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Vol. 184 医師より製薬メーカーに優しい日本の医療制度

医療ガバナンス学会 (2010年5月29日 07:00)


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武蔵浦和メディカルセンター
ただともひろ胃腸科肛門科
多田 智裕

※このコラムは世界を知り、日本を知るグローバルメディア日本ビジネスプレス(JBpress)に掲載されたものを転載したものです。他の多くの記事が詰まったサイトもぜひご覧ください。 URLはこちら→http://jbpress.ismedia.jp/

2010年5月29日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


今年の保険点数改正のポイントの1つであった、「明細付き領収証」発行の義務化から1カ月半が経過しました。 今年の保険点数改正のポイントの1つであった、「明細付き領収証」発行の義務化から1カ月半が経過しました。

このレセプト並みに詳しい領収書について、実施後のアンケート調査で半数近くの患者さんが「不必要」と回答しています。当院でも、「前のままでいいのに、なんでこんな複雑になったの?」と言われることがしょっちゅうあります。一方、「診療内容が細かく分かって助かる」という声は皆無です。(関連コラム「誰が読む?気が遠くなるほど詳細な領収書」http://medg.jp/mt/2010/02/vol-65.html も参照ください)

長妻昭厚生労働大臣は、将来、消費税増税などの議論をする時のためにも、医療費の中身を透明にして、お金の流れを見えやすくしておくことが必要、との考えです。

しかし、希望者だけではなく、すべての受診者に細かい明細を渡してチェックさせるのは、いわば全員に医療を疑うことを勧めているようなものです。現場の医師にとっては、信頼関係を築く上で障害になることはあっても、メリットはほとんどありません。
その上、明細発行はお金の流れを見えやすくするどころか、医療費全体のお金の流れをかえって見えにくくしている気がしてならないのです。

■医師の「診察料」は、薬剤師の「調剤技術料」よりも安い

多くの人は明細付き領収書をもらっても、項目名を見て、自分が受けた検査や処置内容と一致しているかどうかを確認するだけで終わってしまうことでしょう。
しかし、明細が発行されたらぜひ見比べてほしい項目があります。それは「診察料」と「調剤技術料」の部分です。

診療報酬体系が極めて複雑なこともあり、ケースバイケースになるのですが、一例を挙げてみましょう。
問診と診察を受けて、胃腸の動きを整える2種類の薬を1カ月分処方されたとします。医療機関の「診察料」は1210円(再診料が690円+外来管理加算520円)です。処方箋代金680円を加えても、合計金額は1890円です。
一方、その処方せんを扱う調剤薬局の「調剤技術料」(薬代金は除く)は2570円になります。
患者に問診して、診察して、処方を決める医師の診察料の方が、薬を詰めて説明をする薬剤師の技術料よりも、安い金額に設定されているのです。

ここで「薬剤師の調剤技術料が高い」と批判したいわけでは全くありません。薬剤師も医師と同じく6年制の学校を卒業する必要がありますし、資格試験もあります。
そんなことよりも問題は、医師の技術料が極めて安く設定されすぎているということです。

■医師には厳しく、医療周辺産業に優しい保険点数

診療報酬にまつわるアンバランスの問題は、診察料と調剤技術料の間だけにとどまりません。
今年、開業医の技術料である「再診料」が20円引き下げられました。その一方で、製薬会社が扱う薬の値段については、「新薬創出・適応外薬解消等促進加算」(以下、「新薬創出加算」)が導入されました。
新薬創出加算とは、革新的な新薬の創出や適応外薬等の問題に対応する資金を製薬会社が稼ぎ出せるように、「約33%の新薬については、保険点数の 改訂時に薬剤代金の引き下げを行なわない」というものです(今まで、2年に一度の保険点数の改定時には、薬剤代金の引き下げが行われてきました)。

私自身も治験の仕事に関わっているので、新薬開発にどれほどの時間と資金が必要なのかは、ある程度分ります。また、薬の適応範囲を広げる臨床試験だけでも膨大な資金が必要なことも理解しています。
製薬会社は経常利益で20~45%(荒利益率で言うと80%超)という、他業種からすると信じ難い高収益を挙げていますが、それだけリスクを取っているからでもあるのです。
とはいえ、病院の大多数が赤字に苦しんでいる事を考えると、同じ医療産業の中での格差を感じざるを得ません。

さらに指摘しておきたいことがあります。日本の医療費に占める薬剤代金は30%。これは欧米の2~3倍近くです。それに対して、医師の診察料(技術料)は医療費のわずかに10%未満です。欧米の約5分の1でしかないのです。
このように最前線の医師の診察料を厳しく下げる一方、医療周辺産業に手厚いのが日本の医療です。この状態はなんとか改善してほしいものです。

■薬価差益は存在しないどころか損失が発生する

新薬創出加算には、薬価を統制するだけでなく、もう1つの縛りがあります。それは、製薬会社が薬を医療機関へ納める際の納入価格(実勢価格)の統制です。
どういうことかというと、薬価(販売価格)と納入価格の差が市場平均を上回る場合には、加算の指定が取り消されるのです。結果的に、医療機関への薬の卸値はさらに上がることになりました。
現在、医療機関への薬の納入価格は、平均で販売価格の93~94%です。医療機関は6~7%の利益を得ていると思われるかもしれませんが、そうではありません。薬を購入する際には消費税が発生しますので、93~94%に消費税5%が加わった金額、つまり、売値の約98~99%が納入価格なのです。

仕入れ値段が高く、利益が出しにくいと言われている業態の代表に、書店があります。書店における書籍の納入価格は売値の70%と聞きます。医療機関は薬を売値の99%で仕入れて販売するわけですから、廃棄ロスになる分や保管管理の手間ひまを考えると赤字になるのは間違いないでしょう。
「薬を売れば医療機関は儲かる」という論調で医療問題を語る人たちが時々います。しかし、それは昔の話であり、はっきり言って、大きな間違いです。現在、医療機関は薬を売れば売るほど損失が発生する「逆ざや」状態なのです。

■どれだけ詳細な明細書を発行しても見えてこないもの

私がみなさんにお伝えしたいのは、医療機関が発行する領収書をどれだけ詳細にしても、見えてこないものがあるということです。
例えば、先日のコラム「悪意の『不正請求』を行っている医師なんていない」http://medg.jp/mt/2010/05/vol-154.html でも触れましたが、診療報酬の審査支払機関は、医療機関から送られたレセプトを詳細にチェックし、不適切な請求がないかを審査しています。その際、どのような査定をして支払い拒否を行なっているかという実態が、一般の人にはまったく見えてきません。

また、明細書を見て1本10万円の薬代が発生していることが分かっても、医療機関の購入価格が9万8000円以上で、医療機関は保管代金や事務手数料すら回収できない、ということも分らないでしょう。
さらには、一般の商慣習から考えると、薬の販売利益が製薬会社だけに一方的に集まる仕組みを想像できる人なんて皆無だと思います。
結局、領収書にどれだけ詳細な明細書を付けたところで、医療費全体の流れの理解までにはたどり着かないのです。

そうは言っても、せっかく始まった制度です、明細書をチェックする時には、まず医師の技術料に注目してほしいと思います。そのうえで、医療従事者に回る部分と医療周辺産業に回る部分の比率にまで思いを巡らせて明細書を眺めていただければと思います。

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