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Vol.187 新型コロナ対策特措法を新型コロナ専用に新たに制定すべき

医療ガバナンス学会 (2020年9月23日 06:00)


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井上法律事務所所長 弁護士
井上清成

2020年9月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

1 新型インフル特措法のままでは新型コロナ対策に不整合

今までは、新型インフル対策特措法(正式名称は「新型インフルエンザ等対策特別措置法」という。)の「附則」の第1条の2に「新型コロナウィルス感染症に関する特例」を設けて、新型コロナを新型インフルとみなして、新型インフルの規定を新型コロナの対策にも適用してきた。しかしながら、新型コロナと新型インフルとでは医学的・医療的にも社会的・経済的にも大いに異なっていたことが、徐々に明らかになって来ている。
現在、新型インフル対策特措法の「改正」という形で議論が進んでいるが、その2つの大きな違いに着目すれば、そもそも「新型インフル」の法律のままでは、たとえ改正したとしてもその不整合は補正しにくいであろう。むしろ「新型コロナ対策特措法」(正式名称は「新型コロナウィルス感染症等対策特別措置法」となろう。)を新たに立法するのが筋道のように思う。

2 緊急事態宣言はいわば「抜けない伝家の宝刀」
今回の新型コロナが全世界に共通して特徴的なのは、その甚大な社会的・経済的ダメージである。たとえ1類感染症でも他の2類感染症でも、これほど全世界的に蔓延して甚大な社会的・経済的な損害を与えたものはないであろう。
我が国でも他国のロックダウンには及ばないものの、同種の「緊急事態宣言」を発して、新型コロナの感染拡大に対処しようとした。2020年4月7日に当初の緊急事態宣言がなされたが、5月25日には早々と全国で解除され、約1ヶ月半程度で「緊急事態宣言」は終了している。その後は、容易なことでは再度の「緊急事態宣言」を発することができそうな雰囲気ではない。
他国のロックダウンほど強力なものではなかったものの、その威力たるや実に大変なものであり、社会心理も含め、社会的・経済的に甚大な影響をもたらしてしまった。つまり、最初に思っていた以上に「宣言」の効果が大き過ぎたのである。そのため、緊急事態宣言は、いわば抜けない「伝家の宝刀」となってしまった。

3 新型インフル対策特措法の構造的不適合

新型インフル対策特措法は、当然のことながら、もともと新型インフルエンザを典型的に想定して立法された法律である。緊急事態宣言を長々と発令し続けることを想定もしていなければ、1つの感染症の流行に対して何度も何度も宣言を発令し直すことも想定されていなかった。つまり、緊急事態宣言とそれに伴う強い諸措置を、短期間に集中的に行い、一挙におおむねの感染拡大を制圧してしまおうという対処スタイルが念頭にあったように思う。
しかしながら、今回の新型コロナは、それこそダラダラと長い間、日常生活に溶け込ませて生活や仕事を続けることを強いる性質のものであった。たとえば、クラスター対策と少数精鋭のPCR検査等で短期的かつ有効適切に対処するだけでは足りず、誰でもいつでも何度でもダラダラと長期にわたって大量にPCR検査等をできる方が望ましいような性質とでも言えよう。
そのため、そもそも「緊急事態宣言」を中核に据えた「新型インフル対策特措法」では、その法律構造が新型コロナの性質と適合していない。

4 「緊急事態宣言」から「発生時における措置」に

新型インフル対策特措法は、大きく「第1章総則」「第2章新型インフルエンザ等対策の実施に関する計画等」「第3章新型インフルエンザ等の発生時における措置」「第4章新型インフルエンザ等緊急事態措置」「第5章財政上の措置等」などという章立てで構成されている。
その法律構造を新型コロナに適合させるには、第4章の「緊急事態措置」に定めた諸措置の多くを、第3章の「発生時における措置」に移転させて、対処システムを全面的に転換させなければならない。
たとえば、同法第45条に定める「感染を防止するための協力要請等」(外出制限・休業などの要請・指示・公表)、同法第46条に定める「住民に対する予防接種」、第3節に定める「医療等の提供体制の確保に関する措置」(たとえば、医療等の確保、臨時の医療施設の開設)などは、「緊急事態宣言」が発せられている間にしか効力を発揮できないのである。1ヶ月半程度の短い期間では、何としても足りないであろうし、やはりそもそも不適合でもあろう。
そこで、これらは同法第14条に定めた「新型インフルエンザ等が発生したと認めた旨を公表するとき」には、早速にも措置を開始できるようにすべきである。そして、同法第21条に定めた「政府対策本部の廃止」の時まで、必要ならばそれらの措置を継続できるようにしておくとよい。つまり、多くの「緊急事態措置」(第4章)を「発生時における措置」(第3章)に移すことが適切だと思う。

〈今までの感染症関連の論稿〉

Vol.186「感染症法による新型コロナ過剰規制を政令改正して緩和すべき」
(2020年9月16日)

Vol.165「PCR検査は感染症法ではなく新型インフル特措法の活用によって拡充すべき」
(2020年8月12日)

Vol.147「新型インフル対策特措法を新型コロナに適するように法律改正すべき」
(2020年7月16日)

Vol.131「新型コロナで院内感染しても必ずしも休診・公表しなくてもよいのではないか?」
(2020年6月23日)

Vol.127「新型コロナ流行の再襲来に備えて~新型コロナ患者は「状況に応じて入院」になった」
(2020年6月17日)

Vol.095「新型コロナ感染判別用にショートステイ型の「使い捨てベッド」を各地に仮設してはどうか」
(2020年5月8日)

Vol.080「善きサマリア人の法~医師達の応招義務なき救命救急行為」
(2020年4月23日)

Vol.070「医療崩壊防止対策として法律を超えた支援金を拠出すべき」
(2020年4月9日)

Vol.054「歴史的緊急事態の下での規制を正当化するものは助成措置である」
(2020年3月18日)

Vol.031「新型コロナウイルス感染症が不安の患者に対して応招義務はない」
(2020年2月18日)

Vol.023「救急病院はインフル患者の診療拒否をしてもよいのではないか?」
(2019年2月5日)

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