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Vol. 185 IDATENパブコメ(3)予防接種のコスト効果分析のあり方について・ワクチン運用部門の強化を

医療ガバナンス学会 (2010年5月30日 07:00)


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予防接種のコスト効果分析のあり方について
ワクチン運用部門の強化を

日本感染症教育研究会(IDATEN)
山本舜悟 亀田総合病院総合診療・感染症科
上田晃弘 東海大学医学部総合内科

2010年5月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【予防接種のコスト効果分析のあり方について】

現在任意接種になっている予防接種を定期接種化することにより、社会的な費用を削減することができる。
予防接種の定期接種化によってもたらされる便益を、それにかかる費用で割った比(増分便益費用比)が1以上であれば、定期接種化により社会全体の負担を軽減でき、社会に利益をもたらすという意味になる。社会政策としての予防接種に関する費用を見積もる際には、直接医療費(疾病罹患時や予防接種の副反応の治療に実際にかかる医療費)や予防接種の費用(ワクチン代、技術料、管理費等)に限定するのではなく、間接的な費用も考慮することが重要である。間接的な費用には、家族が疾病に罹患した際に看護のために仕事を休むことによる経済損失や死亡、あるいは重篤な後遺症による社会的な損失が含まれる。

予防接種の増分便益費用比については、諸外国でこれまで多くの研究が積み重ねられている。米国では小児に対するDTaP(ジフテリア、破傷風、百日咳)、DT(ジフテリア、破傷風)、Hib(インフルエンザ桿菌b型)、不活化ポリオ、MMR(麻疹、ムンプス、風疹)、B型肝炎、水痘の7種類のワクチンを小児に定期接種することにより、年間約433億ドルの社会的費用が削減され、増分便益費用比は16.5だったと報告されている(1)。

疾病の頻度や予防接種に関わる費用、疾病に罹患した際の医療費、家族の看護負担による社会的費用は諸外国と異なるため、わが国独自の試算が必要になる。すでにいくつかのワクチンについて定期接種化した場合の試算がなされている。水痘ワクチンを定期接種化した場合の増分便益費用比は4以上(2)、ムンプスワクチンについては、5.2であり(3)、定期接種化によってもたらされる追加的な便益が追加的な費用を上回っていた。Hibワクチンと小児用7価肺炎球菌ワクチンについては、ワクチン導入によりそれぞれ年間82億円、391億円の費用削減効果が推計されている(4, 5)。子宮頚癌を予防するHPV(ヒトパピローマウィルス)ワクチンについては、12歳の単年齢集団に接種した場合、社会的疾病負担が約190億円節減され、10〜45歳の多年齢集団に接種した場合には約430億円が節減されると推定されている(6)。

B型肝炎はわが国では100〜130万人が持続感染していると推定され、中等度蔓延国とされている(Yellow Book2010)。慢性B型肝炎患者の15〜25%は肝臓癌または肝硬変が原因で亡くなると言われるが、予防接種によりB型肝炎の95%は感染を予防することができる。特に、新生児期にB型肝炎に感染すると約90%が慢性化するため、新生児期に予防接種を済ませておくことが重要である。1991年にWHOは全ての小児に対してB型肝炎の予防接種(ユニバーサル・ワクチネーション)を行うことを推奨した。これを導入した国々で、急性B型肝炎患者がおよそ10分の1まで減少した。中等度以上の蔓延国では、新生児に対するB型肝炎のユニバーサル・ワクチネーションの費用対効果が高いと言われている(7)。
以上のように、水痘ワクチン、ムンプスワクチン、Hibワクチン、小児用7価肺炎球菌ワクチン、HPVワクチン、B型肝炎ワクチンを定期接種化することは、国家の政策として経済的にも十分利益のあることと言える。

文責 山本舜悟 亀田総合病院総合診療・感染症科

<参考文献>
1. Arch Pediatr Adolesc Med. 2005;159(12):1136-44.
2. 感染症誌. 2006;80:212-9.
3. 感染症誌. 2007;81:555-61.
4. 日本小児科学会雑誌. 2006;110:1214-21.
5. 小児感染免疫. 2009;21(2):142-8.
6. 産婦人科治療. 2008;97(5):530-42.
7. Vaccine. 2010;28(4):893-900.

【ワクチン運用部門の強化を】

ワクチンの開発は重要であるが、その運用も等しく重要である。具体的には、
1)予防したい対象疾患を決める。
2)どのような人を接種対象者とするかを決める。
3)接種する時期、接種回数などの接種方法を決める。
といったことを決定しなければならない。

これらについて、日本における問題点と改善点について簡単にまとめる。

1)対象疾患について
インフルエンザ菌b型ワクチン(Hibワクチン)は漸く本邦でも入手可能となり、接種が始まっている。Hibワクチンが遅ればせながら、日本で接種できるようになったことはよいことである。しかし、たとえば米国ではすでに1980年代後半から接種が行われ、小児のインフルエンザ菌感染症は激減した。ここには運用の違いが見られる。
日本ではHibは任意接種となっている。定期接種とは異なり、有料である。受ける側にとっては無料のほうが受けやすいだろう。
では、もっと根源的に考えて、定期接種と任意接種の対象疾患の違いはどこにあるのだろうか。定期接種のほうがより重要で、任意接種の疾患はそれほどでもないということだろうか。インフルエンザ菌は重篤な致命的ともなりうる髄膜炎や急性喉頭蓋炎を起こしうる。麻疹のような定期接種の対象疾患との「根源的な」違いはどこにあるのだろう。
予防接種の最終的な目標が、予防接種で予防できる疾患を、予防接種を行うことによって予防すること、であるとするならば、接種の対象疾患間で優劣は付けず、いずれの疾患についてもアクセスしやすくすべきである。すなわち、可能な限り無料にするべきなのである。

2)接種対象者について
今回の新型インフルエンザワクチン接種対象者の優先順位をめぐる混乱は記憶に新しいところである。接種対象者の問題は今回に限ったものではない。たとえば米国では、慢性腎疾患を含む免疫不全者にはインフルエンザワクチンや肺炎球菌ワクチンの接種が推奨されている。翻って本邦では、季節性インフルエンザワクチンについて腎臓疾患を有する患者は「接種要注意者」にもなっている。これはとても理解しにくいことである。どうして、このような齟齬が生じるのだろうか。このように、科学的に整合性を欠いた接種対象が設定されているのが日本の特徴である。接種対象者の選択、接種不適当者、接種要注意者について改めて検討し、改善する必要がある。インフルエンザワクチンのみならず、全てのワクチンについて、継続的に行っていくべきだ。

3)接種方法について
ワクチンの接種方法も検討する必要がある。たとえば麻疹ワクチンは、世界保健機関(WHO)は2回接種を推奨している。しかし、本邦では、2006年からようやく1回接種から2回接種に変更された。日本では2回接種になるまでどうしてこのくらい時間がかかったのだろうか。同様のことは肺炎球菌ワクチンでも言える。肺炎球菌ワクチンは日本では当初再接種が認められなかったが、2009年からようやく再接種が認められるようになった。他のワクチンについても現在行っている接種方法はもっともよい方法なのか、検討する必要がある。

ワクチンにはいろいろな種類があり、2回、3回と接種が必要なワクチンもたくさんある。仮に、4週間隔で2回接種が必要な2種類のワクチンを打とうとした場合、同時に打てば、病院には初回と4週間後の2回いくことで済む。しかし、同時に接種できなければ、初回と4週後、さらにあと2回、計4回病院に行く必要がある。ワクチンを受ける側にしてみれば、できるだけ病院に行かなくて済むほうが便利だろうから、日本全体の接種率も上がるだろう。同時接種については医師が必要と判断した場合は可能とされているが、医師が必要と判断したかしないかで、同時接種によって問題が起こるか起こらないかが決まるわけではない。このような消極的でアリバイ作り的な文章は、エクスキュースととられても仕方がない。より予防接種を受ける側にとって受けやすい、有利な接種方法をとる必要がある。

予防接種の目標は、予防接種で予防できる疾患を、予防接種を行うことによって予防すること、であると述べた。この目標を達成するためには、継続的に現状を正確に評価し、改善する必要がある。私たちが利用できるワクチンをより有効に運用し目標を達成するために、包括的に継続してワクチンの運用を評価し、改善していくことができるような運用部門が必要と考える。

文責 東海大学医学部総合内科 上田晃弘

<参考文献>
1. 木村三生夫、他:予防接種の手びき 第9版、近代出版、2003
2. 神戸新聞「新型インフル、ワクチン運用を柔軟に 神戸市医師会」http://www.kobe-np.co.jp/news/kurashi/0002827438.shtm. アクセス日 2010年5月8日
3. インフルエンザ予防接種ガイドライン http://www.mhlw.go.jp/topics/bcg/tp1107-1e.html アクセス日 2010年5月8日
4. General Recommendations on Immunization Recommendations of the Advisory Committee on Immunization Practices (ACIP) http://www.cdc.gov/mmwr/preview/mmwrhtml/rr5515a1.html アクセス日 2010年5月9日
5. WHO position paper on measles http://www.who.int/wer/2009/wer8435.pdf アクセス日2010日5月9日

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