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Vol.211 現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム 抄録から(2)

医療ガバナンス学会 (2020年10月21日 06:00)


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2020年10月21日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム

11月7日(土)

【Session 02】教育の現場と医療 13:40~14:10

●真面目系留年生、福島県相馬市で修行する
田原 大嗣

私は昨年、官庁訪問(キャリア官僚の面接試験)に失敗し、留年することになった。人生最大の挫折にぶち当たり途方に暮れる中、東京大学運動会剣道部の先輩である上昌広氏のご紹介にて、相馬市長を18年にわたり続ける立谷秀清氏のもと、福島県相馬市役所と相馬中央病院での1ヶ月間のインターンシップに参加する機会を頂いた。
相馬市は、長い歴史を持った土地である。相馬氏によって鎌倉時代から幕末までの約700年間、全国でも屈指の長期間にわたる統治がなされていた。また、地形的に比較的外部から隔絶していたことも手伝い、独自の「地域性」が育まれていた。
相馬市の公共施設は、軒並み切妻屋根と海鼠壁を携えている。立谷氏の市長就任以来、こうした建物の建設が推し進められてきたというが、まさに城下町の伝統、誇りをひしひしと感じた。
それに加え相馬市が傑出しているのは、確たる伝統を持ちながら、外部の文化や人材を広く受け入れ、交流する柔軟さや度量を併せ持っていることだ。私自身も、相馬市に受け入れていただいた一人である。これもまた、仙台藩や幕府という強大な勢力に挟まれた歴史的経緯が産んだバランス感覚であると同時に、地方の過疎化が進む現代において相馬市をより元気に、強靭にしている。
相馬市という一都市の様相を行政・医療といった2つの現場より経験したことで、様々なことを学んだ。こうしたことも、実際に現地で暮らし、市民の方々と交流を重ねた賜物である。頂いた御縁を逃さずに自分から動き、違うコミュニティを見ることで、「主体性のない、真面目なだけの人間」からの脱皮ができた。
インターンシップの最終日、市長室で立谷市長と2人お話させていただいた。国家公務員を志望していることを述べると、「君は法律に縛られる立場ではなく、作る立場であることを意識して頑張りなさい」とのお言葉を頂いた。そのお言葉を忘れずに、来年以降の新しいフィールドでも活発に動き、学ぶことを肝に銘じていきたい。

 
●コロナ禍に進めたオレンジホームケアクリニックでの研究
小坂 真琴

私は医学部5年生である。COVID-19の影響を受け、4月からしばらくは病院実習が中止となり、5月後半から7月までの実習はオンラインで行われた。9月以降はオンラインとオフライン両輪での実習が再開され、授業の形式については模索が続けられている。
私が実習中止の間に取り組んだのが、オレンジホームケアクリニック(以下オレンジ)での研究である。私は2019年2月より、オレンジでの研究発信プロジェクトに従事している。医療ガバナンス研究所でお会いした福嶋輝彦さんにご縁をいただいて、クリニックを訪問したところから始まった。
オレンジは、福井市を中心に約300人に在宅医療を提供している在宅医療専門のクリニックである。私はインターンとして、「在宅医療患者の急変時の対応」に焦点を当て、宮武寛知院長や尾崎章彦先生、西川佳孝先生の指導のもとで研究を行ってきた。
オンラインで電子カルテにアクセスし、データを収集する。そして定期的なZoomでのミーティングで内容を議論し、Facebookのメッセンジャーで原稿を何往復もしながら洗練させていく作業を繰り返し、ほぼ全てStay homeしながら論文作成に取り組んだ。
研究内容については、今年の7月に初の原著論文「Emergency transfers of home care patientsin Fukui Prefecture, Japan」が『Medicine』に掲載された。在宅医療を受けている患者で救急搬送となった症例について、その救急搬送を判断した人に応じて解析した研究である。医療従事者が救急搬送を判断した場合には、現場に行って判断したか電話で判断したかに関わらず基本的に患者は入院となっている一方、医療従事者以外が判断した場合には入院せず帰宅となるケースが有意に多いことがわかった。この研究内容については、地元紙・福井新聞にも取り上げていただいた。そのインタビューもオンラインでしていただいた。
この研究を踏まえ、救急搬送を要請する動機やオレンジに連絡することを躊躇う理由、オンラインで患者の状況を判断する上での問題点を明らかにするためのインタビュー調査(オンライン)を実施中である。
コロナ禍にあっても、こうして様々なツールや手法を通じて、多様な患者や治療、コミュニケーションに触れることができる可能性がある。また、論文を書くための議論やレビュアーとのやり取りは、普段の臨床実習において論文のサマリーを作る作業よりも相互的で記憶に残りやすいと感じた。

 
●新型コロナ蔓延下における東欧の医学部教育
妹尾 優希

私はスロバキアのコメニウス大学にて、英語で医療を学んでいる。欧州では、欧州単位互換制度(ECTS)により、欧州圏内の国々において取得した資格・大学単位が認められる。そのため、欧州の高等教育は国際基準によって評価され、教育の質が保証されている。
しかし、新型コロナパンデミックによる臨時閉鎖中の学習の足並みは揃えることができず、各国で異なる対応がなされた。多くの欧州の学生が7月頃までまんじりともせず過ごす中、コメニウス大学は国家試験を含むすべての授業と試験をオンラインで、通例と変わらない日程で実施すると3月下旬に発表した。とはいえ、授業や試験の実施方法は学科ごとに大きく異なった。
例えば、通常の外科実習では、4年生から学生アシスタントとして手術に参加し、実際に縫合したり固定器具を持ったりする。試験は、筆記試験の他に、手術中に執刀医からの質問に答えることが重視されている。しかし、新型コロナ影響下では、実習は中止され、教授が病院の救急対応で多忙であった為に、オンライン授業や試験も実施されなかった。最終的に、外科教授から連絡が一度もないまま、ある日突然、全学生に最高評価のAが与えられた。
対して、順序立てた考え方や素早い対処が問われる救急科では、架空の救急症例を用いて、教授との1対1の対話式試験がオンラインで行われた。私の試験では、バイクと車の衝突事故で怪我をした患者さんの救急処置、というシナリオが与えられた。「呼吸を確認します、息はしていますか?」と質問すると、教授が「ゼェゼェと音がして苦しそうです。血を吐いています」と答える、という具合に試験は進んだ。さらに幾つか質問を重ね、患者さんの状況を把握し、「挿管をします」と回答すると「なぜ?どのチューブを使うの?」と聞かれた。通常時は筆記試験が行われるだけの為、オンライン試験の方が充実していたと感じた。
妥協もズルも簡単にできてしまうオンライン試験・授業の不正防止に、監視という対策をとるのではなく、異例の事態でも本質を見失わずに充実した学習の実施方法を考える参考になればと思う。

 
●コロナ鹿児島より地域教育の現場から
島津 義秀

鹿児島県は、室町期末期より時の領主たちが青少年の育成に熱心であったことが伝えられている。当時の領主・島津忠良が子供たちに向けて作った「いろは歌」は、頭にい、ろ、は…の文字を冠し、人倫の道を説く道徳的な内容の和歌であり、47首存在し、今日まで伝えられている。各郷において、今日に見られるような子供会程度のまとまりで、特定の指導者を有せず、先輩たちが後輩を鍛え指導する自主的集団が数多く作られた。この制度は「郷中教育」と呼ばれた。
江戸時代後期になって、藩主・島津重豪はこの地域教育現場以外に、藩校「造士館」を創立。城下士の子弟の8歳から22~23歳までの入学を許し、四書五経をはじめ、和
漢学、書道、武術など多岐にわたって教育を行った。また、これとは別に天体観測や暦の研究施設となる明時館、医療技術を養成する医学院を創設した。
一方、明治になって、西郷隆盛は「私学校」を創立。ここでは軍事教練を主とした。明治10年勃発の西南の役の発端は、この私学校生の暴発によるものとされ、2,023名(ほとんど全ての私学校生)が、西郷とともに殲滅した。
ここで鹿児島の地域教育の担い手がいなくなったため、長老たちがかつての郷中教育を模して再興したのが「学舎教育」と言われる。しかしながら、1985年頃には、学習塾の台頭、スポーツ少年団などへの加入者が増え、一気に衰退していった。
鹿児島県は当時、教育立県などとも呼ばれたが、県立の旧ナンバースクール、私学ではラ・サール校などからの国立上位大学進学主義が定着、地域教育との共存はますます難しいものとなっていった。
コロナ禍の今、中央主権志向の強い土地柄で、県教委としては何ら検討もせず政府の方針等に従って一斉休校を行い、他方、大学教育においてはいまだに全ての学生に対しリモート講義を行うべきネット環境の構築がされていない。県の教育担当部署の思考停止、あるいは、地域経済力の脆弱さから来る経済格差が、教育環境整備の格差にも大きく反映しているように思える。

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