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Vol.222 現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム 抄録から(12・13)

医療ガバナンス学会 (2020年10月30日 15:00)


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2020年10月30日 MRIC by 医療ガバナンス学会 発行  http://medg.jp

現場からの医療改革推進協議会第十五回シンポジウム

11月8日(日)

【Session 12】コロナ6  社会システムデザイン 13:30~13:45

●COVID-19システムをデザインする
横山禎徳

COVID-19は「社会システム・デザイン」の課題であるという視点からとらえると、いろいろな出来事がわかり易くなる。すなわち、医療システムと公衆衛生システムと の両方が絡んだ状況なのだ。しかし、専門家も素人も、その二つのシステムを峻別し、その上で統合するというシステム的思考に欠けているため、混乱が生じている。日本 の対応が悪いという批判が色々あるが、少なくとも欧米諸国がとりわけ優れているわけではない。
医療と公衆衛生のシステムは目的と役割が違うのだが、それを混同した議論と対策が行われてきた。医療システムはいわばミクロ、すなわち、個々人の状況に応じ、病状の改善を目指す。従って、個別診断の精度が大事である。一方、公衆衛生システムはマクロ、すなわち、個々人の病状よりは、感染者数の拡大スピードをコントロールし、エピデミックの収束を目指す。従って、個々の精度より、鮮度、すなわち、迅速な全体把握が重要である。こういう視点からPCRの役割を捉えるべきだ。
医療、公衆衛生の両方の「社会システム」は、ステップで成り立っていることを理解するのも大事だ。ステップ間にボトルネックがあればシステムは機能せず、「崩壊」する。「医療崩壊」という表現がはやったが、 日本の医療システムは「逼迫」したが「崩壊」はしなかった。ボトルネックを理解し、その発生を避けたのだ。
将来予測が盛んだが、「あれからこれへ」とか「ニューノーマル」というような単純なことは起こらないだろう。そうではなく、表層、中層、深層の三層のレイヤー構造で考えるべきだ。表層レイヤーは状況が収まるとこれまで慣れ親しんだ生活に回帰していくだろう。中層レイヤーでは新しい状況、特に、ディジタル化、オンライン化に即応した「社会システム」のサブシステムが出現するだろう。そして、深層レイヤーでは価値観の変化とともにゆっくりと新たな時代精神が醸成されるだろう。理不尽さを経験した無力感と共に、グローバリズムとナショナリズムの相克に対する現実的な思想、そして、結局、「あれからこれへ」ではなく、「あれがあるからこれがある」という許容度のある思考になっていくだろう。
そのような状況に対して2つの「社会システム」をリデザインすべきである。よりディジタル化した公衆衛生システムと、キャパシティに余裕と柔軟性を組み込んだ医療システムである。そしてその違いをちゃんと認識できる社会を醸成することである。

 

【Session 13】コロナ7  研究と社会 13:45~14:45

●コロナ渦で浮き彫りになったカエルの楽園 -感染症、災害、有事に強い都市づくり-
伊藤悠

「平和」という穏やかな空気に流されてきた日本という国家は、このコロナとの戦いの中で、高い代償を払わされることになった。「そなえよつねに」――ボーイスカウトがモットーとするこの言葉の意味を、私は砂を噛む思いで味わった。
コロナとの戦いは戦争である。災害対策であれば通用する国民の自助・互助・共助だけでは、乗り越えられない難敵であることが分かってきた。災害なら国土の癒しとなる時間の経過も、感染症においてはむしろ被害の拡大を意味し、無作為に流れる時間ほど国民生活を破壊するものはない。
もう一度言うが、コロナとの戦いは戦争である。くどいほど繰り返すのは、その認識が欠けていると、より大きな犠牲を国民が払うことになるからだ。現在、日本は死者こそ少ないものの、ファクターXがなければ、初戦から連戦連敗であったと言っていい。戦争に勝つ条件は5つあると言える。備えができているか。作戦が練られているか。戦況の変化に応じて作戦が見直されているか。国家の戦略が国民に説明されているか。その全てを統括する指導者がいるか。
コロナが日本を襲った時、最初にあらわとなったのは、感染状況を正確に把握する システムのなさであった。都庁職員が電話 とファックスを駆使して、保健所と医療機関から情報を収集する姿は、昭和の大戦までタイムスリップした感があった。国の不備である。積極的なPCR検査の導入までに かかった時間を見ても、作戦が練られ、戦況に応じて作戦が見直されたとは言い難い。
一方で、全国の都道府県知事は、国からの補給が十分ではない中でよく戦っている。武器弾薬尽きながらも奮戦した姿は、やはり何かを想起させる。コロナとの戦いが、どんなに少なく見積もっても国民の生命財産を犠牲にする戦争である以上、国家が、国家権力の名のもとにおいて、練られた作戦で、国民的犠牲のトリアージを行わなければならない。指導者は批判や非難を恐れてはいけない。その恐れが、被害を拡大させ、より多くの国民の悲劇を招き入れることになるからだ。
平和に浸かれるのはいいことである。しかし、平和に溺れて、我々政治家や官僚が「カエルの楽園」となっては、国民を外敵から守ることができない。そなえよつねに、である。
●タコツボ文化とコロナ禍
岩本愛吉

日本の文化をタコツボに喩えたのは、政治学者の丸山眞男で、約60年前のことである。19世紀後半に開国した日本は、ちょうど学問の専門化、個別化が非常にはっきりした形を取るようになった段階でヨーロッパの学問を受け入れ、個別化した学問体系を大学などの学部や学科の分類として制度化した。専門化された状態で学問が入ってきたため、学者は個別化された学問の研究者(専門家)だということが当然の前提となった。学問を根底で支える思想あるいは文化から切り離され、「大学教授を含めた学者が相互に共通のカルチュアやインテリジェンスでもって結ばれていない、共通の根の無いタコツボになっている」(『日本の思想』)。
日本政府は、明治2年(1869年)にドイツ医学を採用すると決め、ドイツ人教師を招くとともに、多数の医学関係者をドイツに留学させた。
明治から大正期の巨人達、北里柴三郎はコッホ、青山胤通はウィルヒョウ、秦佐八郎はエーリッヒの研究室で学んだ。1887年にドイツから帰国した青山は、東京大学医科大学校(現東京大学医学部)教授となり、1892年に帰国した北里は福澤諭吉の援助で新設された大日本私立衛生会附属傳染病研究所(傳研)の初代所長に就任した。医学界においても、日本は分化したサイエンスを直に吸収した。演者の専門領域である微生物・感染症の分野で振り返ると、大正時代に複数の学会が纏まって設立されている。終戦後、そして1980年代に、たくさんの学会がクラスターとなって成立している。こうして作られてきた歴史は、きっと今回のコロナ禍にも大きな影響を及ぼしているはずである。新型コロナで明らかとなった社会のシステムを変えるためにどこまで役に立つかは分からないが、歴史を振り返りつつ、西洋と日本を比較しながら考察してみたい。
●COVID-19禍における解決志向リスク学の役割
村上道夫

発表者は2011年以降、福島災害に伴う様々な心身及び社会的な健康リスクに関する課題に取り組んでいる。その中で、どのような課題に取り組むべきか、という課題自体に取り組み、設計科学(社会のための科学、目的や価値の実現をめざす科学)の深化の必要性を感じている。社会的対策の要求に対応可能な、事前の、そして迅速なリスク評価が必要不可欠である。その際、どのようなリスクや問題があるのかといった問題志向のリスク評価に加えて、どのような対策がリスク低減につながるのかといった解決志向のリスク学が重要である。また、多様な課題に取り組むためには、様々な分野の専門家とつながる学際性と、多様な研究機関の研究者で構成されるVirtualInstituteが求められる。
COVID-19禍においては、Massgatheringeventに関する解決志向型のリスク評価を進めている。本プロジェクトには、リスク学、環境学、医学、統計数学、理学など異分野のメンバーが機関を超えて集結している。具体的には、オリンピックなどの人が集まる場における感染リスク及び対策の効果の評価を行っており、科学と技術に裏打ちされたデザインを社会に実装することを目標としている。
●コロナウイルス感染症とデータガバナンス
井元清哉

私はヒトゲノム情報のデータ解析を専門とする研究者であるが、2009年のパンデミックH1N1インフルエンザをきっかけに、新興感染症についての研究に取り組んでいる。H1N1インフルエンザの流行時には、感染拡大のシミュレーションについてSIRモデルのようなコンパートメントモデルや東京を模したエージェントベースモデルを構築し、どのような人達にワクチン接種を優先させれば感染者数のピークを下げ、ピーク時期を遅らせることが出来るのかなどを解析していた。約10年の時間が経ち、今回の新型コロナ(SARS-Cov-2)ウイルスパンデミックにおいては、私の研究分野であるゲノム科学において全く異なる状況となった。
この10年間でゲノムシークエンス技術は驚くべき発展をみせた。いわゆる次世代シークエンサーの開発によって、DNAやRNAの配列解析のみならず、T-細胞受容体やHLA遺伝子のような免疫反応に関わる複雑な構造を持つ遺伝子も、低コストで迅速に解析出来るようになった。この分子生物学的計測技術の発展を背景に、感染症対策にはサーべーランスに加え、感染症を克服するために患者のウイルスゲノム・ヒトゲノムを調べ上げ、データとして蓄積することが求められている。このデータなくして治療法やワクチン開発の熾烈な国際競争は勝ち残れない。また、そのような分子生物学的データを患者の感染行動のデータ、患者の臨床情報や病態の変化、薬剤の効果などと紐付け、ビッグデータとして解析出来るプラットフォームを構築することが必要不可欠である。
そのためには、さまざまなデータの所有権、個人情報の問題などを解決するためのデータガバナンスが必要となると考える。本講演では、感染拡大シミュレーションや分子生物学的研究において、今後の感染症対策に資するデータガバナンスについて議論したい。

 

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