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Vol.186 感染症法による新型コロナ過剰規制を政令改正して緩和すべき

医療ガバナンス学会 (2020年9月16日 06:00)


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この原稿は月刊集中9月末日発売号(10月号)に掲載予定です

井上法律事務所所長 弁護士
井上清成

2020年9月16日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1.感染症法と政令による過度な私権制限

新型コロナウィルス感染症は、現在、指定感染症として、2類感染症並びを原則としつつも、一部分、1類感染症並びにも位置付けられている。1類感染症に並んでいるということは、少なくともその部分については、例えばエボラ出血熱にも匹敵すると評されていることにもなろう。ただ、本年1月28日に「新型コロナウィルス感染症を指定感染症として定める等の政令」が制定された当時とは異なり、それほどまでの程度ではなかった新型コロナの実態が分かってきた。

そこで先ずは、明らかに過剰だと思われる1類感染症並び部分だけは、速やかに緩和すべきであろう。過剰な規制は、過度な私権制限に結び付きがちだからである。
2.医師の届出義務を緩和すべき

もともと感染症法第12条第1項には、新型コロナ以前から、医師の届出義務が(同法第77条第1号による50万円以下の罰金という)刑罰付きで定められていた。現在、新型コロナについて定めた前掲の政令に基づいて読み替えると、「医師は、新型コロナウィルス感染症の患者を診断したときは、直ちにその者の氏名、年齢、性別その他厚生労働省令で定める事項を最寄りの保健所長を経由して都道府県知事に届け出なければならない。」となる。

この条文だけを読む限りは、疑似症患者(感染症の疑似症を呈している者。同法第6条第10項)については届出義務がないように見えよう。しかしながら、前掲の政令は、「1類感染症の疑似症患者」についても「1類感染症の患者」とみなす旨の感染症法第8条第1項の規定を準用している。そこで、現在は、「疑似症患者」についても届出義務が負わされてしまっているのであった。

しかし、新型コロナの疑似症患者についてまで刑罰付きの届出義務を負わせるのは、医師への過度な規制と言えよう。したがって、前掲政令の第3条から、「法第8条第1項」を準用した部分は改正して削除すべきである。
3.無症状病原体保有者の扱いも緩和すべき

「疑似症患者」と並んで、「無症状病原体保有者」の扱いも問題とすべきであろう。

前掲の政令の第3条を改正して「無症状病原体保有者」について定めた「法第8条第3項」を準用した部分をも削除し、やはり「2類感染症」並びとして扱えば、同法第8条第3項のみなし規定が外れるので、もう「患者」とはみなされない。その結果、「疑似症患者」のみならず「無症状病原体保有者」も、前掲の医師の届出義務(同法第12条第1項)から外れる。

さらに、入院(同法第19条、第20条)や退院(同法第22条)についても、同様に問題とすべきであろう。「2類感染症」並びとなれば、「無症状病原体保有者」(いわゆる無症状者)は入院の対象から外れ、他方、症状の消失した者は必ずしも病原体が消失していなくても退院できることとなる。前掲の政令を改正して、「法第19条・第20条・第22条」を準用した部分を改正して削除し、その代わりに「法第26条」の「2類感染症」について定めた部分を準用することとしたらよいであろう。(なお、「無症状病原体保有者」については、本稿のように「2類感染症」に並べた方がよいのか、もう少し強めに「1類」に寄せて「新型インフルエンザ等感染症」に並べた方がよいのか、議論を詰める必要はあるかも知れない。)
4.本人等の希望によるPCR検査等の尊重

この8月28日付けの「新型コロナウィルス感染症に関する今後の取組」(新型コロナウィルス感染症対策本部決定)においては、やっと「本人等の希望」によるPCR検査等に対して前向きな声明が出された。「市区町村において本人の希望により検査を行う場合に国が支援する仕組みを設ける。」とか「社会経済活動の中で本人等の希望により全額自己負担で実施する検査ニーズに対応できる環境を整備する。」といったものである。これらの点は、先進各国に比べて我が国が劣っていたところであったし、国民の不満も大きかったところでもあった。今後の前向きな取組に期待したいところである。

そのためにも、今後は、クラスター対策をはじめとした積極的疫学調査が偏重され過ぎて、本人等の希望によるPCR検査等が阻害されないよう留意されねばならない。積極的疫学調査を定めた同法第15条を準用する前掲の政令を改正して、本人等の希望によるPCR検査等を尊重する文言を挿入すべきであろう。

例えば、前掲の政令の第3条のうちに追加して、「都道府県知事は、必要があると認めるときは、第1項の規定(筆者注・積極的疫学調査を定めた規定)による必要な調査として当該職員に次の各号に掲げる者に対し当該各号に定める検体若しくは感染症の病原体を提出し、若しくは当該職員による当該検体の採取に応じるべきことを求めさせ・・・ることができる。」と定める「法第15条第3項」を準用しつつ、その冒頭部分に「都道府県知事は、本人等の希望により実施するPCR検査等の必要に対応する環境の整備を阻害しない限りにおいて、必要があると認めるときは・・・」という趣旨の文言を追加して挿入する政令改正をしてもよい。
5.未加工の情報をもっと多く公開すべき
同法第16条は、情報の公表に関する定めを設けて、不当な差別・偏見が生じないように、かつ、患者等の人権を尊重するようにさせている。ただ、その公表する情報は往々にして「分析」を加えた後の情報に留まることもあるため、民間の医療者や研究者の「研究」に足りないこともあるらしい。

そこで、新型コロナに関しては、公表する情報の範囲を拡大して、分析されていない未加工の情報もさらに多く公開するように努めるべきである。例えば、前掲の政令の第3条のうちに、「法第16条第1項」を準用しつつ、「・・・収集した感染症に関する情報について分析を行い、・・・当該感染症の予防及び治療に必要な情報を・・・積極的に公表しなければならない。」とあるのを、「・・・収集した感染症に関する情報について、・・・当該感染症の予防及び治療並びに研究に必要な情報を・・・積極的に公表しなければならない。」というように、微妙に削除や追加をするとよいであろう。

〈今までの感染症関連の論稿〉

Vol.165「PCR検査は感染症法ではなく新型インフル特措法の活用によって拡充すべき」
(2020年8月12日)

Vol.147「新型インフル対策特措法を新型コロナに適するように法律改正すべき」
(2020年7月16日)

Vol.131「新型コロナで院内感染しても必ずしも休診・公表しなくてもよいのではないか?」
(2020年6月23日)

Vol.127「新型コロナ流行の再襲来に備えて~新型コロナ患者は「状況に応じて入院」になった」
(2020年6月17日)

Vol.095「新型コロナ感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を各地に仮設してはどうか」
(2020年5月8日)

Vol.080「善きサマリア人の法~医師達の応招義務なき救命救急行為」
(2020年4月23日)

Vol.070「医療崩壊防止対策として法律を超えた支援金を拠出すべき」
(2020年4月9日)

Vol.054「歴史的緊急事態の下での規制を正当化するものは助成措置である」
(2020年3月18日)

Vol.031「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」
(2020年2月18日)

Vol.023「救急病院はインフル患者の診療拒否をしてもよいのではないか?」
(2019年2月5日)

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