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Vol.210 現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム 抄録から(1)

医療ガバナンス学会 (2020年10月20日 06:00)


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2020年10月20日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム

11月7日(土)
【開会のご挨拶】13:00~13:10

●林良造

昨年の挨拶の書き出しを見ると「この1年を振り返ると奇妙に安定した1年であった。」とある。その後の1年で世界は如何に変わったかを痛感する。
過去数年、緊張を高めてきた米中関係、緊張の高まる朝鮮情勢、分断の進む超大国アメリカ、安全保障なしには語ることができなくなった最先端技術をめぐる競争など、緊張のガスがたまっていた。そこに点火のスイッチを入れたのが、昨年末中国武漢から始まった新型コロナの問題であった。そしてあっという間に世界中に伝播し、国際的な人の移動を遮断し、各国のシステムや指導者の質を問い、各国間の緊張を一挙に高めるなど、世界を一変させた。
この協議会では、15年にわたり医療について様々な問題を取り上げてきた。そもそも世界中どこの国でも、医療の質・アクセス・コストの3点を国民の満足のいくように設計できた国にはない。我が国でも折々に大きな問題が顕在化し、改革が求められた。その時にこの協議会は、制度改革と現場の検証を組み合わせながらよりよい結果を求めて、時には大胆に、時には極めて繊細な神経を使いながら、問題提起と提案を行ってきた。
一国の医療サービスは、多くの関係者の活動の総和で成り立っている。生命を扱い、提供者と受益者の情報の非対称性が大きいことから、医療の質の確保・医薬品などの承認・医療過誤の防止体制・価格など、幅広い国家関与が張り巡らされている。そして、基礎・臨床の医学、医療に関する科学技術は世界共通で進化する一方、制度・慣行は各国の歴史や状況を反映し、各国ごとに大変異なったものとなっている。今回の新型コロナの感染の国際的広がりはこのような事情を一切捨象し、各国の提供体制・緊急時対応を比較させることとなった。それは医療提供体制の問題、公衆衛生政策の問題、治療薬・ワクチンなどの開発の問題、経済との両立の問題、緊急時対応の問題、合意形成過程の問題、執行体制の問題と多岐にわたっている。今回の協議会においても、これらの問題について正面からかつ多角的に取り上げることとなっている。この重要な時期に、本質に迫る問題提起がなされることを期待している。

 

【Session 01】震災と原発事故から10年-1- 13:15~13:40

●東日本大震災の体験を活かして
趙 天辰

今から約十年前、その日はいつもと変わらないはずだった。当時、相馬高校1年生であった私は、午後の国語の授業でちょうど小テストを受けようとしていたところだった。しかし、そのタイミングで地震が起こり、みんな避難訓練と同じように机の下に潜った。いつものようにすぐ終わるだろうと最初は思っていたが、揺れは次第に大きくなり、ところどころ悲鳴も聞こえてきた。縦揺れが激しく、一瞬体が浮いたような記憶も残っている。経験したことのない状況に、もしかしたらこのまま死ぬのではないかとさえ覚悟した。幸い私の高校は建物の損傷もほとんどなく、約2分半続いた揺れが止まった後はグラウンドに避難することができた。当時学級委員であったため、クラスの整列や先生への人数報告もこなしてい
たが、衝撃的な体験で頭は全く働かなかった。国語の小テストは自信がなかったから、実施されなくてよかったなと、グランドに座ってぼんやりと考えていた……。
東日本大震災において、相馬市は約10メートルの津波を観測し、それに続く福島第一原子力発電所事故など、被害が多く出た地域でもある。今回は、当時高校生として地震の最中どのように感じたのか、地震直後の様子、中国への一時避難、帰国後の生活、そして現在に至るまで、経験してきたことをお話ししたい。
今も現地では震災問題が完全な解決を見ない中、新型コロナウイルスという新たな脅威が世界を襲っている。ワクチン開発や遠隔医療など、医療分野はますます国という概念を超え、国際的に協力するものになってくるだろう。東日本大震災の経験を活かし、日本語、英語、中国語など、複数の言語を話せる身として、医療のグローバル化に貢献することが私の使命だと考える。

 

●医療現場における運送サービスの事例調査
-ときわ会グループにおける透析患者送迎より-
東野 祥策

少子高齢化の影響で、利用者の減少と担い手となる運転士不足の両面から、地方の公共交通の経営状況は厳しくなる一方である。もちろん交通事業者も手を拱いているわけでなく、優良法人との契約や個人の囲込み施策などのマーケティングにより事業存続に腐心している。そこでこのたび医療現場における事例として、福島県いわき市の医療法人ときわ会グループと地元のタクシー会社・内郷タクシーによる、透析患者治療の送迎サービスを調査した。
両社は「送迎業務委託契約」と「送迎業務請負契約」の2種類の運送契約を結んでサービスを行っている。前者はタクシー会社による特定運送で、2種免許の運転士とタクシー会社が保有する車両により、タクシー会社の責任のもと実施される送迎である。後者は病院が主体的に行う自家用運送の一部をタクシー会社が請負う契約で、タクシー会社は運行計画と運転士を派遣し運転を行うのみで、車両の保有や整備費の負担は病院側の責任となる。この場合、タクシー会社が得られる収入は、前者の契約と比べ1台当たり6割強にしかならないが、派遣する運転士は1種免許者でよく、とくに2種免許を持つ運転士確保が難しい現況下では、タクシー会社にとって好都合な契約であるし、地域全体にとっても新たな雇用の
創出につながっている。また病院にとっては、契約時の出費を削減できる以上に、安全運行の肝となるタクシー会社による運転士の労務管理ノウハウを活用でき、安全な運送サービスを得られるメリットは大きい。問題点としては、運転士が2種免許者と比べプロ意識が低いことが多く、乗客の個人情報への配慮のなさや、反社会勢力とのつながりも懸念されることだ。また、病院関係者と顔見知りになることで、運転士が病院職員として引き抜かれることも想定される。
このような通常の運送契約には見られない懸念事柄が、本事例では契約書面に盛り込まれていた。新しい運送サービスを安全運行で実現させるには多くの障壁があるだろうが、なかでも個人情報保護と雇用の保障には慎重に対応しなくてはならない示唆と考える。

 
●福島原発事故に伴う長期的な健康影響と今後必要な対策について
坪倉 正治

東日本大震災および福島原発事故から9年半以上が過ぎ、来年には10年を迎える。これまでの様々なデータから、放射線災害による住民への健康影響は、放射線被ばくによるものにとどまらず、生活・社会環境変化に伴い、多面的となることが多くの国際機関でも共有されるようになった。
事故から時間が経つにつれ、福島原発事故による健康影響は様相を変え、現場は刻一刻と変わっていく課題への対応を余儀なくされた。1)直後の避難対策など、影響の大きさは明らかであるが現在の直近の問題ではなく、今後のために更なる検討が必要なもの 2)糖尿病をはじめとする生活習慣病の悪化、高齢化介護需要の増大といった、現在でも長期的な影響が懸念され、その具体的な対策の継続が必要なもの3)避難指示の解除に伴い、今後新たに考慮しなければならない健康の課題など、事故の時間軸に沿って様々な課題の全貌が明らかになりつつある。
本講演では、これまでの事故の影響を俯瞰しまとめることで、今後への教訓と長期的な課題について議論したい。

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