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Vol.217 現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム 抄録から(7・8)

医療ガバナンス学会 (2020年10月26日 06:00)


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2020年10月26日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム

11月8日(日)

【Session 07】医療と社会 10:00~10:15

●医療と社会
土屋了介

人は一人では生きられないので、人の営みは社会の中で行われる。医療は人の営みの一部である。したがって、医療は社会によって規定される。そして社会は多様である。多様な社会には多様な医療が必要となる。
厚生労働省は「地域医療構想」の策定を都道府県に命じています。策定にあたっては、親切にも「地域医療構想策定ガイドライン」が出ています。これらを参考にしながら今回、「地域医療とは」「地域医療構想とは」「健康と医療」等々の課題について、皆さんが所属する地域社会はどのようなものであり、その社会で営まれる医療はどのような医療であるのか、参加される皆さんと共に考えましょう。
課題に対する第一段階の回答は、「社会は多様であり、そこで営まれる医療も多様である」でしょう。しかし、では具体的に、どのように地域を定義し、地域のどのようなデータや事実をエビデンス(根拠)と捉え、データや事実を集積・解析していくのか。課題の抽出、解決策の策定、実行計画の策定と実行、検証、修正とその実行等々について、考える時間としたい。

 

【Session 08】震災と原発事故から10年 -2- 10:15~10:40

●災害が福島県の医療者に与えた長期的な影響
樋口朝霞

私は東北出身の看護師で研究者だ。東日本大震災当時、まだ学生だった私は無力感を感じながらも、いつかは被災地の役に立ちたいと願っていた。ご縁があって福島県での活動の機会を得た。震災後の住民の健康問題については、ストレスの増加、精神疾患の悪化、糖尿病や高血圧などの生活習慣病の悪化、被ばくの問題など、いくつも報告されている。これらの健康問題に避難が大きな影響を与えたことも分かっている。震災後の医療需要の増大に対応した医療提供者は、その地域の住民がほとんどで、当然ながら一部は避難していた。原発事故直後は自治体も避難者の把握が完全にはできていなかったこともあり、避難を伴った医療提供者側の状況は明確に報告されていない。医療従事者が深刻な不足状態に陥ったことが報告されているが、一部の施設の報告に止まり、全体像は不明のままである。
そこで本研究では、福島県で働く医師数を、避難を考慮した人口当たりに変換して、原発事故の直接の影響を受けていない隣県2県を対照として震災前後で比較した。これにより原発事故が福島県の医師の配置に与えた長期的な影響を調査した。
日本の医師は、医学部の定員の増加などの医師数増加政策と人口減少で、毎年増加傾向である。しかし、福島県の人口当たりの医師数は震災前の2010年と比較して2012年ではわずか0.4%しか増加しなかった。対照地域では4.0%増加していた。原発事故の直後、福島県では医師数増加政策がうまくいっていなかったことが分かった。しかし、2010年と2018年を比較すると福島県では13.2%増加した。これは対照地域の12.6%の増加と同程度であった。原発事故は福島県の医師数と分布に短期的には影響していたが、長期的には回復した。ところが、福島県内の地域別、性別、年齢、診療科別にサブ解析してみると、原発事故の影響を受けやすいのは、強制避難区域の周辺地域、女性、若年層、研修医など、特定の属性の医師であることも明らかとなった。この報告とさらに看護学生、看護師への影響調査の結果も併せてご紹介したい。

●福島県いわき市の地域医療を若手から盛り上げる
杉山宗志

私は、福島県いわき市を中心に、病院や介護施設、教育施設などを運営するときわ会で働いています。大学、大学院と建築を学んだ後、新卒でときわ会に入りました。もともと福島には縁もゆかりもありませんでしたし、建築学科出の“普通” のルートからも大きく外れた道でした。こちらに来て5年半。いわきはすっかり馴染みの土地になりました。就職活動時、「5年後がわからない方が良い」と考えていたとおり、確かに当時想像もつかなかったようなことをしています。 現在は、ときわ会の中核病院である常磐病院の事務部副部長をしています。病院をどう運営していくのが良いか、皆で考えながら、あちらこちらを走り回る毎日です。今までにグループ本部の仕事や常磐病院長の秘書も担当してきましたが、その中でも研修医や医学生の受け入れについては、継続して担当しています。
福島県いわき市は、全国の中核都市の中でも人口あたりの研修医マッチング者数が少ない地域です。この土地で育つ医師が少ないということです。もともと医師不足であり、医師の高齢化も著しい地域で、長期的な地域医療の維持を考えると、解決すべき問題です。一人前になった若手医師が馴染みのない土地に都合よく来てくれることなど、ほとんどありません。
常磐病院ではこれまで、いわき市医療センターや南相馬市立総合病院、板橋中央総合病院と連携し、初期研修医を受け入れてきました。受け入れ数は年々増えてきています。医学生も、国内外から多く研修に来てくれています。若い研修生が来ると、院内の空気は大きく変わります。
地域医療を維持するため、ときわ会では研修生の受け入れをさらに拡大できるよう取り組んでいきます。

●福島第一原発事故によって生じた緊急病院避難の功罪
澤野豊明

健康弱者は、災害により緊急的に必要となる避難で大きな健康的影響を受ける可能性がある。健康弱者における避難による健康影響を最小限にするため、絶対不可避な緊急的避難を強いられた場合の健康弱者における健康影響を明らかにすることは、重要な課題だ。
2011年3月に起きた福島第一原発事故では、3月11日に半径3km圏内に、翌日以降には半径20km圏内にまで避難指示が発令され、付近の住民は緊急的な避難を強いられた。この未曾有の事故では、事故発生時点でどの程度の災害規模になるかの予想ができず、最悪の事態を想定し避難が行なわれた。そのため、当然高齢者や病院入院患者を中心とした健康弱者も多くが避難を強いられた。一方で、例えば福島第一原発から20~30km圏内の老人介護施設では、事故による突発的な避難によって現在までに90日以内の死亡率の上昇が示唆されているものの、20km圏内の医療関連施設からどのような避難が行なわれたかについてはあまり知られていない。
福島第一原発から5km圏内には3つの病院があったことが知られている。このうち双葉病院では避難が遅れ、インフラの供給がストップする中で多くの患者が取り残され、336人の入院患者のうち実に39人が亡くなった。双葉厚生病院では災害対策本部との連携が比較的スムースに行なわれ、避難開始24時間で全入院患者と医療スタッフの避難が完了したにもかかわらず、避難完了までに患者4人が命を落とした。このように健康弱者における緊急避難では、準備が不十分であると、時に災害の直接的な影響(この場合は放射線被曝)を上回る死亡リスクがあると考えられる。
放射線災害では、事故が起きた原発の近くにある病院や介護施設からの避難は原則的には避けられない。健康弱者に対する避難の潜在的な健康への影響を認識し、災害対策方針に反映することが不可欠だ。

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