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Vol.196 厚労省行政改革の肝は「感染症ムラ」の解体だ

医療ガバナンス学会 (2020年10月6日 06:00)


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伊沢二郎

2020年10月6日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

ある時は「増やさない」、又ある時は「増やせない」、と新型コロナ分科会は、日本のPCR検査数が世界の趨せいに比べ桁違いに少ない理由を説明してきた。
記憶している限り初めは、検査を増やすと「医療機関に混乱をきたす」からとしたが現実は、感染を恐れて病院の経営問題が出る程に患者の足は病院から遠退いた。「何故、何時まで経ってもPCR検査が増えない」と世論が沸き上がると今度は、「各所で目詰まりを起こして増やせない」、とも言った。ならば民間活用すべし、の声が上がると今度は、「検査資材が不足しているから」と増やせない理由を述べた。国民の健康を左右する極めて大事な検査の拡充が遅々として進まない理由の説明が、こんなにあやふやで、辻褄合わせのような言い訳で済むと思っていたのか、国民は納得しているとでも思っていたのか。公の機関が発信する国民への説明にしては余りにお粗末過ぎたのではないか。

因みにこれらは、こちらが記憶する限りの事であり誤解があってはまずいが、こう云う時の為にも議事録はちゃんと作成しておく必要があるが、そのようになっているのやら。
分科会が言う、PCR検査が少なく止まっている理由説明の変遷を見ると、本当は拡充したいのだが出来ない、とも受け取れるが本当にその気が有るのなら何故自ら、手に負えないからと進言し、他省庁からの応援を受けるべく対策しないのだ。省庁横断してやれば難なく解決するだろうに、こと国民の生命が係っていることだ、厚労省医系技官・感染研・分科会、あなた方の面子などどうでも良い。何よりも優先し、本気で国民の健康を守る気があるのか、疑わしい。

現に、9/22「時事ドットコムニュース」の上先生の記事によれば7/16の政府新型コロナ分科会で尾身茂会長は、無症状者への公費での検査はしない、ことを取りまとめ政府に提言した、あくまでも検査を拡充したく無いようだ。しかし、それで済むなら良いが最近の東京の感染状況は新規感染者の内約半数が経路不明の感染者だ。200名の新規感染者がいれば感染経路不明は100名となり、この方達周辺に概ね100名の無症状陽性者が居たことになる。
この人達が自然治癒するまで日々次々と他に感染させることになる、この感染の連鎖をどのようにして止めると言うのだ。一方、厳重な入国管理の下に制限を緩和する報道があった、入国者全員に対してPCR検査を行う事になるのだろうが、片や我々の周辺に居る無症状陽性者は其のままだ。

一見しては健常者に見える無症状陽性者、この人達によって感染拡大することがこの病気最大の特徴であると云うのに、コロナ問題勃発以来、厚労省・分科会・感染研は今日に至る迄この人達の発見について何もして来なかった。
7/16分科会提言、「無症状者への公費での検査はやらない」は、心配な人は自分で勝手に検査したら良いと云うことか。それだけなら未だしも、健常者のすぐ側に居る無症状陽性者、言わば自覚無きウィルスキャリアは見過ごされる事になる、これが相変わらず収束の先行きが見えない事態を招いている。

発症1~3日前が最も強い感染力を示す、とのアメリカの研究報告があって以降は、無症状でも濃厚接触者には行政検査がされるようになったが其までは、症状が無いから感染症法上は検査対象外であった。この方達と、経路不明感染者が概ね半数と云う市中感染環境下で暮らす、一般市民のリスクがどれ程の差があると言うのだ。
同じ法律で在りながら対応を異にするなら、明確な根拠に基ずいた説明をすべきだ。明確な根拠になり得るのは今のところ、桁違いのPCR検査数だけが示し得る感染実態しかないと思うが、今程度の検査数で国民が納得する説明が出来ると言うのか。感染症ムラでは、整合性が取れた法の適用との判断であっても、国民が納得するには程遠い。

縦しんば、無症状の濃厚接触者と概ね半数の経路不明の新規感染者を生む環境下で暮らすリスクに、幾許かの差があったとしても、其がなんだ、其がどうした。こと命に係わることだ、そのようなことで法律の適用を異にする根拠になり得ると言うのか。
国民の健康を守る機関であるなら法の適用云々より、感染のリスクを如何に小さくすることが第一で在って然るべきだ。

公の足らざるを補うかのように、2,000円という手軽な料金で「いつでも」・「何処でも」・「誰でも」・「何回でも」、と謳うソフトバンクのコロナ検査対策は、コロナの検査で在ると同時に経済対策とも云える。今、公がやるべきは、この社会的検査ではないのか。行政検査に拘泥する余り、民間に先を越された格好だが、それまでして行政検査に拘る理由はなんだ。行政検査と云う検査手段の独占を続けたいからか、其により、日本の感染症機関たる存在意義を確かにしたいからか。何の為にだ、既得権益か、予算確保の為か、天下り先の確保か。
国民の健康を第一に考える機関では無かったのか、その弊害は一重に我々が被る事になる。インフルエンザと重なる時期を向かえると云うのに、国民向けの発信は相変わらず「3密回避」や「7項目の注意事項」の行動概念ばかりだ。「そんな事、とっくにやってるわい」

古くからの政治テーマだが、政権が代わり省庁の縦割り解消が叫ばれている。京都大学:山中伸弥教授は曾て、安倍総理との対談で大学や研究機関を総動員すれば、一日30万件のPCR検査も可能になる意味合いを示唆した。この前後には複数の大学病院からも検査に協力する準備がある旨の意思表明が有り、これで漸くPCR検査の問題は解決すると思った。しかし安倍総理からは何ら動きは無く、反応すら無かった。コロナ禍、感染したらどうしようと全国民が不安に思う最中、即実現可能な良い事と嬉しく思ったものだが、何処かの誰かが反対しこの提案を潰したのだろう。その後のメディア報道を視聴する限り、政治家サイドの反対では無さそうだ。

省庁間の縦割り解消・既得権益打破・前例主義廃止は、当然のことで在るが、こと厚労省の行政改革、肝の一つは「感染症ムラ」の改革あるいは解体だ。このコロナ禍相変わらず、遅々として進まない感染抑制策に終止するのか、国民が更に大きな健康上の問題を被る事になるのか、はこれに掛かる。
行政検査と云う手段の独占と国民の公衆衛生を人質に捕る形で政治の介入に抗う、言わばこの独裁にメスが入らずして改革はなし得ない。

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