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Vol. 191 IDATENパブコメ(5)

医療ガバナンス学会 (2010年6月3日 14:00)


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諸外国の現状。日本に導入できること
ワクチン筋注が行われていない現状の改善を

日本感染症教育研究会(IDATEN)
笠原 敬 奈良県立医科大学附属病院感染症センター
岸田直樹 手稲渓仁会病院 総合内科・感染症科

2010年6月3日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp


【諸外国の現状。日本に導入できること】

1)ワクチン接種システム

・日本版ACIPを導入する
米国におけるACIP(Advisory Committee on Immunization Practices)の果たす役割は非常に重要であるが(詳細は本パブリックコメントの岩田氏の項を参照)、米国以外の諸外国にも同様の組織がある。ただし、ドイツやスペイン、スウェーデンなどではそういった組織の推奨は必ずしも「絶対的」ではなく、各地域、あるいは実際にワクチンを接種する医療従事者の裁量に委ねられる部分も大きいようである。いずれにせよ、「多様性、継続性、迅速性、透明性、独立性」をもった組織が「ワクチン戦略のビジョンを示す」ことが肝要である。
最近わが国でもACIPのことがしばしば取り上げられるようになったが、それをサポートする組織作りはもっと重要である。せっかく推奨を作っても、その推奨が取り入れられる仕組みがなければ意味を持たない。作成された推奨を支えることのできる予算、ワクチン入手経路、ワクチン接種制度なども含めた全体図を描き、その中で日本版ACIPの位置づけを考えていくことが重要である。

・被害者の救済制度の整備
ワクチンによる副作用に対する救済制度も様々な国で採用されている。一般に諸外国のほうがこういった認定制度も日本より手厚いものというイメージがあるが、その認定率をみるとアメリカで25.9%(5365件中1390件)、ドイツで24.9%(4569件中1139件)となっており、これに比べて日本の認定率が91.2%と極めて高い(2982件中2720件)ことが分かる。救済制度については認定の方針・過程についても公平性・透明性が検討されるべきではないだろうか。なお、アメリカでは救済制度の資金確保のためにワクチン購入費の一部が救済制度資金に充てられている。

・国産・外資系ワクチンメーカーの日本国内における積極的な活動展開の基盤作りを行う
外資系ワクチンメーカーの日本国内参入は訴訟のリスクや硬直化したワクチン政策のために極めて遅れており、数社の国産メーカーが限られた国内市場を対象に活動している状況である。こういったことからHibワクチンや7価肺炎球菌ワクチンなどの有効なエビデンスが証明された新しいワクチンの国内導入が大幅に遅れるという状況が生じた。また調達可能なワクチンの量も限られており、しばしばワクチン供給の遅延が生じる。こういった状況に対し、英国や米国で行われているように、国内外企業に関わらず生産基盤に対する公的支援体制の確立、訴訟リスクの回避などを産官学のネットワークを通じて行う必要がある。

・導入すべきワクチンの選択 ―日本版ACIPが必用―
Hibワクチンや7価肺炎球菌ワクチン、HPVワクチンの導入などでわが国で「使用できる」ワクチンの種類は他国と比べても遜色のない状況になってきている。しかしこれらのワクチンを「どう運用するか」を考える上で、やはり日本版ACIPのような組織が必要である。

・日本からのエビデンス創出のための支援
本項に示すように、「今まで日本で行われていなかったこと」は数多くある。ACIPの役割の一つに「医学的に未解決の問題を抽出し、それに対して必要な研究の方向性を示唆すること」があるが、ワクチンの同時接種や筋肉内注射などをすすめるうえで、接種後のサーベイランスやモニタリングといった活動が今以上に重要になる。またこのような活動に対する十分な公的補助も必要である。

・有効な情報公開・情報共有を行う
CDCの”Vaccines & Immunizations”のホームページをみると、各ワクチンの医学的必要性はもちろん、各種会議の内容(一部はビデオ)やQ&A、教育的コンテンツ、接種者用のワクチン記録書式などが整然と配置されている。また問い合わせ用の電話番号も明記されている。翻って日本のワクチンホームページは、まず厚労省と感染症情報センターの2種類があり、どちらをみていいのか分からない。掲載された情報も閲覧者の利便性を考えたものではなく、厚労省からの通達を時系列に並べたもので、その内容は役所的で分かりやすいとはいえない。問い合わせ先も記載されていない。

2)実際のワクチン投与

・同時接種に関するデータの必要性
米国では複数のワクチンの同時投与が常識的に行われている。この安全性、有効性については1990年代初頭までの研究がその根拠となっており、実際に色々なワクチンを組み合わせて同時接種した場合、特に最近の新しいワクチンについては同時接種による影響は詳しく調べられていない。日本では同時接種に対する国民の心理的抵抗感も高い可能性があり、これについてもやはりわが国でのデータを蓄積していく必要がある。また、医療アクセスのよいわが国では、国民の理解が得られるのであれば同時接種と従来通りの接種方法を受診者が選択できるようにするのも可能ではないかと考える。

・筋肉内投与についてのエビデンス作りが必用
諸外国ではほとんどのワクチンは筋肉内投与が行われている。これについては副作用の軽減や有効性の向上などのいくつかのデータがあり、それにもとづいて行われている現状である。
翻って日本ではほとんどのワクチンが皮下接種で行われており、これについても確固たる安全性・危険性についてのわが国のエビデンスは存在しない。
繰り返しになるが、わが国のワクチン行政の弱点の一つは「エビデンスの欠如」にあり、その有効性・安全性の検証は科学的に行われるべきであり、その方法あるいは結果の解釈はACIPのような専門家組織が率先して行い、そこで抽出された問題に対しては公的補助のもと、産官学が連携した効率的・効果的な国内でのエビデンス作りが必要であると考える。

文責 奈良県立医科大学附属病院感染症センター 笠原 敬

<参考文献>
1. Plotkin, Orenstein, Offit (ed.). Vaccines 5th edition. Saunders, Elsevier, 2005.
2. Evans G. Vaccine injury compensation programs worldwide. Vaccine 1999;17 Suppl 3:S25-35.
3. King GE, Hadler SC. Simultaneous administration of childhood vaccines: an important public health policy that is safe and efficacious. Pediatr Infect Dis J 1994;13:394-407.

【ワクチン筋注が行われていない現状の改善を】

ワクチンに関連した事柄で日本が欧米諸国と大きく違う点として、投与方法の違いがある。欧米に限らず日本以外の多くの国では、ワクチンは筋肉内注射(以下、筋注)で投与されているが、日本では多くは皮下注射(以下、皮下注)、もしくは皮下注または筋注となっている。日本で筋注が避けられるに至った時代背景にも十分配慮する必要はある。しかし、それに固執しすぎることで、ワクチン投与に伴うメリットが軽減され、さらには弊害まで生まれているようであれば問題であろう。ワクチン投与法における日本および世界の現状と、日本以外の国々で筋注による投与が行われている理由を確認したい。また、日本国内でワクチンの筋注が避けられてきた背景についても確認する。

現状
現在、厚生労働省より提示されている予防接種ガイドライン(1)では、経口摂取されるポリオワクチンや、経皮投与されるBCG以外のほぼすべてのワクチン接種法が上腕三頭筋部位での皮下注射としている。日本以外の推奨として、例えばCDC (Center for Disease Control and Prevention)では(2)、麻疹、水痘、風疹、流行性耳下腺炎、日本脳炎、肺炎球菌は皮下注を、A型肝炎、B型肝炎、インフルエンザウイルス、DPT、DTでは筋注を推奨している。

日本以外の国で、筋注によるワクチン投与が行われている理由(筋注によるメリットとは)
ワクチン投与にとって重要なこととして、大きく次の2つがあげられる。(1)抗体産生が良好であること。(2)副反応が少ないこと。

特に、抗原物質の作用を強めるために含有されているアルミニウム塩などのアジュバンドを含むワクチンでは、刺激性が強いため、局所の刺激・炎症・結節の形成や壊死の危険があるとされている。その軽減を目的として、CDCや諸外国のガイドラインでは筋注によるワクチン投与を推奨している。上記CDC推奨の筋注ワクチンにはアジュバンドとしてアルミニウム塩が含まれている。また、皮下注と筋注とを比較した過去の文献では、その多くは皮下注によるワクチン投与群の方が副反応の点で優位に多かったと報告されている。パンデミック2009インフルエンザの輸入ワクチンにおいても、皮下注と筋注の比較では前者の方に局所の副作用が多かった。また、抗体産生の点でも、ワクチンの種類にはよるものの、筋注の方が良好であるものが多い。例えば、インフルエンザワクチンに関する皮下注と筋注による抗体産生と副反応を比較した文献では(3)、腫脹や圧痛などの局所の副反応は、皮下注群で優位に多く、抗体産生も筋注群で優位に高かった。またB型肝炎ワクチンにおいても同様の結果が得られている(4)

日本国内でワクチンの筋注が避けられてきた背景
日本国内で、ワクチンの筋注が避けられてきた理由として、薬剤筋注投与による大腿四頭筋短縮症が社会問題となった時代背景がある。しかし、原因薬剤として当時問題となったものの多くはワクチンではなく、抗菌薬やメチロン(スルピリン)などの鎮痛剤の筋注投与であった。この大題四頭筋短縮症の問題から、筋注それ自体が問題であるという考えが定着していったために、ワクチンにおいても日本では筋注投与に慎重な判断をとっていると考える。

ワクチンの投与法に関しては、日本国内でのさまざまな背景を考慮し決定することは重要である。しかし、筋注が避けられている日本の時代背景を改めて見直し、筋注と皮下注による近年の研究結果から筋注による有益性を改めて検討しなおし、投与法に関して再検討することも重要であろう。特に、現在日本国内でのワクチン投与法が、むしろ副反応が優位に多いとされている皮下注で推奨されていることの方が問題かもしれない。このような、むしろ皮下注による副反応増加の知識がある医師は、現状では日本国内でアジュバントを含むワクチンで筋注投与が推奨されていない場合は、発赤や結節の形成などの副反応をさけるため、苦肉の策で”なるべく皮下深く接種”することで対応している医師もいると聞く。これまでの時代背景からも、現在日本国内でのワクチン投与法が、副反応が多いとされている皮下注で推奨されていることへの早急な改善が望まれる。現状の皮下注によるワクチン投与の推奨が続くことで、むしろ局所反応増加に伴うワクチンに対する不快感や不信感が生まれる可能性も否定はできない。

文責 岸田直樹 手稲渓仁会病院 総合内科・感染症科

<参考>
1. 予防接種ガイドライン 2008年度版, 予防接種ガイドライン等検討委員会,

http://idsc.nih.go.jp/vaccine/2008vaguide/vguide08-1.pdf

2. Center for Disease Control and Prevention : Vaccines & Immunizations, http://www.cdc.gov/vaccines/
3. Cook IF, et al. Reactogenicity and immunogenicity of an inactivated influenza vaccine administered by intramuscular or subcutaneous injection in elderly adults. Vaccine 2006 ; 24 : 2395-2402
4. Wahl M, et al. Intradermal, subcutaneous or intramuscular administration of hepatitis B vaccine : side effects and antibody response. Scand J Infect Dis 1987 ; 19 : 617-621

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