下り以外で就任した者はいない。ただ、ノンキャリア官僚たちは、天下りであることを自覚してか、事務局運営にあたっては、あまり横暴な態度は示さず、問題が起きると各部課長・職員から意見を聞き、その意見をもとに判断することが多く、また、重要な政策方針の変更等については、後輩である厚生労働省の役人にお伺いを立てるのが常であった。つまり、居ても居なくともよい、ただ、年収約900万円の給与を貰う為に来ているもので、いわば「お邪魔虫」としての存在であった。天下りについて、ある役人から直接言われたことは、「所管の公益法人で、国庫補助金を出している所には、天下りは原則として受け入れてもらう。」という、まるで、国民の税金で支出されている国庫補助金は、役人・役所の財布から出しているという発想。まさに、公益法人は植民地と同じであり、天下りが当然という発想の構造は、今も続いている。

02年に、骨髄バンクの財政危機が表面化し、財団の基本財産8億円のうち約2億円を取り崩す事態となった。この問題は、骨髄バンクでの移植件数が毎年大幅に増大し順調に進展してきたが、それに伴った形での国庫補助金の増額がなく、また、医療保険点数の増額適用も遅々として進まなかったことから、財政危機に陥ったものであった。基本的には、厚労省の対応が悪く遅いという、行政として責任が問われるべき問題だった。しかし、それへの回答は、何と、天下りの強化という、「焼け太り」としての対処であった。

1)キャリア官僚の天下りが始まってから、問題言動のオンパレードとなった。
堀之内敬氏について(在任期間:2004年8月~06年3月)

05年8月に、それまでのノンキャリア官僚に代わって、元キャリア官僚(法令担当官僚)の堀之内敬氏が、常務理事兼事局長となって天下ってきた。それから、ノンキャリア官僚のやり方を一遍する事態が次々と起きたのである。なお、骨髄財団は、元キャリア官僚を受け入れるため、急遽、常勤役員報酬を900万円程度から1400万円ほどに引上げ改正を行った。

堀之内氏が、天下ってきた時の挨拶は、「この財団に来たのは、前の厚生労働省次官で、現在、日本赤十字社副社長をしている大塚さんから、骨髄バンクが色々ごたごたしているようなので、2~3年行ってほしい。任せるからと言われてきた。普通、僕みたいな者(キャリア官僚)は、こんな小さな団体には来ないのだがーーー、長くは居ないが宜しく。」というものであった。

堀之内氏は、就任直後から、総務部の幹部職員への高圧的な対応が始まり、人事院勧告があったからとして、職員ポーナスの減額を実施し、気に入らない契約職員である男性職員の雇い止め(契約打ち切り)も相次いで行われた。契約職員からは、雇用に不安を持つ声がささやかれた。しかし、人事権をもつ常務理事に、誰も意見するようなことはあり得ないことであった。

05年4月、私は総務部長に就任したが、その直後から堀之内敬常務理事からパワハラと思える言動があったとの話が聞かされ、そうしたさ中に、今度はセクハラ?とも思えるとの苦情が、複数の女子職員から受けた。私は、これ以上、放置できないと思い、嫌な役目と思いつつも、同年8月末に、正岡理事長に報告書を提出した。ひとり一人へ具体的な問題言動については、裁判中であり、また、プライバシーの関係上、詳細には記載できないが、その概要は次の通りである。

パワハラ疑惑:
5名の職員に対し、学歴や経歴等を侮蔑したり、パワハラと思われる言動について、具体的に聞き取った内容を報告した。
セクハラ疑惑:
2名の独身女子職員を常務理事直属に人事異動し、個人の携帯電話番号、メールアドレスを執拗に聞く言動等があったり、さらに、地方出張に同行、同宿するよう手配するなどを行ったことについて、具体的に聞き取った内容を報告した。
職場の改善:
当時、骨髄財団の事務局職員の身分は、契約職員(1年更新)あるいはアルバイト(半年更新)が全体の7割を超える状況で、かつ、その給与待遇は、公務員の6割~7割程度。こうした処遇と権威主義的な上司の態度、また、堀之内敬常務理事の指示により、4名が一方的な雇い止め(契約更新の拒否)されたことなどにより、職場内に雇用不安感が一気に増大した。1年間に職員の3割もの退職者が出るという異常事態になっていた。業務量の増大と職員の補充交代に伴う新人教育などが重なり、人員不足の現場はかなりの混乱状態にあったので、その改善を要望したもの。

私は、こうした堀之内氏の言動問題について、同年6月~7月に、厚労省の担当(健康局臓器移植対策室長、室長補佐)や、官僚OB(伊藤雅治・元厚労省医政局長、当時、財団理事)に、内々に善処を求めたが、全く埒が上がらなかった。そんなさ中、正岡理事長から何か報告があれば、という連絡を受けたことから、総務部長として、意を決して報告書を提出したものだった。
さらに、同年10月中旬、厚労働省の健康局臓器移植対策室の室長補佐に呼び出された。厚生労働省の会議室で、正岡徹理事長が同席のうえで「堀之内氏の言動について新聞報道された、報告書は正しい内容ではない。堀之内常務理事もいずれ辞めるだろうから、お前も混乱の責任をとって辞めろ。」という恫喝を受けた。という事実もあった。つまり、厚労省の役所ぐるみで天下りを庇ったものであり、財団執行部は現場で天下りを庇うことを文字通り実行したという構図であった。そして、10月下旬には、内部調査途中であるにもかかわらず、正岡理事長と鈴木常任理事(弁護士、内部調査委員長)は、「全く問題なし、パワハラ、セクハラ行為という事実もなかった」という記者会見まで実施した。

同年11月下旬、こうした骨髄財団の執行部のあまりにひどい対応に、多くの職員たちの不安が頂点に達し、職員有志達は労働組合を結成し、専横的な労務管理、職員処遇の改善、パワハラ、セクハラ的言動の中止改善などが要求した。組合員数は、瞬く間に20名を超えるまでなったと聞いている。

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