医療ガバナンス学会 (2020年9月11日 06:00)
この原稿はAERA dot.(2020年7月29日配信)からの転載です
https://dot.asahi.com/dot/2020072800016.html?page=1
山本佳奈
2020年9月11日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
【図】関東の梅雨明けはいつ?
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例えば、7月上旬の東日本の日本海側では、なんと平年の25%の日照時間でした。これは、1961年の統計開始以来最短の日照時間なのだとか。また、東京都心では7月18日まで19日連続で雨が降り続き、1985年の15日間連続の雨が降った記録を更新。長雨による雨量の増加も、各地で確認されています。
私たちの家計にも悪影響が出始めています。東京都中央卸売市場のまとめによると、7月10日から16日までの野菜の卸売価格が、人参は前年同期比の3.45倍、ネギが2.4倍、レタスが1.38倍と、前年に比べて上昇を認めています。農林水産省によると、「天候が改善しなければ、価格の高騰が深刻化しかねない状態」なようです。
雨の日やどんよりとした曇り空の日が続くと、身体にも不調をきたします。梅雨で雨や曇りの日が続くこの時期は、「気圧のせいか、頭痛が辛いです……」といって外来を受診される方が増えます。「天気が崩れる日は、体調が悪い気がする」と自覚されている方も多いのではないでしょうか。
このように、天候や気温、湿度や気圧といった気候条件の変化や気候の急激な変化によって、不調をきたしたり、症状が出現したり悪化したりする症候を「気象病」といいます。
私も雨の日が続くこの時期は、頭重感や頭痛、肩や首の痛みを頻繁に自覚します。7月中旬から気分が落ち込む日が増え、気力がどんどん低下していきました。特に、今年の梅雨時期は暑い日もあれば肌寒く感じる日もあり、身体が気温の変化についていけなかったようで、こうした症状に加えて、朝起きるのが辛く、いくら寝ても寝足りない日もありました。
「気象病」は、頭痛や関節痛といった痛みや、持病の悪化の他、めまいや肩こり、イライラや倦怠感といった不定愁訴を引き起こします。気候の変化の中でも、特に気圧の変化が引き金になると言われていますが、発症するメカニズムは解明されていません。メカニズムについては諸説ありますが、今回は二つご紹介したいと思います。
一つ目は、気圧の低下です。
暖かい空気と冷たい空気の境目である前線や低気圧が接近することによる気圧の低下や、気圧が低い状態が長く続くことにより、ヒスタミンと呼ばれる物質が体内で盛んに生成されます。ヒスタミンは血管の透過性を上昇させて全身の様々な部位にむくみを引き起こしたり、血管を拡張させたり、炎症反応を引き起こす作用を持っています。そのため、生成されたヒスタミンによる脳のむくみや、血管の拡張による血管周辺の神経の刺激によって、頭痛が引き起こされてしまうのです。
この頭痛を「偏頭痛」ともいいます。ストレスや過労、特定の食べ物や薬の他、天候や大気汚染が偏頭痛の前兆因子として報告されています。
例えば、ハーバード大学公衆衛生学部のWenyuan氏らは、片頭痛を有する成人98人を対象に、平均 45 日間の追跡、合計 4406 日間の観察を行った結果、暖かい季節(4~9月)は相対湿度が高いほど片頭痛の発生確率が高く、寒冷期(10月~3月)は、交通関連のガスの汚染物質(オゾン量および一酸化炭素量)片頭痛の発症確率を高めている可能性があると報告しています。
また、ボストン・チルドレンズ病院のPatricia氏が77人の偏頭痛の患者を対象にして質問を行ったところ、39人(50.6%)が天候に敏感であり、48人(62.3%)が自分は天候に敏感であると考えていたことがわかり、さらに26人(33.7%)は絶対温度と湿度に、11人(14.3%)は変化する気象パターンに、10人(12.9%)は気圧に敏感であったといいます。
メカニズムの二つ目は、気候条件の変化や気候の急激な変化による自律神経の乱れです。
興奮したり緊張したりするときに働く交感神経と、リラックスした状態ではたらく副交感神経の2種類の自律神経は、内臓や血管などの器官に対して互いに相反する働きを持っています。気候条件の変化や気候の急激な変化によって、自律神経のバランスが崩れてしまい、結果として頭痛や関節痛などの痛みの他、イライラなどを引き起こすと考えられています。
気候条件の変化や気候の急激な変化は、自分ではどうしようもありません。けれども、どんな天気のときにどんな症状が出るのかを把握し、天気予報を見ながら対策をとることはできそうです。私も、自分自身の体調の変化と気候の関係の把握から、早速始めてみようと思います。