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Vol.209 新型コロナウイルス感染症流行下での食生活変化と栄養指導

医療ガバナンス学会 (2020年10月19日 06:00)


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東邦薬品株式会社
管理栄養士 山崎有紀

2020年10月19日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

私は医薬品卸会社に属する管理栄養士である。契約した医療機関より依頼があると、訪問し、栄養指導を行っている。

「コロナ太り」という言葉が流行っているように、新型コロナウイルス感染症流行による生活の変化が、人々の食事や運動に及ぼす影響は大きいと日々感じている。
私が担当している栄養指導の対象患者様も、生活様式の変化により、体重や生活習慣病のコントロールに影響がでている方がいらっしゃる。

・テレワークや外出自粛による運動消費量低下
・自宅時間が長くなり間食頻度が増加
・精神的ストレス(生活の変化によるストレス、新型コロナウイルス感染の不安)の増加による過食
・自炊の回数が増え、手軽な主食類(麺類、パン、粉もの等)の増加
・買い物の回数が減り、日持ちのする主食類、加工食品の増加

などが原因となっている。

運動消費量低下とお菓子や手軽な主食からの糖質摂取量の増加が大きく影響し、体重増加や血糖悪化に繋がっている患者様が多くみられる。平均すると体重は1~1.5kg/月増加、またHbA1cは昨年末と比較すると0.1~1%と高くなっている。
特に生活習慣病の患者様は、新型コロナウイルスに感染した際に重症化しやすいと言われているため、外出を控え、通っていたジムや体育館での運動サークルも辞めた、など運動量が顕著に減少していた。
加えて、高齢者では「3ヶ月間1歩も外に出なかった」「外出すると家族に怒られるから外出できない」など過度に自粛をしている傾向にあり、栄養指導ではサルコペニア・フレイル対策の必要性も感じている。

これらは海外でも同様の報告がある。
スペインの2型糖尿病患者72人を対象に、ロックダウン期間中(2020年4月8日~2020年5月20日)での食事内容と身体活動の変化の観察を行った研究がマドリッド高等研究所のMaria Belen Ruiz-Roso氏らによって報告されている。
食事内容においては、砂糖入り食品やスナック菓子の摂取量増加がみられ、特に63歳以下の患者は、ロックダウン前と比べて砂糖入り食品が10.2サ―ビング/週から14.2サ―ビング/週と大幅に増加し、スナック菓子は0.9サ―ビング/週から1.5サ―ビング/週に増加したと結果がでている。
これらの食事の変化は心理的要因の影響が大きく、研究ではロックダウン期間中の不安レベルとBMIおよびHbA1c値の値に有意な相関があったことも示している。
また、身体活動においては、平均座位時間が2時間/週増加、歩行時間は200分/週減少したと報告している。
マクマスター大学のChris McGlory氏らの研究では、境界型糖尿病の高齢者を対象とした観察で、わずか2週間の歩数減少により、筋肉タンパク質合成の低下がみられたと報告している。

スペインでの研究で挙げられているように、ストレスや不安などの心理的要因が患者様に与える影響は非常に大きいと私自身日々感じている。今回のコロナ禍においても、特に影響が大きかったと感じる患者様は、糖尿病と精神疾患を抱えている患者様である。糖尿病患者が新型コロナウイルスに感染した場合、重症化する、と報道されたことで不安感が強くなっており、加えて、いつも通りの生活が出来ないことによるストレスが精神的に大きなダメージを与えていた。
息抜きであった友人との交流や外出が出来ないストレス、新型コロナウイルス感染の恐怖、生活環境の変化などが原因で、以前よりもストレスを抱え、そのストレスの対処法として過食に繋がる方が多くいらっしゃった。
このような中で、何とか体重を増やさないためには食事はどのようにしたらよいか相談したいが、わざわざ外出するのは控えたいという患者様が増えていた。

このような状況で、栄養指導のために来院することは患者様の負担となるため、栄養指導の頻度を少なくする、当日の栄養指導をキャンセルするなど、患者様が必要な時に栄養指導を受けられないといったデメリットがあった。
しかし、令和2年度診療報酬改定により、「外来栄養食事指導(情報機器の活用)」が設けられ、オンラインシステムや電話による栄養指導が可能となった。
この改定により、2回目以降の栄養指導では、対面である必要がなくなったため、柔軟に対応することが出来るようになった。
現在、私は、対面に加えてオンラインシステムや電話での栄養指導を積極的に行っているが、対面での栄養指導と変わることなく、患者様とコミュニケーションをとることが出来ている。

オンライン栄養指導でも、通常の対面での栄養指導と同様に、顔の表情をお互いが確認できるため、信頼関係の構築は問題がないと感じている。
また、患者様が在宅でお話できることで、いつも食べている商品を見せて下さったり、ご家族も同席いただき、調理を担当する際のご相談もうかがえるため、オンライン栄養指導ならではのメリットは非常に大きいと感じている。
診察が数カ月に1度の患者様の場合、栄養指導のみで毎月来院されることは、負担となる場合もあったため、オンライン栄養指導によってこのような課題が解消されつつあり、満足度の向上にも繋がっている。

管理栄養士による栄養指導は、「堅苦しそう」「ハードルが高い」「怒られそう」とマイナスなイメージをもたれる患者様が多いが、今後、患者様の状況や環境に合わせて、対面に拘らず、個々のニーズに合わせた栄養指導を実施し、より多くの患者様が食事・運動療法など、管理栄養士の指導から、自身に合った改善方法を実践して頂きたいと考えている。

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