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Vol.215 現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム 抄録から(5)

医療ガバナンス学会 (2020年10月23日 06:00)


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2020年10月23日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム

11月7日(土)

【Session5】コロナ3 メディアの立場から 16:00~16:40

●制度疲労によるハウリング
川口 恭

業界外の人からすると信じられないかもしれないが、マスコミの人間の多くは、ウソを報じたらいけないと思っているし、ウソを報じないよう教育される。
ただ、他のメディアに先を越されたくないという価値観があり、また新聞で言えば1日2回発行されるという時間感覚で動いている関係上、誰が見ても正しいと分かるだけの材料を揃えてから報じることは現実的と言えず、ある程度の蓋然性で「ウラを取」れたら良しとしている。
私が新人新聞記者時代に受けた教育では、情報の「ウラを取る」のは、主に然るべき肩書を持った人間(大抵は当局者)からお墨付きをもらうことだった。つまり極めて属人的行為だった。新聞記者でなくなって15年以上経つけれど、それより効率の良い方法を思いつかないので、今でもあまり変わっていないのでないかと考える。
この弊害は、当局にとって都合の悪い情報が出づらくなることで、記者クラブに属さないメディアなどから散々批判されてきた。それでも報じる対象が人間社会のこと、特に国内で完結していることだけならば、そんなにボロは出ない。
ただ、そもそも人が正しさを保証するという考え方は、科学と相容れない。COVID-19のように、合理的な仮説をいくつも立てて、事実で検証しながら取捨選択していく、そんな科学的思考で対処するのが適していそうな自然現象が相手だと、眼を覆いたくなるような惨状が出来する。
さらに困ったことに、マスコミが頼りにするような当局者たちは、睡眠もロクに取れないような激務であることが多く、社会の雰囲気を掴むのに新聞を頼りにしていることが多い。つまり、ごく限られた範囲内で情報がグルグル回って、当局者の自己肯定感を高めていく。ハウリングだ。
太平洋戦争の大本営発表と新聞報道の関係も似ていたのだろう。完全に敗戦するまで、この状況は続くのかもしれない。
●ジャーナリストの生理学
加藤晴之

「ジャーナリストにとって、ありそうなことはすべて真実である」
「ジャーナリズムは、嘘を並べ立てている時が最も美しく崇高であるという点で、人妻に似ている。自分の嘘を信じ込ませるまで、相手を離そうとせず、しかも、この戦いにおいて最高の美質を発揮する」
「こと思想に関する限り、誹謗と中傷に対する懲治警察は存在しない」
これは、週刊誌というヤクザな稼業から足を洗った小生の懺悔ではなくて、フランスの文豪・バルザックが書いた「ジャーナリストの生理学」の一説。この本を翻訳した鹿島茂さんは、「本書のジャーナリズム分析がいかに今日でも有効か、その点について触れておかなければならないが、これについては、『朝日新聞』の例の虚偽報道事件もあり、私がいちいち指摘するまでもないだろう」と解説している。
例の虚偽報道というのは、朝鮮人女性を慰安婦にするために強制連行したという吉田清治の証言を「ありそうなことだから真実だ」として報道したことをさす。朝日は、リクルート事件で倫理の一線を超えた政官業を厳しく追及する調査報道の戦果をあげた同じ年、環境保護を訴える記事で自作自演の「サンゴ礁捏造報道」をやらかしている。ジャーナリズムは、花道でスクープの六法を踏みながら、つねに後ろ暗いヤバさを背負っている。
問題はここから。吉田騒動でもサンゴ礁事件でも、朝日の社長は辞任している。だが、いまや凋落するマスメディアに替わりネットメディアが台頭し、人間一人ひとりが「朝日」になった。
有象無象・味噌クソ一緒のアノニマスな「情報」が毎日洪水のようにあふれ出て、濁流に浮いている情報のどれが味噌でなにがクソだかわからない。「懲治警察」不在の世界では、だれも、誤報の、あるいは捏造の、さらには根も葉もない誹謗中傷の責任をとらない。ファクトもフェイクも人々に伝わるうちに変異して情報混乱に拍車をかける。これをインフォデミックと言うそうだ。
かくして、covid-19パンデミック下の日本では、トイレットペーパーが店頭から消え、女子プロレスラーがSNSの中傷によって自殺に追い込まれた。リベラルの論客の白井聡さんや内田樹さんが、暴言を吐いたり、ちゃらけたTwitterでやらかしてしまうのを見るにつけ、インフォデミックの毒は新型コロナ並みに感染力が強く性質が悪そうだ。
はて、それではいったいどうすればいいのか。元ヤクザな編集者は、PCR検査を逃れつつ除菌アルコールと手洗い石鹸を日々ため込んでいる。

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