医療ガバナンス学会 (2020年9月25日 06:00)
わだ内科クリニック
和田眞紀夫
2020年9月25日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行 http://medg.jp
前回のMRIC記事( Vol.180 COCOAで接触通知を受けた者に対する行政検査を行う前にやるべきことがある:http://medg.jp/mt/?p=9837 )でもご紹介したように、管轄の保健所から「新型コロナウイルス接触確認アプリ(COCOA)で通知を受けた者に対する行政検査等の実施について(協力依頼)」があって、当院でもココア接触通知者の唾液PCR検査を続けているが、現在までのところコロナ陽性者は一人もでていない。
当院では7月10日に唾液のPCR検査を開始して以来、何らかの症状があって検査を行った方の数は150人で、このうち13人(8.7%)の方がコロナ陽性であった。これに対してCOCOAで接触通知を受けて保健所の依頼で検査を行った28人では1人の陽性者も出ていない。
先週、機会があって近隣の保健所長に直接お話を伺ったところ、現在ココア接触通知者の検査データを各区の保健所から東京都に送って統計を出しているところだが、今のところ陽性率は0.2%でココアではほとんど感染者を見つけ出せていないとのことだ。その中でも比較的陽性者が多かったのは新宿区と板橋区の2区だそうだが、それでも板橋区でのCOCOA陽性者は5人だけとのこと。
そもそもCOCOAでは表示の不具合が相次いでいて厚労省の窓口にはこれまで数千件の問い合わせが寄せられているらしい。接触通知があってアプリを開いてみても「陽性者との接触は確認されませんでした」という表示がでてしまう。当院で検査をした方の中にも接触日が確認できなかったという方が少なからず含まれていた。
このような状況でココア通知者の検査を継続していくことは大いに問題があると思われるが、いまのところ行政からはまだ何の通達もなく今日もCOCOA通知者の検査を継続して行っている状況だ。
2.世界のコロナ感染者は増え続けていて、日本も例外ではない
世界保健機関(WHO)は新型コロナウイルスの全世界1日当たりの新規感染者数が過去最多の30万7930人を記録したと発表した(9月13日)。インドで約9万人、アメリカ・ブラジルでは4万人と依然として多く、いったん沈静化していた欧州でもイタリア、フランスで1万人、イギリスでも4千人と増加傾向にある。感染者数の規模こそ違え、アジア、日本での感染者数もまっすぐ収束に向かってはいないことは明らかだ。
とはいえ経済活動を再開させるためには、守るべき重要なポイントは抑えつつ普通の生活に戻る必要がある。このウイルス感染の拡大傾向には特徴があって、東京などの大都市圏で感染が蔓延していても地方都市や、東京であっても都下などでは感染がそれほど広がっていなかい状況がある。感染状況に合わせて臨機応変に対策も変えていかなければならないことを考慮すると、どの地域でどれぐらい感染が広がっているのかをリアルタイムにモニターしていくことはとても重要だ。
COCOAはそのための有力な手段になると期待はされたが、現時点では有効に機能していない。そもそも厚労省の考えでは、あくまで濃厚接触者の概念を拡大解釈して、クラスター対策の延長としての位置づけでしかなかった。本来行わなければならないのは、サンプリング検査としてのモニターリングである。
感染症法で規定する感染症は、全数把握と、それとは別に定点把握を義務付けているものの2つに大別される。季節性インフルエンザが後者の代表で、インフルエンザの発生状況は、感染症法(第14条)に基づいて全国約5,000カ所のインフルエンザ定点医療機関(小児科定点約3,000、内科定点約2,000)から毎週患者数を報告することが義務付けられている。
新型コロナウイルスは本来全数把握が義務付けられているにもかかわらず、感染が拡大しすぎて全数把握することが放棄されている(無症状や軽症例の確定診断を行わないというのは全数把握とは程遠く、厳密には法令違反とさえ思われる)。であればインフルエンザのようにせめて定点把握を行う努力をすべきであるが、現状ではそのどちらも行なわれていない、すなわちサンプリング検査なしの状態に置かれている。それでは正確な感染状況が把握できないのは当たり前だ。
PCR検査の特質から考えて、コロナに対しては季節性インフルエンザのような定点把握が難しいと思われてきたが、唾液のPCR検査が稼働し始めた現在、インフルエンザ定点に合わせて報告義務を課してもよいのではなかろうか。
きたるべき季節性インフルエンザの流行期を目前に控えて、インフルエンザの検査をどうするのかさえ議論もされていないようで(昨シーズンは防護服PPEの着用のない鼻咽頭検査は行えなかった)、コロナ対策で疲弊して思考停止しているのだろうか。国はこの秋・冬に向けての具体的な対策を早急に立てる必要がある。